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第35話「改変された未来」

***


アストルムが旅に混ざり、途中でアストルムを探していた兵士たちと合流する。


アストルムの自由さには困り果てているようで、悩ましげにする者も多くいた。


西の都・オクシデントには明日にでも到着するだろう。


砂地の続く寒空の下で外套にくるまり、焚火に手をかざしながら星を眺めた。


「ウェリナ。テントの中に入らないと、身体冷えちゃうよ」


レクィエスがあたたかいお茶の入った水筒を手渡してくる。


それを受け取ると、レクィエスが隣に腰かけたのを見ながらお茶に息を吹きかけ、喉に流しこんだ。


「ありがとう。レクィエスがいれてくれるお茶はいつもおいしいわね」


「そう? 紅茶は割と自信あるよ」


城に行ったときはいつも紅茶をいれてくれた。


誰にも助けてもらえない環境で、少しでも私を喜ばせようと考えてくれたのだろう。


通常ならばメイドや執事が用意してくれるものも、レクィエスは比較的自分で対応することが多かった。


(私にはイリアがいたからなぁ。……イリア、元気かしら)


投獄されてからイリアには会えていない。


流れるように旅に出てしまったので、公爵家が今どうなっているかも知らない状況。


……知りたくもない、というのが本音だが、イリアだけは気がかりであった。


「ウェリナはさ、魔物を倒し終わったらどこに行きたい?」


どこ、と考えて首を傾げる。


平穏に過ごしたいとは考えていたが、具体的なことは何一つ口にしたことがなかった。


そもそも想像したこともなかった。


質問に答えられずにいると、あの子の悲しい顔を思い出して下腹部を擦る。


「……笑わないで聞いてくれる?」


「うん?」



ずっと口に出せなかったあの子のこと。


レクィエスは私にかかった呪いはただの魔物と認識している。


真実はあの子が私を憎み、魔物の血が濃くなって暴走した結果だ。


きっと元々はやさしい女の子だった。


魔物の力にのまれて苦しい気持ちが胸につきささる。


私たちのもとに産まれたいという願いと、私を苦しめたいという感情。


その二つが混同してあのような形となったと、今なら悲しい想いをさせたせいと理解していた。


(隠すことじゃないわ。レクィエスにはあの子を嫌ってほしくないもの)


助けたい。


それは私だけでなく、レクィエスにも同じ気持ちをもってほしいから。


「私、子どもがいたの」




――瞬間、焚火が音を立てて揺れた。


消えかけた焚火に腰を浮かせると、隣に座っていたレクィエスから威圧感が漂ってきて、目を丸くして振り返る。


「どうしたの? ちょっと風が強いわね。火が消えちゃうかと……」


「何で言ってくれなかった!?」


「へっ?」


両肩を掴まれ、焦った様子に驚いてコップが手から離れてしまう。


外套が濡れてしまい、お腹の部分が濡れてしまったのであわてて脱ごうとした。


だがすぐにレクィエスに抱きしめられ、コップだけが砂利を擦って転がってしまう。


「レ、レクィエス? 急にどうし……」


「気をつけていたつもりだったけど、ごめん。俺、ちゃんと結婚する意志はあるから」


「けっ⁉ ちょ、ちょっと待って! 気が早いわ!」


「早くない! むしろ遅いくらいだ!」


(えぇーっ……)


話が飛躍しすぎだ。


もちろん私にも結婚の意志はあるが、まだ先のこと――。


「け……結婚は、するわ。でもね、あの子のことは話しておきたくて」


「あの子って? そんな気配なかったよね? どういう……いや、俺が鈍すぎたのか?」


ブツブツと呟き、どんどん暗黒の気配をまとっていく。


これはとんでもない方向に進みそうだと、私は慌てて否定する。


レクィエスの呪いのような言葉を止めようと、両手で彼の頬をガッと挟んだ。


「未来で! 私が死んだ未来で、あの子を身ごもっていたの!」


「……未来?」


何のことかわからないレクィエスは困惑して視線をさまよわせる。


私の手を掴んできたが、その手はひどく汗ばんでいた。


「私ね、本当は処刑されていたの。あり得ないことかもしれないけど、死んで私はファルサさんの身体を乗っ取ったの」


それから私は一つひとつ、思い返すように話していった。


誰も信じないような、違和感だらけの消えた未来。


誰かに話しを聞いたとして、信じられるとは思えない空想劇だ。


ゆっくりと話すほどに不安は募る。


レクィエスが相づちをして聞いてくれたので、最後まで話しきることが出来た。


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