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第28話「悪女、再生」

城に戻れば問題となり、公爵家に帰っても爆弾を投下するようなもの。


レクィエスは少しでも落ちつける場所を求め、普段ファルサが拠点とする教会におもむくことにした。


神父は驚くも、すぐにあたたかく迎え入れてくれた。


魔物討伐の際、各地の教会に立ち寄ることが多かったとレクィエスは話す。


ひとまず土埃で汚れ、冷えてしまった身体をあたためようと湯に浸かるにした。


ほのかな照明と、窓から差し込む月明かりが、ようやく私に輪郭を与えてくれた。



(助かった……。私、助けられた。最低なことをしたのに)


ファルサに怒りという感情はないのだろうか。


定型文を語るようにあっさりと受け止め、道を示してくれた。


本人の口から聞いたわけではないので定かではないが、ファルサの身体を奪った未来を知っていそうな雰囲気だった。


もし知っていたとしてあの寛容な態度だとしたら、どこまで慈悲深い聖女なのかと訊ねてみたくなる。


すべてを許すなんてことは、聖人君子であっても難しいことなのだから。


(これから罪の重さを知っていく。……怖いな)


それでもあの絶望とともに迎える死よりはマシだ。


そう思うのは私がまだ甘ったれた現実しか見ていないからだろうか。


顔を半分をお湯に沈めて泡をぶくぶくと吹きだした。


(なんでもいい。レクィエスとようやく気持ちが通じたから)



「ウェリナ」


「! レクィエス⁉」


浴室をさえぎるカーテンがサッと横に流れ、レクィエスが顔を出す。


何食わぬ顔をして入ってくるレクィエスに私はとっさに両手をクロスさせて胸を隠した。


「な、なんで……ビックリするじゃない……!」


「ごめん。ちゃんとお湯につかっているかなーって」


「浸かるわよ! 神父様のご厚意なんだから!」


「……よかった」


安堵して微笑むレクィエスだが、どこか陰りがある。


よく見れば顔は青白く、疲労の色が濃かった。


それもそうだ。


処刑されそうになる私を助けようと、遠方から駆けつけてくれたのだから。



今回、間に合ったのはなぜだろう?


以前も同じように駆けつけてくれていた?


もし駆けつけていたと仮定して、あと一歩で間に合わなかったのだとしたら?



――残酷な処刑現場を目の当たりにしていたことになる。


どれだけ打ちのめされただろうと想像すると、手を伸ばさずにはいられなかった。


レクィエスの手を掴み、バスタブに身体を寄せる。


チャプチャプとお湯が弾け、月に酔いながら一途にレクィエスだけを見つめた。


「ありがとう。助けにきてくれて」


レクィエスの目が見開かれていくのに対し、私は両手でレクィエスの手を引いて濡れた頬にあてる。


「うれしかった。本当はずっとレクィエスに会いたかったの」


「……あおってるの?」


「? レクィエ……」



頬にあてていたレクィエスの手が強引に後頭部にまわりこむ。


グッと引き寄せられて膝立ちになると、バスタブからお湯が飛びだした。


それを指摘する余裕もないうちに、唇が重なり獣のように噛みつかれる。


えくぼが強張っていくが、すぐに懐柔されて目を閉じた。


唾液が途切れると、レクィエスは私を抱きしめて耳元に顔を寄せた。


「もう、体調は大丈夫? 熱は……」


その問いかけに私は自分の中から異常な熱が消えていることに気づく。


あのでたらめな火照りは暴走したあの子の嫌がらせ。


運命が変わった今、あの子はどこにいるのだろうと、もの寂しくなったレクィエスの背に手を回した。


「熱い。すごく熱いよ」


嘘のような本音。


彼にだけ向ける私の浮ついた言葉だ。


熱があろうがなかろうが、求めるのはレクィエスだけと、言葉にならないまま知ってほしかった。

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