第42話「重たい愛情」
「こっちよ! あんたたちに負けないから!」
適当に瓦礫から石を拾って魔物に投げる。
小さな抵抗だったが、魔物の気を反らすには十分なようで挑発として投げ続けた。
少しずつ魔物を引きつけて、あたりを見回して打開策を探す。
ここはアストルムが指揮して魔物対策が施された都市だ。
なんとか魔物を捕縛できれば後はレクィエスが対処できる。
こんなにもたくさん現れてはいくら英雄でも追いつかない。
過酷な環境下で何もできずにいるのは、私が私を許せないと懸命に駆けた。
「おいっ! こっちだ!!」
体のあちこちが痛い。
何度も転倒し、擦り傷だらけだ。
いつ魔物から強烈な一撃を食らってもおかしくない。
奇跡のように逃げ切った先に、アストルムが衛兵たちと屋根の上で魔物の捕縛体制をとっている。
どうやら一か所に集めて一斉捕縛しようとしていたらしく、私を追ってきた魔物もこの場で一網打尽に出来そうだ。
はじめて自分の意志で守りたいもののために走れたと安堵し、足がカクンと折れた。
「ば……おいっ! そこは危な……!」
後ろには魔物、前方にも捕縛された魔物が集まっている。
一度気が抜けてしまえば踏ん張ることが出来ない。
”死にたくない”と、かつて抱いた悪女の叫びを思い出した。
――ザッと、突風が渦を巻いて魔物を袈裟懸けに斬りつけた。
絶叫とともに消滅する魔物のいた場所に、黄金の瞳をぎらつかせた英雄が現れる。
空に溶け込む濃紺の髪と星に似た輝き。
今は拒絶に満ちた獣の目になっていた。
「レクィエス……」
「……なんでウェリナは――」
呟いた言葉は魔物の咆哮に消える。
そこから魔物がすべて消滅するまでの戦いは一瞬だった。
鮮血が飛び散って、どの魔物の血かもわからなくなるほど鉄の匂いが充満した。
銀色の閃光が何度も魔物を斬りつけて、やがて世界は灰が散り積もる。
英雄とは孤独な生き物だ。
魔物に対抗できる唯一の人は、私の愛した人。
「ウェリナ……」
弱々しい子どもの顔だった。
魔物を斬り殺していたときとまるで別人だ。
私は痛みを通り越した腕を伸ばし、彼を受け止めようと身体を起こして抱きとめた。
「ありがとう。大好きだよ」
「――っ……うん。無事でよかった……」
消えた言葉に何が言いたかったのか、なんとなくわかってしまった。
彼は対等を望んでいない。
アストルムが私と彼が噛みあっていないと指摘したとおりだ。
私がいないと生きていけない人は、とっくの昔に壊れている。
ごくごく当たり前の愛し方では、彼を救えない。
私が償いたいのはファルサに対して。
愛したいのはレクィエスだけ。
普通に愛し合うには歪みすぎた。
対等でありたいと願うのに、それでは彼にとって愛が届かない。
あまりに重たい愛情に、私は答え方を見つけられずにいた。




