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第7話「好きだからつい肌を……」


「あ……うん。大丈夫です」


「そっか。そういう口調、珍しいね」


そう言われてもウェリナらしい喋り方を知らない。


悪女と呼ばれていたからといって、つま先まで悪女らしいわけではないだろう。


私が想像するウェリナと、実際のウェリナにどれほど乖離があるのか。


しょせん、私と彼女の接点は階段で突き落とされたという、嫌な記憶くらいしかなかった。


(覚えてないだけ? ウェリナと話したことってあった?)


疑問に眉をひそめていると、レクィエスが上着を脱いで私の肩にかける。



「? レクィエス?」


「あんまり人に見せないで。さすがに俺だって嫉妬する」


カァッと頬が赤くなった気がした。


ウェリナに対し、彼は直球だ。


好意を隠すこともなく、二人の関係性への違和感は増すばかり。


レクィエスの好意の示し方は圧倒的に片想いの言葉。


その割にキスをして、それ以上の関係があると仄めかす。


真っ直ぐな愛情を向けられるのは女としてうれしい反面、ファルサとしては複雑さに憂いてしまった。


この熱も、ウェリナがあざといから高くなるのかと思ってしまうほどに。



「……熱いって言ったらレクィエスはどうする?」


これは確かめるため。


いつまでも曖昧にしておけるものでもない。


嫉妬するなら、彼がどれだけウェリナに対し、手を進めるかを知った方がいい。


あることないことで悪いレッテルを貼るのはさすがにウェリナといえど、罪悪感があった。



心臓がドキドキして、脳内がマヒしていく。


こんな恥ずかしいことを口にするとは、悪女の顔を得た瞬間に人は変わるものだと皮肉に笑んだ。


「なんだ、体調悪かったんだ。言ってくれてよかった」


「それってどういう……」


外套に隠れるようにして、私と彼の唇が重なった。


星空がきらめくなか、彼の瞳は一等星よりもまぶしい。


挑発の結果が愛を押し出され、困惑に私は身動きがとれなかった。


唇が離れると互いから熱い息が漏れる。


まつ毛の長さに、熱のこもった瞳、どれも焦がれてしまう好きな人。


――私の旦那様――。


「少し、我慢できる?」


「んっ……」


乱れたピンク色の髪を耳にかけられ、指先が触れるだけで声が漏れてしまう。


苦しくてたまらないはずなのに、私はレクィエスから目を離せない。


理性ではわかっている。


この身体はウェリナのもので、魂はファルサのものだと。


ここには二人のファルサがいる。


清らかな聖女様と、悪女の顔をした聖女の成れの果て。


嫌なのに、私は熱さに負けてレクィエスを求めてしまった。



***


ここは断頭台。


そこに立つのは悪評が重なり、聖女殺害未遂であっという間に処刑となった悪女。


魔物が現れて疲弊していた民は、悪女が裁かれることに歓喜した。


日頃の不満をぶつけるにはちょうどいい相手だった。


被害を受けた私は遠くから見ているはずだったのに、なぜか悪女となった彼女と視線が重なった気がした。


”もう嫌だ。愛してごめんなさい”


そう――あなたから聞こえたような……不思議な夢だった。







太陽の日差しに起こされ、身体を起こすとあちこちの関節が痛んだ。


頭痛に額を抑え、となりを見ると裸のレクィエスが眠っている。


(……肌を重ねてしまったのね)


ぼんやりとしか覚えていない。


それくらい熱くて、声がかすれて、何がなんだかわからなくなっていた。


首の下をみれば、またあちこちに赤い痕がついている。


さすがに触れてみれば痛感するものだ。


ウェリナはもう何度もレクィエスと肌を触れあわせている。


レクィエスからの情熱を知れば、簡単には否定できない。


女の喜びとみじめさに、私はシーツをかきよせて膝を丸めた。


「ウェリナ? 起きたんだ。ごめん……俺まで寝ちゃって……」


目を覚ましたレクィエスが上半身を起こすと、首筋と鎖骨がはっきりした姿に胸がわしづかみにされる。


見慣れているはずだが、割れた腹筋は何度も横目に見てしまう。


服を着れば細身なのに、脱げば筋肉で引き締まっている。


なんとも女性泣かせな体格だと思い、私はさらに恥じらった。



どうしてこうも客観的に感じるのだろう。


ファルサとして何度もこの人と触れあったはずなのに、やけに生々しい。


頭上から笑い声がして、シーツに半分顔を隠す。


「おはよう。身体は痛くない?」


「いっ……たくない。……聞かないで」


布団越しに抱きしめられるとむずがゆい。


恥ずかしさと居たたまれなさ、後悔に押しつぶされそうだ。


私の恥じらいか、ウェリナの羞恥か。


見られたくないと声は消え入りそうになっていた。


「ウェリナがいるとよく眠れるんだ。……出来ればもう少し、寝ていたい」


そんなことを言われて拒絶できるほど私は強くない。


いくら彼を好いているからといっても、この身体はウェリナのものだ。


肌を許してしまうとはあまりに愚か……。


まるで私が愛されているかのような錯覚に陥りそうだった。


心の矛盾を感じながらレクィエスに手を伸ばして抱きしめる。


「いいよ。ちゃんと、寝て」


「……うん」


レクィエスが目を閉じたので、私も同じように目を閉じた。


ウェリナの瞳に映していいものかわからない、彼の身体に刻まれた傷。


呪われた王子と呼ばれ、何度も命の危険にさらされたことで残ってしまった古い傷だ。



ファルサとして共に旅をしていた頃、幼い頃の話を少しだけ話してくれた。


何度も死にかけたと笑って語るレクィエスが痛々しくて、愛おしくて、抱きしめずにはいられなかった。


それがファルサとして抱いた私の恋心。


(休むのが下手ね。……ウェリナがいれば眠れるんだ)


それだけ安心しているのだろう。


言葉から感じるのはたしかな愛。


一方的なもの。


(ウェリナはレクィエスのこと、どう想っていたんだろう。これは両想いじゃないってわかるのに……)


愛を口にしていたのはレクィエスだけ。


ウェリナが彼を拒絶しがちだったのだと、察しがついた。


気持ちがないのに抱かれていたのか。


その本心はいまだに見えてこなかった。

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