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第60話「あの子に出逢えるまで」

「いやぁ、アストルム様全・快っ!」


怪我をした兵士を城で休ませ、困窮した民には配給を行なう。


家をなくした者たちのために、東の都・オリエンタルの宿や公共の建物を活用して一時避難先とする。


村ごと破壊されてしまった者もおり、完全復興までは時間がかかりそうだ。


そんななか、率先して指揮をとっていたアストルムが城に戻ってくる。


ちょうど私とレクィエスも城におり、たまたま部屋にいた時にアストルムが調子よくやってきた。


「なんだ、元気そうじゃん。もっと傷心状態になってるかと思ったのに」


「うるさい」


アストルムの嫌味な発言にレクィエスは目を尖らせる。


これはアストルムなりの心配の仕方だが、レクィエスには直球じゃないと伝わらない。


まだまだ兄弟仲はピリピリしたままだろうと、苦笑いで誤魔化すしかなかった。



「お嬢様っ!」


「イリア!」


アストルムが開けっ放しにした扉からイリアがひょっこりと顔を出す。


私は大好きなイリアに駆け寄り、キャッキャと両手を合わせて飛び跳ねた。


イリアは魔物との戦いが終結した後、アストルムについて怪我人の手当てなどサポートに回っていた。


ファルサもそれにくっついていたが、いくら聖女でも一日に相手できる人数には限りがある。


重傷者を優先し、軽傷のものは救護班にまわす。


そうして少しずつ復興を進めていた。


「お嬢様。手の傷、治さないのですか?」


「うん。これはいいの」


私の手のひらには縦に大きく傷が残っている。


あの子に刺された傷だ。


ファルサに治そうかと聞かれたが、それを断り、今は包帯を巻いて自己治癒に任せていた。


これは教訓であり、私が人として生きるという決意だ。


(私は魔女にならない。たぶん、ファルサだけでいいんだ)


長い時間のなかで、ファルサはこれからも聖女として旅をするだろう。


魔物の襲撃で目立ってしまったが、少しずつ姿をくらまし、風のうわさで聞く程度に気ままにやっていく。


ファルサに聞いたわけではないが、なんとなく彼女はこう生きるだろうと想像した。


「さみしいです。……住むところが決まったら手紙をくださいね?」


「うん。イリアにはちゃんと知らせるわ」


私とレクィエスは城を離れ、どこか遠くで静かに暮らすことを決めた。


お互い、何かに縛られるのは嫌だった。


ここには”英雄”も”悪女”も必要ない。


二人でゆっくりと、穏やかに生きていこうと約束した。




翌日、早朝にひっそりと城を後にする。


城下町を出る前に、あの丘に立ち寄って相変わらずキレイに咲く花を見上げた。


「そういえば花を食べたって。ここってようするにお墓ってこと?」


「捉え方次第ではそうかも」


(本当に捉え方次第……。この花の下にははじまりの魔女が埋まっている)


もちろん、とっくに肉体は失われているだろうが。


魔女が次の命となり、花を咲かせた。


これは初代国王が残した、何かが起きたときの助け船だったのかもしれない。


魔女の母と妹をもつ初代国王だからこそ、知る限りことがあの本には記されていたそうだ。


それももう必要ないと、レクィエスは何の執着もなくアストルムに渡して清々していた。


とんでもない置き土産だと、思い出して笑った。


「ここからはじめよう。ただのウェリナとレクィエスとして」


そう言って彼はポケットから小さな箱を取り出し、中を開いて見せた。


やさしい空の色に私は胸にこみあげるものがきて、両手で口元を隠して涙した。


「結婚、してくれる?」


「はいっ……! 結婚、します」


これからは夫婦としての旅路だ。


風が吹き、白い花びらが丘を下って城下町に彩りを添えていた。



――これは、どれほど遠い場所に来たことか。


広い草原と、小さな集落があるのどかな地。


「うっ……うぅ……」


「ウェリナ? ウェリナ、どうした⁉」


「いた……。お腹、痛い……」


突如、鈍痛が襲いかかってきて歩くことがしんどくなり、その場に座り込む。


滝のような汗を流す私にレクィエスはうろたえ、どうしたものかとあたりを見回していた。


「大丈夫かい!?」


近くを通りかかった初老の女性がハンカチを取り出し、汗を拭ってくれた。


普段は冷静にことを進めるレクィエスが、珍しくオロオロして困惑している。


女性はすぐさまレクィエスに私を背負うように言うと、集落にある診療所に連れていってくれた。


「おめでとうございます。妊娠されていますよ」


ベッドの横に置かれた丸椅子に座り、医者の言葉にレクィエスは目を丸くして固まった。


ようやく痛みが引いてきて、私はレクィエスの袖をくいと引っ張った。

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