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第47話「聖女の正体」

そんなことはファルサが一番よくわかっているだろう。


わざわざ質問してくるあたり、意地悪いのが丸見えだ。


自分勝手な理由でファルサを階段から突き飛ばし、盲目な幸せのためにウェリナを排除しようとした。


下手すれば命を奪っていたかもしれない。


さらに死後、未練がましくファルサの身体を乗っとった。


我が物顔で聖女の面をかぶっていたのだから。


「あなたを突き飛ばした。それにあなたの身体を勝手に……」


「憑依した、ですね。それに関しては私、まったく覚えてないので大丈夫ですよ」


そう言われても私が私を許せない。


殺されそうになっても怒りの片鱗さえ見せないのは、あまりに白すぎて恐ろしくもあった。


清純、無垢、聖女の心。


そんな単純な言葉で片付けられる生易しい人ではないと、共に旅をして感じていた。


「身体を乗っとるなんて出来ないですよね。なぜそんなことが出来たのでしょう?」


「それは私が……」


ふと、冷静になって自分を疑った。


死にきれなかった私が、悪霊のようなものとしてファルサの身体を奪った。


……そう思っていたが、そもそも私が悪霊として身体を奪う力を持っているのがおかしいことだ。


そこにあの子は関与していないはず。


(ただの人間よ? レクィエスみたいに何か特別なものがあるわけでも……)


唐突な不安がのしかかる。


私は汗ばむ手のひらを見て足を止めた。


一歩先を歩いていたファルサが青い髪をなびかせて、振り返ってあざとい笑みを浮かべる。


「今日はここまでです。よーく考えてみてくださいね」


片目を閉じ、愛らしいしぐさでまた前を向く。


ファルサはただの聖女ではない。


そもそも聖女という定義があいまいだ。


レクィエスが魔物を倒せる”英雄の素質”を持っていたのだから、同じように考えればファルサにも”何か”がある。


人々の傷を癒す力、とは単に聖女で完結できる能力ではなかった。


(ファルサさんは……ううん。だって、あまりに性質が違う……)


脳裏によぎったのは”魔物”という言葉。


レクィエスも、あの子も、魔物の血を引いている。


もしあの子の力がレクィエスの血以外に起因するものだったら?


(どうしよう)


足取りが重たくなる。


ファルサの隣を歩くことが出来ず、後ろでトボトボと歩き、うつむいたまま次の村に到着するまで会話はなかった。



***


明日にでも東の都・オリエンタルに到着する頃、休息をとろうと小さな村に訪れる。


空には暗雲がかかっており、先行きの不安定さからの決断だった。


私はほうきを手に、祈り場でせっせと動いてピカピカにしようと励む。


女神像の前に出ると、女神像と目が合った気がして足が止まった。


教会には必ず女神像が飾られている。


初代国王の双子の妹らしいが、詳細は語られていない。


名前も伝わっていないため、ただ女神像と呼ぶしかない不思議なものだった。


「気になりますか?」


「ファルサさん!」


ファルサは濡れタオルで長椅子を拭き掃除している。


その穏やかな横顔に、私は再び女神像を眺めてファルサと見比べる。


少し女神像に似ているような気がした。


(誰でも似るわね。目は閉じているし、色もないから……)


「これ、私なんです」


「ぶっ!?」


ファルサが満面の笑みで女神像を指す。


突拍子もないのでつい口から下品な息が吹き出てしまった。


咳き込みながら口端の唾液を拭い、ファルサの笑顔を凝視する。


「な、何を言って……」


「これ、私なんです。いつも恥ずかしくなっちゃうんですよね」


無礼にも女神像をペシペシと叩いている。


自分だから失礼でもないのか? と何から突っ込めばいいのかわからなくなっていた。


「この前の続き……と言いたいところですが」


ファルサが女神像の後ろにあるステンドグラスの一点を見る。


――瞬間、ステンドグラスが激しく割れた。


バラバラと吹き飛ぶガラスの破片に、私は腕を前に身を丸くする。


かろうじて身を守ることが出来たが、ファルサには直撃しているはずだ。


「ファルサさん!?」


音がおさまるとすぐに飛びだしてファルサの救出に向かう──がその足は止まった。


(どうして……?)


ファルサは無傷で相変わらずの微笑みを浮かべていた。


塵となったガラスは私の頬から血を奪うほどなのに。


何事もなかったかのように立つファルサが気味悪く見えた。



ドンッ! と、今度は地響きがして女神像が真っ二つに割れる。


その間から魔物が石像を左右に吹っ飛ばして着地した。


「魔物!? ファルサさん!」

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