第35話「改変された未来」
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アストルムが旅に混ざり、途中でアストルムを探していた兵士たちと合流する。
アストルムの自由さには困り果てているようで、悩ましげにする者も多くいた。
西の都・オクシデントには明日にでも到着するだろう。
砂地の続く寒空の下で外套にくるまり、焚火に手をかざしながら星を眺めた。
「ウェリナ。テントの中に入らないと、身体冷えちゃうよ」
レクィエスがあたたかいお茶の入った水筒を手渡してくる。
それを受け取ると、レクィエスが隣に腰かけたのを見ながらお茶に息を吹きかけ、喉に流しこんだ。
「ありがとう。レクィエスがいれてくれるお茶はいつもおいしいわね」
「そう? 紅茶は割と自信あるよ」
城に行ったときはいつも紅茶をいれてくれた。
誰にも助けてもらえない環境で、少しでも私を喜ばせようと考えてくれたのだろう。
通常ならばメイドや執事が用意してくれるものも、レクィエスは比較的自分で対応することが多かった。
(私にはイリアがいたからなぁ。……イリア、元気かしら)
投獄されてからイリアには会えていない。
流れるように旅に出てしまったので、公爵家が今どうなっているかも知らない状況。
……知りたくもない、というのが本音だが、イリアだけは気がかりであった。
「ウェリナはさ、魔物を倒し終わったらどこに行きたい?」
どこ、と考えて首を傾げる。
平穏に過ごしたいとは考えていたが、具体的なことは何一つ口にしたことがなかった。
そもそも想像したこともなかった。
質問に答えられずにいると、あの子の悲しい顔を思い出して下腹部を擦る。
「……笑わないで聞いてくれる?」
「うん?」
ずっと口に出せなかったあの子のこと。
レクィエスは私にかかった呪いはただの魔物と認識している。
真実はあの子が私を憎み、魔物の血が濃くなって暴走した結果だ。
きっと元々はやさしい女の子だった。
魔物の力にのまれて苦しい気持ちが胸につきささる。
私たちのもとに産まれたいという願いと、私を苦しめたいという感情。
その二つが混同してあのような形となったと、今なら悲しい想いをさせたせいと理解していた。
(隠すことじゃないわ。レクィエスにはあの子を嫌ってほしくないもの)
助けたい。
それは私だけでなく、レクィエスにも同じ気持ちをもってほしいから。
「私、子どもがいたの」
――瞬間、焚火が音を立てて揺れた。
消えかけた焚火に腰を浮かせると、隣に座っていたレクィエスから威圧感が漂ってきて、目を丸くして振り返る。
「どうしたの? ちょっと風が強いわね。火が消えちゃうかと……」
「何で言ってくれなかった!?」
「へっ?」
両肩を掴まれ、焦った様子に驚いてコップが手から離れてしまう。
外套が濡れてしまい、お腹の部分が濡れてしまったのであわてて脱ごうとした。
だがすぐにレクィエスに抱きしめられ、コップだけが砂利を擦って転がってしまう。
「レ、レクィエス? 急にどうし……」
「気をつけていたつもりだったけど、ごめん。俺、ちゃんと結婚する意志はあるから」
「けっ⁉ ちょ、ちょっと待って! 気が早いわ!」
「早くない! むしろ遅いくらいだ!」
(えぇーっ……)
話が飛躍しすぎだ。
もちろん私にも結婚の意志はあるが、まだ先のこと――。
「け……結婚は、するわ。でもね、あの子のことは話しておきたくて」
「あの子って? そんな気配なかったよね? どういう……いや、俺が鈍すぎたのか?」
ブツブツと呟き、どんどん暗黒の気配をまとっていく。
これはとんでもない方向に進みそうだと、私は慌てて否定する。
レクィエスの呪いのような言葉を止めようと、両手で彼の頬をガッと挟んだ。
「未来で! 私が死んだ未来で、あの子を身ごもっていたの!」
「……未来?」
何のことかわからないレクィエスは困惑して視線をさまよわせる。
私の手を掴んできたが、その手はひどく汗ばんでいた。
「私ね、本当は処刑されていたの。あり得ないことかもしれないけど、死んで私はファルサさんの身体を乗っ取ったの」
それから私は一つひとつ、思い返すように話していった。
誰も信じないような、違和感だらけの消えた未来。
誰かに話しを聞いたとして、信じられるとは思えない空想劇だ。
ゆっくりと話すほどに不安は募る。
レクィエスが相づちをして聞いてくれたので、最後まで話しきることが出来た。




