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第44話「南の都市・メリディアム」

「王族の血では足りないから。この国の民が嫌う、異物にしか英雄にはなれない」


波が防波堤に打ち付けられ、水しぶきが飛ぶ。


幾重にも寄せる波が引いていく際に、白い泡がたって花となった。


「異物、ね……」


海を見ながらアストルムは皮肉交じりに笑った。


青色に太陽の光がそそぎ、白い線が走る。


その視線を追いかけて私は見知らぬレクィエスの母を想った。


レクィエスは”呪われた王子”と称され、長い間迫害を受けた。


レクィエスにとって愛の欠如であり、人間不信の原因だ。


一体どこへ行き、何故レクィエスを置いて消えたのか。


本当に所在のわからない謎多き人だったのか。


(レクィエスのお母さまが外の方だったとして。それが英雄になれた条件だとしたら?)


”魔物以外、何か出来るとは思えない”


つまり魔物に対抗するには魔物しかいないということ。


レクィエスの中には魔物の血が入っているが、とても薄いものだった。


もしそれが濃くなったことで魔物に対抗できたとしたら?


アストルムの体内を巡る血が変化しないとすれば、それは生まれながらの素質。


レクィエスの血はもともと魔物の血が濃かった。


「レクィエスのお母さまは……魔物なの?」


その問いにレクィエスは物思いに沈んだ微笑みを浮かべるだけ。


返事はなくても、彼の物言わぬ姿勢が肯定を示していた。



海の外から来た、魔物の血を引く女性。


二つが合わさり、レクィエスは完全無欠の英雄となった。


一身に期待を背負い、禍々しい魔物と戦う。


傷だらけになっても弱音を吐けない、孤独な人。


……愛さずにはいられない人。



(ますます……自信がなくなったな。私がいると余計に彼を傷つける声が増える)


私がそばにいることで、人は彼を責め立てる。


惑わされている、正気になれ、英雄としての自覚。


悪女にのめりこむ操り人形に、民は目を覚ましてほしいと懇願するばかり。


私に向けられるはずの石は彼にも飛び、それを見るたびに私は苦しくなった。


喉にフタをして、何でもないふりをして笑う。


守りたいのに、この手は無力で何も救えない。


私は誰に罪悪感を抱いているのか。


不安定な気持ちにあいまいに笑って、仮面を被り誤魔化すことが増えていた。



***


南の都・メリディアムは、水路だけの西の都とはまた違う風情があった。


坂に段々と並ぶのは、海とのコントラストが映えるオレンジを基調とした街並み。


魚の匂いに誘われてペリカンが海の上を飛ぶ。


ここまでの道中に比べると、メリディアムは魔物の被害をまったく受けておらず、一見すると平和そのものだった。


「あれってレクィエス殿下……!?」


「アストルム殿下もいらっしゃるぞ!」


馬を引いて歩いていると、町民がざわつきだしあっという間に人に囲まれる。


まったく町民に関心のないレクィエスは無視一点だが、アストルムはニコニコと笑って積極的にコミュニケーションを取っていた。


対称的な兄弟を不思議に思いながら、私は相変わらずレクィエスの背に守られていた。





「キャーッ!!」


夜になってさっそく待ち構えていたかのように魔物が現れる。


甲高い悲鳴があがったあと、ガタガタと建物が揺れだした。


「魔物だー! 魔物が出たぞー!!」


灯台のあかりを受けて、青白く浮き上がる巨大な人型の魔物がいた。


重たそうな身体を動かすたびに、魔物の指先から水が弾丸となって街に降りそそぐ。


町民は悲鳴をあげて高台まで逃げようとし、パニックに陥っていた。


(なんで……! こんな魔物、知らない!)


消えた時系列に存在しない魔物の発生。


記憶の中では魔物の数が多かったものの、防波堤があったので町民が街に侵入できないようになんとか抵抗出来ていた。


今、襲いかかってくる魔物は出没予想地点が同じでも、巨大な一体の魔物に変化していた。


急ピッチで整備した防波堤はすぐに破壊され、魔物が進むたびに波となって街が浸水していく。


頑丈な造りといえど、魔物が近くなればすぐに壊されていた。


「すぐ倒すから。待ってて」


いつものやさしい言葉。


安心を与えてくれる声のはずなのに、私は何かを見落としているような気がした。


「レクィエス、私も……」


「ダメだ」


私の指先を掴み、唇を押しあてて眉をひそめる。


「ウェリナは脆いから。俺の手が届かないところにいったらすぐに……」


それ以上、言葉にしない。


言葉に出来ない。


言葉にしたらもう止められなくなると、彼の憂いは過剰な危機感に変わっていた。




建物がガタガタと大きく揺れ、レクィエスは舌打ちをすると私の身体を抱きあげて、外に飛び出した。


馬を見つけるや飛びのって魔物の進行方向に逆らって走り、安全なところで私を無理やり下ろした。


「行ってくる」


再び馬に乗って、魔物に向かって突き進む。


魔物はレクィエスに気づくや大きな腕を振り下ろし、水の弾丸を飛ばして近寄らせないようにした。


誰も対抗できない、魔物ならではの攻撃。


レクィエスの動きは常人離れしており、馬から飛び降りると魔物の腕を切り裂いた。


絶叫をあげて魔物はバランスを崩し、家屋に倒れ込む。


それを好機とし、レクィエスは建物の屋根に飛びのり、高くジャンプして魔物の頭部を真っ二つに斬った。


(赤い……血? あれは魔物の心臓?)


倒れた身体から出てきた赤い岩のような塊。


それに剣を突き刺して破壊する。


魔物の身体は煙をふきだし、砂場に溶けるように灰となって消えた。


華麗な魔物討伐劇に町民は歓声をあげ、救われたと英雄を称えだす。


まったく興味を示さないレクィエスは、町民を無視して一直線に私のもとへ駆けてきた。

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