第33話「王太子・アストルム」
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これ以上魔物の襲撃はなさそうだと判断し、私とレクィエスは村を離れて野宿をすることに。
教会がなかったので、私たちを好意で迎えてくれる人はいなかった。
さすがに良心が傷むものもおり、数人の村人は食料を分けてくれた。
それがどれだけありがたいことかと、私はレクィエスと食事をとりながら感極まる想いに震えていた。
「ウェリナさ、頑張りすぎだよ。肩の力ぬいて大丈夫だから」
「でも……」
「次はもう少し上手くやる。教会とか、休ませてくれる場所に立ち寄るようにしよう」
(……ズルいなぁ)
必死に動く心境を見透かされている。
私に異常に甘くやさしく、極端に他には関心がない。
レクィエスが距離感を考えて、寄り添ってくれるのが伝わり喜びに花が咲いた。
「! ウェリナ?」
「ありがとう。少しだけ……」
レクィエスの肩にもたれかかり、目を閉じる。
隣でレクィエスが照れているのに気づきながら、わざとこの選択をした。
そうしたいという望む気持ちと、こうすることが正しいという葛藤。
一番キライな、女を利用した行動だった。
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翌日、次の目的地に向けて進んでいると、荒れた田畑が目に入る。
その向こう側には森がそびえており、城下町とはまったく異なる景色をボーッと眺めた。
「魔物。ウェリナを困らせたやつって、どこかにまだいるのかな」
「えっ……?」
ポツリと呟かれた内容に目を丸くする。
レクィエスはあの子を認識していないと気づくが、伝え方がわからずに言葉に悩んでしまう。
(あの子……は魔物なのよね。今は存在しない……けど、いつか出会う)
魔物となったのはレクィエスの血を引いているからだろうか?
そうだとして、不可解な点がある。
王族は誰も魔物にならない。
血が薄まっているはずなのに、どうしてあの子はそれだけの力を得てしまったのか。
考えれば考えるほど、あの子の境遇に胸が痛くなった。
(辛かった。望んでないのに男の人がたくさん寄ってきて……)
人目があれば取り巻いてくるだけで済んだが、油断すれば貞操の危機。
怖くて、キモチわるくて、逃げても助けてくれる人はいない。
好意を抱いていたレクィエスも熱に浮かされているだけだと考え、拒絶するしかなかった。
身体だけの関係となったのは、突き放しきれない私のワガママ。
他の人に触れられるのは絶対に嫌、それだけだった。
”男の人なんてダイキライ。でもレクィエスは特別”
この世すべての男性を嫌悪した。
相手が悪い人だとかは関係なく、男性というだけで関わりたくなかった。
呪いも相まって、「好きだ」「愛している」とささやいてくる人を信じられず。
心が伴っていないのに愛を語る心境はいまだに理解できなかった。
(私を好きだなんて言うレクィエスは変わり者なのよ。だからこそ、あの子のことはレクィエスにも考えてもらわないとね)
もうすでに私一人の問題ではないのだから。
「レク……」
「あれ? お前、レクィエスか?」
森沿いに馬を走らせていると、茂った木々の隙間から派手な印象を与える男性がひょっこりと現れた。
金色の長髪を一つに束ね、同色の瞳を丸くして馬上のレクィエスを観察する。
レクィエスと同じくらいの長身であり、三白眼に細めの眉とヤンチャな顔立ちだ。
「兄上……」
レクィエスがそう呼ぶのは、半分血の繋がった兄であり、王太子のアストルムだけ。
「ひっさしぶりだな! 活躍は耳に入ってるぜ!」
「……お元気そうで何よりです」
「おうよ! すげぇな、国の英雄扱いだろ?」
唯一、魔物を倒せる力を持つのがレクィエスだ。
称えられて当然だとアストルムは腕を組み、うんうんと頷きだす。
第一王子だからという嫉妬心は感じられない。すがすがしさに反応に迷ってしまう。
アストルムもまた変わり者の王族だ。
放浪癖があり、ほとんど城にいない。
さすがに魔物が現れたとなると王太子として、魔物襲撃に備えた防衛を指揮しているようだ。
報を受けたのが離れた所だったので、各地で対策を進めているはずだが……。
(どうしてこんなところにいるのかしら? しかも一人で)




