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第48話「あなたは本当に聖女?」

手を伸ばすがファルサは余裕めいた微笑みのまま、私の手をとって教会から飛びだす。


外には魔物の集団、護衛の兵士たちが討伐にあたっていた。


こんな小さな村では魔物対策が不十分で、襲われればひとたまりもない。


いち早く避難することが大事だと、私は唯一の武器である短刀を構えて民の盾となった。


「戦える人は捕縛の準備を! すぐに村から離れてください!!」


誰も聞く余裕がない。


私が悪女かどうか気にしていられず、悲鳴をあげて家財を抱えて逃げ出していた。


護衛や駐在兵たちと魔物の捕縛に取りかかる。


地方都市に保管されているものより荒い網目で、上手く機能するか不安に捕縛体制に移った。


魔物をとらえても、次の魔物が襲いかかってくる。


逃げられない。ならば隙を作るしかない。


歯を食いしばって短刀を構え、なんとか魔物の動きを止めようと駆けまわった。


「うあっ!?」


トカゲのような外見の魔物が建物の隙間をぬって飛び出てくる。


その衝撃で私は吹っ飛ばされ、地面に身体を強くぶつけてしまった。


意識が朦朧とするなか、短刀で身構えるが魔物を間近で見て身体から力が抜けてしまう。


「ぁ……」




死を悟る。


断頭台で死んだときとは異なる、戦慄の死だ。


あきらめの死とは真逆の性質をもつと、私は生への執着を抱いていた。


(死にたくないっ!)


生きて、レクィエスを愛したい。


守り抜くと誓った。


彼を愛せるのは私しかいないのだから、絶対にあきらめない。


いつか、あの子に会って二人で抱きしめるのだと、夢を夢で終わらせない!


「止まれえええぇぇぇええ!!」




――無我夢中でそう叫んでいた。


生きるだとか、死ぬだとか、細かいことなんて考えられずに本能だけで動く。


レクィエスが私の原動力。


生きたい理由。


その叫びが届いたかはわからないが――。


「え……?」


短刀が魔物に突き刺さり、手から腕に赤い血が伝っていた。


攻撃を受けているのに魔物は唸り声一つあげない。


私が短刀を動かしても魔物はまばたき一つしなかった。


(なに……? なにこれ……)


物音はする。


他の魔物が暴れている音や、逃げようとする村人の悲鳴、焦りを募らせる兵士たちの叫び。


目の前の魔物だけは何の反応も示さなかった。


怖くなって短刀から手を離したが、魔物はそのまま硬直している。


「や……やだっ……! あっち行って……」


ここにいるのは悪女と呼ばれる弱々しい世間知らずの小娘だった。


まるで操り人形だ。


動かなかった魔物がとる次の行動が遠ざかることだった。


誰かを襲う目的もなく、私に言われたとおりに離れていくだけだ。


もし、私の言葉を受けて魔物が行動を制限されていたとしたら……?


「消えて……」


それは魔法のようで。


何が起きたかわからない一瞬のことだった。


離れていく魔物の身体が崩れ、灰となって散る。


そこにいたはずの魔物は消え、残った短刀がカランと音をたてて落下した。


「き……えた……」


ドクンドクンと、心臓がざわついて全身の血液が沸騰したかのようだ。


わけもわからないまま、私は急かされて立ち上がると短刀を握って村中を駆けて叫び続けた。


「消えて! ここにいる魔物は全部消えて!!」


風が巻き起こり、細かい瓦礫とともに灰が舞い上がる。


灰色の雲をかけていた空が晴れ、隙間から太陽が顔を出す。


絶叫から転化し、晴れ模様に。


突然、魔物が消えたので、兵士たちは互いに目をあわせては首を傾げていた。


(私がやったの? なんで……だって私は普通の……)


いや、普通ではない。


悪女らしくファルサの身体を乗っ取った奇妙な技をもっていた。


どうしてそんなことが出来たのか。


ちゃんと考えれば、何かしらの力が働いたからと考えるのが妥当だ。


空っぽの手のひらを見下ろして、空にかざして仰向けに倒れ込む。


「はっ……はは……。そうよね。何を勘違いしていたのかしら」


レクィエスの血だけであの子があのような暴走をするはずがなかった。


そうなると原因はもう一つ、ある。


「ごめんね……」


あきらかに私は異物だった。


ファルサの身体を乗っ取る力。


あの子が暴走して男を惑わせる力を得た。


望んだこと、望まないこと。


どこにでもいる頭の弱い令嬢ならばそんなことはありえない。


断頭台で処刑されて、それで終わりだ。


未来で死に、また私として目を覚ます。


その時点で私は悪女に相応しい異物となっていた。


(会いたい)


今、ものすごくレクィエスに会いたかった。


彼の孤独をまったく理解せず、支えたいと口ばかりで語った。


私が大事にすべきだったのは、周りの目を気にすることではなく、誰といたいか。


依存だとか、執着だとか、壊れた愛情だとか。


それを決めるのはレクィエスであり、私はどんな感情であったとしてもよかった。


私が愛しているならば、問題はない。


自信を前提にすればこの世界の誰もが人を愛することはなかった。


「私は……レクィエスを愛してる」


腕をおろして、まっさらな空を眺める。


静かに涙だけが流れて、喉がひりついて、空を飛ぶ鳥に自由を見た。


「ウェリナさん。大丈夫ですか?」


上から顔を出したのは無傷に微笑む聖女様。


「……あなたは誰?」


私はもう生粋の聖女様と思わない。

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