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第51話「あなたに会いたい」

「島の外のことは私もわかりません。ただ私たちを魔物と呼ぶのは不適切でしょう」


「なら……なんと呼べば……」


「魔女」


たった二文字の言葉なのに、血が騒ぐような戦慄を感じた。


あのおだやかに微笑む母が魔女?


その血を引く私もまた魔女だということか?


それがあの意味も分からない魔物を止めた力に繋がるということなのか?


(ダメだ。なんの実感もないわ。私はただの人間、悪女と呼ばれる愚か者よ)


「魔女・マリナがどうしてこの島に来たのかは私も知りません。ですから私が知っていることをお話します」


すべての疑問をほどいて、再び糸で繋ぎあわせる。


どうしようもない緊張に私は唾を飲み込み、教会の正当性を証明する女神像を見つめた。


「遠い昔、私とゼノの母がこの島にやってきた。この地にもともといた男性と結ばれ、私たちが産まれた」


国の起源に関わる話だ。


王と女神の母親、それが魔女だった。


「魔女には特別な力があります。有している力はそれぞれ……。私はたまたま癒しの力を持っていたに過ぎません」


ゆえにファルサは聖女として生きた。


誰かを助けたい、救いたいという想いからではなく、必然とそうなっただけ。


聖女として振舞うことが当たり前となり、自然とその仮面が固定された。


本質はそうだったのか、もっと魔物らしい思考だったのか。


遠すぎてもう忘れてしまったと、ファルサは少し寂しげに笑って語った。


ファルサの告白に私はいてもたってもいられず、前のめりになって穴を埋めようとする。


「私の母はなぜ、ここに? どうして私を……」


「知りません」


コロッと笑顔に変え、切れ味抜群に答えたファルサに愕然とする。


とことん人を振り回すのが好きなようだ。


本質はまったく聖女らしくないではないかと、ぐっと拳を握って吠えたい気持ちを耐える。


それに気づいているのかは定かでないが、ファルサは始終穏やかに微笑みながら私の手を包んできた。


「ですがあなたのお母さま、リベラの友人としては知っていますよ」


「友人?」


「はい。リベラも魔女なので、長生き仲間ですね」


ファルサがまったく歳をとっていない外見のため、魔女は長寿とわかる。


だが子を産めば人間と同じ寿命となる。


それは私を産んだことで人と同じになったことを意味していた。


ファルサは誰の母でもないため、そのまま魔女として生きているということだ。


「幸せそうでしたよ。ウェリナさんのこと、とても愛していました」


その言葉は琴線に触れ、溢れる想いが涙となる。


父の愛情がなくても、母が愛してくれたから幸せに生きていた。


母が亡くなった後、私には味方がいなくなり、寂しさを抱えて身を守っていた。


母を愛している片鱗を見せなかった父が怖く、いつのまにか男性不信になっていた。


追い打ちをかけるように、デビュタントを機に身体が火照るようになり、レクィエスに救いを求めた。


さらに義弟のラミタスにまで影響が出て、男性なんてそんな生き物だと恐怖を抱きながら、矛盾した現状に心が引き裂かれていく。


どうせレクィエスも他の男性と同じで呪いに触発されているだけだ。


それを利用する私がズルいだけだと嫌悪する。


あまりに潔癖。


純粋に愛されたいと願う気持ちが、私から素直さを奪っていた。


「母が、幸せだったならそれでいいです。魔女だろうが、私にとって母は母ですから」


母の愛情があったから生きることができた。


寂しさを知っているから、レクィエスを抱きしめたいと思った。


あの日、あの木の下で傷ついた彼を見て、心から助けたいと願った。


辛そうな姿に、私が痛いと泣いている時に母がくれたおまじないを送った。


「会いたい……」


理屈も言い訳も、八方美人な考え方も、何もいらない。


私に必要だったのは、まっすぐにレクィエスを愛することだけ。


悪女と罵られようが、誰も認めてくれなくても、私がそばにいたいと貫くだけでよかった。


今さらそれに気づいて、どれだけレクィエスを傷つけたかと思うと涙が止まらなかった。


「私、レクィエスが好きです! レクィエスの愛情を必要としているのは私なんです!」


受け止められるのは私だけ。


必要としているのも私だ。


愛だけに生きるのを、人は愚かだと言う。


愛だけで生きていけるほど、世の中は甘くない。


苦労ばかりで、きれいごとではすまない。


世の中にはそんな言葉があふれきっている。


――それはあくまで他人の言葉。


大事なのは、私が溺れるような愛に生きたいかどうかだ。


決めるのは私。


誰の言葉にも振り回されない。


私が愛するものが私の正解だ。


それにファルサは目を細めて微笑み、私の背に手をまわして優しく撫でてくる。


「負けないでくださいね。あなただから、私は身体を明け渡したのですから」


「それは……「キャアアアアアアッ!?」」

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