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第56話「母になること」

「あなたが愛さないなら私がめいっぱい愛すわ! レクィエス、あなたが愛しているのは私でしょ!? 私はあなたもこの子も守るわ! 私は悪女なんかじゃない!」



私はウェリナ・リガートゥル。


縄で縛られ続けた女だ。



「私はレクィエスの恋人であり、未来でいっしょにこの子を愛するの! いっしょに愛し方をさがすんだから!」



剣が手から滑り落ちる。


肩をおとし、彼は震えながらゆっくりとこちらに振り返った。


あの時の少年と同じ顔をして、涙を流して私の手に指先を重ねた。



「うん。俺は愛を知りたい。俺が愛しているのはウェリナだ。ちゃんと愛せるようになりたいんだ」


すべてを洗い流すようなキレイで無垢な涙だと思った。


レクィエスは私に足りない分を補うよう、両手を伸ばして私とこの子を一緒に抱きしめた。


がむしゃらに私たちを引き寄せ、戦う意志を放棄した。


「あ……ぅあ……!」




涙が子の肩に落ち、心を震わせる。


ロングストレートの青い髪は濃紺に染まり、瞳は空色に溶け込んでいく。


大人だった身体は小さくなり、狭間で見た女の子と色の違う姿を現す。


子どもはマシュマロのような手でレクィエスの涙を拭った。



「パパ、負けないで。あたしはまだいないけど、ウェリナが愛してくれるよ。不器用で頑固だけど、すっごくすごーくパパを愛しているんだよ」


「あぁ……知ってる。でも俺の方が愛してるんだ。君のことも、いとおしく想うのは父親になろうとしてるからだ」



花開くように目元を赤くして微笑むレクィエス。


それに満足気に彼女は笑い、私の手とレクィエスの手をとり、三人で手を繋いだ。


(そっかぁ。私も、ずっとこうしたかったんだ)


三人で成り立つ喜びに、私は母の手に引かれて歩いていた幼少期に別れを告げる。




私に欠けていたのは、父親からの愛情だ。


男性が怖くて、信じられなくて、女であることに必要以上に爪を立てた。


信じられなかったものを、レクィエスが見せようとしてくれている。


怯えていた未来が、愛を知らない彼が、私に勇気をくれた。


負けたりしない。


魔女がどうだとか、国を作るとか、それは私たちに必要ないものだ。



私は彼とこの子と家族になりたい。


女であり、母となって、私だけの愛情を見つけたいんだ。


それは愛なき魔女に屈することはないと、強気に示すものだった。



「レクィエス、この子をお願い」


「ウェリナ?」


私は立ち上がり、桃色の髪を耳にかけて強気に笑む。


今、私がすべきことは家族を守ること。


一番悲しいのは、子どもに親を憎むしかない環境を作ってしまうこと。


レクィエスをこれ以上、傷つけたくない。


私は彼の盾となり、前に進む。


グッと顎を引いて目を丸くするマリナの前で片足を後ろに引き、膝を曲げて微笑んだ。



「お義母さま。はじめまして。ウェリナと申します」


気丈に、誇らしく、私のままマリナと向き合う。


マリナは興味深そうに目の奥を光らせ、艶やかな顔をして胸を膨らませていた。



「私はレクィエスを愛しています。だから結婚して、家庭を築きたいと思っています」


後ろからスッと衣擦れの音がした。


きっと動揺して、緊張から心臓がざわつき、指先は冷たくなっているだろう。


その冷えた指先をぎゅっと握ってくれる子がいる。


「お願いします」


なんの憂いもない。


これは私のケジメであり、強くなるための大きな一歩だ。


「どうか引いてください。レクィエスに母殺しをさせないで」


この現状が終わらないとなれば、マリナを倒すしか選択肢が残らない。


レクィエスは求めるものを手に入れるならば、マリナを殺すこともいとわない。


そんな悲しい母子の結末にしたくないと、私は流れる血ごと拳を握りしめて深く頭を下げた。


(私は母が大好きだった。だから私も愛情深い母になりたい)


それなのに愚かにも大切な子を悲しませた。


あの子を”私として”大事に出来なかった。


ファルサの仮面を被っていては、永遠にあの子と向き合えない。


それを知ったから、レクィエスとのわだかまりが深まらないように。



はじめから親を嫌いたいなんて子どもはいない。


色んな要因があって、傷をいっぱいつけられて、そうなるしかないからだ。


親の愛を求めるのは子どもの本能。


その子どもの本能を壊すことほど、罪深い親はいないと思った。


「ママ……」


か弱くもやさしい舌足らずな甘い声。


口の中にめいっぱい砂糖菓子を詰め込んだみたいに多幸感に満たされる。


大丈夫。


胸を張ろう。


身を引き締めて、顔をあげて堂々とマリナを見据えた。


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