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第55話「魔女の崇高なる願望」

(私はお母さまに愛をもらった。お母さまのような母親になりたい)


だからこそ”子どもを愛さない”マリナに憤り、私は大事な子を抱きしめてマリナに叫ぶ。


「ふざけないで! レクィエスはあなたの子よ!? そんなバカげた理由で置いていったなんて……!」


「バカげた理由? 意味が分からない。魔女こそ至高の存在。男は生産しか使い道がないわ」


身の毛がよだつ発言に冷汗が流れる。


頭からにじんだ汗が冷たくて、縄で締めつけた痛みが頭を麻痺させていた。


顔にすべての血管が集まったかのように、熱が凝縮され頬が火照りだす。


「ワタシは第二の魔女の国を作りたかった。そのために元々魔女の血を繋いできた王家に入り込むことにしたの」




価値観が異なりすぎた。


マリナの基準はこの国ではなく、海の向こう側で作られたもの。


建国前に三人の魔女が島の外からやってきた。


それが初代国王の母と、私の母と、マリナだった。


ファルサの母はすぐに子を産み、亡くなった。


生まれたのが初代国王・ゼノとファルサだ。


私の母は長らく一人だったが、ついに私を身ごもって魔女から人となった。


たくさんの愛情を注いでもらい、愛を繋ぎたいと思えるようになった。


それより早く、マリナも子を身ごもっていた。


国王との間に生まれたのがレクィエスだった。


子が出来ると魔女は寿命が発生する。


しかしマリナは魔女を生むことが出来ず、魔力だけ残した人となってしまった。


魔女を産めないことは、恥じるべきこと――。


今まで彼女はどこにいたのか。


三人の魔女は何のためにこの島にやってきたのか。


島の外はどんな世界が広がっているのか、私たちは知らないことが多すぎた。



「今さら現れて何なの? どうして民を困らせるの? これ以上、レクィエスを傷つけないでよ!」


「傷つけたのはあなたも同じでしょう? ウェリナ・リガートゥルさん」


妖艶な笑みを浮かべ、マリナは赤い唇の下に指を滑らせ、中指を顎にひっかけて勢いのまま手を下ろす。


ニタッと笑い、人差し指で私の腕のなかにいる子を指した。


「その子は素晴らしい魔女よ。あらたな魔女の国を率いる素質がある。残念ながらまだ生まれていない命だけど。暴走したけど、生まれていない魂が現実世界に影響を及ぼすのは普通の魔女には出来ないこと」



今は肉体をもたないため暴走中だ、とマリナは哀れだ目をしてため息を吐いた。


こうしてマリナの告白を聞いているだけでも滝のように汗が流れる。


あまりにおかしなことばかり聞こえてくるものだから、意識を保つことに必死だ。


レクィエスは剣を持つ手をおろし、私たちに振り向くことなくマリナだけを見つめていた。


(ダメよ。意識をもっていかれちゃダメ。私たちは縛られる必要がないんだから)


「レクィエス……。そんな話、聞かないで……」


「今さら現れたのは、俺とウェリナの間に魔女が生まれるから? 俺は不用品だったけど、魔女は必要だったってこと?」


「そうよ。魔女は至高の存在であり、魔法をもたない者は歯車に。男はそれ以下。魔女の国で男が頂点に立つのは許されない」


マリナがやってきた世界はどれくらい広いのかはわからないが、少なくとも魔女の住処はこの島と価値観が大きく異なるようだ。


魔女を最上位とし、最下位に位置するのが男。


【完全なる女尊男卑の国】


そうなると男を産みたがる魔女はいない。


魔女を産むことが誇りであり、それ以外は足枷でしかないと、マリナは言葉の端々に毒を塗ってきた。


(そんなの、あんまりだわ……)


ずっと孤独に見えていた後ろ姿は、本当に孤独だった。


母親の愛情を受けず、捨てられ、命を狙われて。


はじめからレクィエスは愛を知らなかったから、愛し方もわからずに愛を乞うしか出来なかった。


(レクィエス。レクィエス、レクィエス、レクィエス!)


抱きしめたいのにどうしてこの手は届かないのだろう?


二人を抱きしめるには、この身体はあまりに小さく弱かった。


「ワタシは魔女の国をつくりたい。そのために正当な魔女が王を継承する。……男を産んだばかりに遅れてしまったのが悔やまれるわ」


「ふざけないでよっ!!」


――我慢出来なかった。


拳を握ると血がさらにあふれ出す。


腕に血が流れていくのを無視して私は物理的には足りない手をレクィエスに伸ばした。


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