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プロローグ:鏡の向こうから呼ばれる声

静寂を切り裂くような、高い金属音が響いた。

 城戸真司は、スマートフォンの画面を拭きながら、ふと動きを止めた。

 都内のカフェ。窓際の席で、彼は取材ノートを整理していた。数日前から追っている「公園での集団失踪事件」。目撃証言は一つもない。ただ、現場には決まって「割れた鏡の破片」が落ちているという。

「……なんだ、今の音」

 耳鳴りではない。もっと物理的で、もっと禍々しい。

 真司は顔を上げ、カフェの大きな窓ガラスに目を向けた。街を行き交う人々、反射する初夏の光。そこには、いつもの退屈で平和な日常が映っているはずだった。

 だが、違った。

 窓ガラスの中に映る街並みが、一瞬だけ、白黒の砂嵐のようにノイズを走らせた。

 そして、ガラスの向こう側から、自分を見つめる「何か」と目が合った。

 赤い、龍の眼。

「……あ……」

 激しい頭痛が真司を襲う。

 脳裏に奔流のように流れ込んでくるのは、自分が知らない、いや、知っているはずのない記憶。

 炎。燃えるビル。カードデッキ。戦い。そして――自分を庇って息絶えた、黒い服の男。

「思い出せ……」

 どこからか、掠れた声が聞こえた。

 気がつくと、真司の目の前には、見覚えのない「カードデッキ」が置かれていた。金色の龍が刻まれた、鈍く光る紋章。

「これを、使っちゃだめだ。……使っちゃいけないんだ」

 本能が拒絶する。しかし、窓ガラスの奥で、巨大な蛇のような怪物が、今まさに歩道を歩く親子に牙を剥こうとしているのが見えた。

「やめろッ!」

 真司は叫び、窓ガラスを叩いた。

 その瞬間、世界から音が消えた。通行人は凍りついたように動きを止め、街の色が反転する。

 鏡の中から、ゆっくりと「彼」が歩いてきた。

 漆黒のコートをなびかせ、冷徹な眼差しでこちらを見る男。秋山蓮。

 しかし、その手には――真司の持つものとは異なる、青い翼の紋章が刻まれたデッキが握られていた。

「また、お前か」

 蓮はそう呟くと、真司を突き飛ばすようにして窓ガラスへと向けた。

 その手には、既にあの「変身ベルト」が装着されている。

「……死にたくなければ、戦え。城戸」

 蓮の言葉と共に、鏡の中へと吸い込まれていく感覚。

 城戸真司の、二度目の「最悪のサバイバル」が幕を開けた。


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