第31話「そんな女、好きでいられるもの?」
それを聞いて振り回されることなくいれる私ではない。
(ひどい! いや、ひどくない……。事実だし。でもそんな女を好きでいられる?)
どう考えても好きになる理由がない。
常軌を逸している恋心に八つ当たりと肩を押し叩く。
私が機嫌を損ねると笑って抱きしめてくることもまた不思議なこと……。
「その分、笑ってくれたらかわいいなって思った。食べるときはがっつくし。自分に嫌気がさして泣いている姿を見たら、守りたいと思ったんだよ」
「……やっぱり良いとこなしじゃない」
なんの慰めにもならないとうなだれる。
「そう? 一度好きだって思ったらささいなことなんだよ」
そうして私を甘やかして、レクィエスには得なことがない。
それでも頬に唇を寄せられればほだされてしまうのが私だ。
レクィエスは相当な変わり者のため、覚悟を決めて交際する必要がありそうだ。
なんとかなると思ってしまうのは、私も同じように拗らせているからだと、情けなさとくすぐったさに笑った。
「これからどうしようか。ウェリナはどうしたい?」
ファルサに憑依した聖女として、レクィエスに同行していた時系列を思いだす。
それが当たり前だと思っており、他の選択肢があると考えさえしなかった。
(あの時はファルサとして癒しの力を持っていたけど……)
今は違う。
無力どころか人を不快な気持ちにさせる悪女だ。
聖女を虐げた国民の敵。
(きっとこのままでは平穏に生きていけない。あの子は救われないままだ)
私はファルサとレクィエスにも救われた。
このまま静かに表舞台から姿を消せば、誰の毛も逆立てずに済むだろう。
――だがそんな自分を許せなかった。
罪悪感と、下手な正義感が私を盲目にさせる。
レクィエスを巻き込むことでしか、私の生きる道は存在しなかった。
「魔物、倒して平和に過ごしたい」
たくさんの悲鳴に耳を塞ぎ、泣いている子どもがいても目を閉じる。
それはまるであの子から目を背けるようで嫌だった。
「ズルいってわかってる。どうしたって私は魔物と戦えないし、役にも立たない。だけどここで逃げたら私、自分を許せない……!」
「わかった」
「えっ……?」
あっさりと了承の返事を得て拍子抜け。
レクィエスに一番負担がかかることを言っているのだから、もう少し躊躇いをみせてくれてもいい。
いくらなんでも即決すぎると、逆に私はレクィエスの肩を掴み、大丈夫なのかと揺さぶった。
「わかったって、大変なのはレクィエスなのに。少しは悩んでよ」
「別に俺、魔物怖くないし。ウェリナがそうしたいならそうすればいい。その方が後々おいしいかもしれないだろ?」
「バカ! 魔物って怖いのよ!? バカみたいに強いし、村ひとつ余裕で壊しちゃうし!」
「俺、仮にも英雄だから。その先にウェリナの欲しいものがあるなら、いいよ」
レクィエスの選択肢は一択だ。
私がこうしたいと言えばそれが彼の選択となる。
あきらかに彼に不利な内容だとしても、私の望みをかなえるためなら躊躇わない。
それくらいレクィエスの生きる軸が私で出来ている。
失えば生きていられなくなるほどに、叩けば粉々に砕けてしまう心だ。
ようやく彼の絶望を理解できた気がした。
(私がいないと、レクィエスは生きられないんだ)
未来で戦闘放棄した背景には、彼の心が限界にきていた可能性がある。
少なくとも彼に生きてほしいと願うならば、私は彼を遠ざけてはいけない。
(まるで依存ね。私ももう、レクィエスなしでは生きていけないもの)
レクィエスの背中越しに、心臓の位置をポンポンと二回叩く。
「ウェリナ?」
「レクィエスのこと、私が守るからね」
目を丸くする危なっかしい彼に私はぎこちなく口角をあげた。
今は彼の気が済むまで抱きしめて、お互いに安心できる距離に寄っていこうと決意した。
いつかあの子に会うための、過酷な道を選んで私たちは旅に出た。




