第49話「丘の白い花」
村人たちは泣く泣く移住することを決め、急を要するものから順に東の都・オリエンタルに向かった。
ファルサと話したかったが、人に聞かれるわけにはいかずタイミングがつかめない。
オリエンタルへの道中、私は後部で荷物を抱えてついていくのが精一杯だった。
空をおおうほど高い壁と、水路にかけられた橋。
門を越えて中に入れば、城下町と遜色ない華やかで規則正しい街並みだ。
検問がある割に難民が入り込み、あちこちにテントを張っている光景が見られた。
入れないわけにはいかないのだろう。
(ここはもともと頑丈な壁もあるから安心……なのかな?)
街を歩いていると、聖女の来訪に民は歓声を浮き立った様子だ。
会話に耳を傾けていると、アストルムが指揮をとってオリエンタルを防衛拠点としたと聞こえてくる。
レクィエスは英雄として期待されているが、広い国土を巡るには時間がかかる。
普段の対策はアストルムが上手で、国民の支持を得ていた。
(レクィエスはその辺、まったく考えてないものね。……いい意味でも悪い意味でも王子らしくない)
そもそも王族には辟易としていたため、責務なんてどうでもよかったはず。
すべては私のため……と知れば、ポッと頬が染まるというもの。
あの木の下で出会い、それから私と結婚するために力をつけようとしていた。
強いて言えばそのために王子という地位を使おうとしていたらしい。
悪女でも、私は公爵令嬢の肩書をもっていたから。
行き過ぎた愛情に浮かれ、能天気に受け止められるのも私だけだと優越感に浸った。
***
オリエンタルを抜ければ、次の大きな街になるのは城下町だ。
東西南北の地方都市があり、島の中心に城。
北側は山脈地帯のため、都市といっても小規模なものだ。
魔物の被害はないらしく、北に逃げる者も多くいた……が、不便な地だった。
(ここからだとあの木までそんなに時間がかからないわね)
丘の白い花の木。
馬を走らせれば半日もあれば到着するだろう。
消えた時系列では、城下町のすぐそばにある聖堂で人型の魔物が二体現れた。
まだ現れるまでに時間があるが、すでに予想を超えた動きが出ている。
あの聖堂は一度調べる必要があると、相変わらずの聖女顔をしたファルサを観察して身振り手振りを覚えていった。
オリエンタルは教会の立ち位置が強いようで、街の中心に精巧な造りの教会が建っていた。
宿として借りるのはだいたい教会で、すっかり見慣れてしまったが女神像がステンドグラスの前で両手を組み、祈りを捧げていた。
私は荷物をおろし、現状残っている食料や救護物資を数えて紙に記入し、まとめていく。
護衛が管理をしていたようだが、話しを聞いてみれば雑なもので、私が代わると言って物資の管理を請け負っていた。
ファルサはその辺まあまあ……いや、だいぶ無頓着なので任せられない。
そもそも癒しの力があるから、救援物資は彼女にとっては必要のないもの。
関係のないと把握しないのは、聖女ではないファルサらしさが垣間見えた。
「ウェリナさん。ありがとうございます。私、こういった管理が苦手なので助かります」
「いえ、あまり役立てることもないですからこれくらいは……」
ファルサはかごバッグを長椅子に置き、外套を脱いで息を吐く。
隠れていた青い髪が出てきて、海のように深い色がさらりと揺れた。
「それは……」
「あ、これですか?」
カゴバックは出ていったときには持っていなかった。
中を覆っていた布を取ると、丸や四角のクッキー、今では珍しくなった焼き菓子が入っていた。
「街の方からいただきました。ここは素敵な街ですね。難民はいても、まだゆとりがある感じがします」
そう言ってファルサはクッキーを一枚手に取ると、私の口に押しこんでくる。
「んぐっ……!」




