第32話「悪女の現実」
魔物討伐の旅をはじめるにあたり、私はこれまでたどってきた時系列で魔物が出没した地点を地図に書き込んでいく。
さっそく目的地にしていた村にたどり着くと、予想よりも早く魔物が出没していたようで、村人たちが悲鳴をあげて逃げ惑っていた。
レクィエスは馬から降りると、剣を抜き魔物に向かって突き進む。
石造りの家屋を破壊し、暴れまわる魔物に狙いを定めると、身体の柔軟性を生かして斬りかかった。
常人を逸した身体能力と、熟練した剣術により、一撃で魔物をねじふせてしまう。
絶命した魔物は地面に倒れると、灰となって消えていった。
わっと歓声があがり、村人たちがレクィエスのまわりに集まってくる。
まさに救世主、英雄と称される人だ。
そういえばレクィエスは口下手で、民と交流するのに戸惑っていた。
だんだんと慣れていったのか、終盤になると飾りきった笑顔になっていたことを思いだす。
あの時点でレクィエスは自分を捻じ曲げて壊していたと知り、胸が痛む。
もう必要以上に無理はさせないと、私はレクィエスのもとへ駆けた。
「レクィエス! ありがとう! ケガはない!?」
「! 大丈夫。ウェリナは?」
「大丈夫よ。でも怪我をしてる人たちがたくさんいて……」
(あっ……)
目の当たりにする。
私とファルサの決定的な違いだ。
聖女として民を癒していたのに対し、今の私は無力な悪女。
英雄を惑わす存在に、村人は虫唾が走ると嫌悪をあらわにしていた。
聖女の慈悲で生きているだけで、到底許される存在ではないと視線が突き刺さる。
(あぁ、痛いなぁ……)
覚悟を決めたつもりではあったが、いざその視線を向けられれば痛くてたまらない。
罪悪感だけではない。
私の生きる価値を問われているような気がした。
(わかってたこと! ファルサじゃなくても出来ることはきっとあるわ!)
馬の鞍にさげた救護用の物資を手に、背筋を伸ばして人々の集まりに振り返る。
「怪我人を広い場所に! 手当していくので協力お願いします!」
シン……。誰も反応を示さなかった。
悪女の言葉に貸す耳はない。村人たちは背を向け、独自に動きだしていた。
「ウェリナ……」
心配してくれるレクィエス。
ここで甘えたら私はキライなままの私で残るだけ。
あからさまな無視と軽蔑に傷つきはするが、折れるわけにはいかないと肩を張って駆けだす。
私の行動がレクィエスの評判に繋がる。
私のせいでこれ以上、誰かが傷つくのは嫌だ。
もう誰にもレクィエスをバカにさせないし、傷ついた人たちから目を背けない。
人一倍、耐え抜く努力をしなければレクィエスの隣にいられない。
これは私の選んだ道。好きな人のそばにいるための、自己嫌悪を最小限にするための、誰かを犠牲にすることのない生き方だ。
「さわらないで!!」
怪我をした人たちは、私の手を振り払い拒絶する。
悪女に触れられるのはまっぴらごめんだと、他の人に声をかけて回していく。
ファルサのときは列をなすくらい、人が求めてきたのに今は真逆だ。
(大丈夫。少しずつ頑張ればいいのよ。他に出来ることだってあるわ)
救援でダメなら、他に困った人はいないかを探せばいい。
切り替えて瓦礫に挟まれた人はいないかと見て回り、目立って崩落した場所では石を除けていった。
「ウェリナ! 何をしてるんだ!?」
レクィエスが居ても立っても居られないと、私の肩を掴んで止めようとする。
「大丈夫だから!」
それをとっさに振り払ってしまった。
レクィエスを拒絶することだけはしたくなかったのに、焦りがそうさせて血の気が引く。
膝をついたままレクィエスを見上げ、何度も髪の毛を耳にかけて気持ちを正そうとした。
「ご、ごめんなさい。振り払うつもりはなくて……。でも本当に大丈夫だから」
「……わかった」
レクィエスはそれ以上言及しなかった。
私の隣にしゃがんで大きな瓦礫をテキパキと避けていき、無事な人がいるかを確認していく。
何も言わずに手伝ってくれることに目頭が熱くなり、目元を擦ってがむしゃらになった。
息のある者、間に合わなかった者、その人たちを背負って中心地に集めていく。
救えなかったものの多さに打ちひしがれた。
泣いていられない。
これは私が歩まなくてはならない道だ。
悪女と指される人間なのだから、限りある力で償わなくてはならない。
多少の石は痛いにカウントしてはいけない。
努力しなくては、恥ずかしくてレクィエスの隣に立てないのだから。




