第25話「悪女の断頭台」
鋭い巨大な刃が待ちそびえている。
何度も血を吸った痕跡があり、太陽があたるとギラリと狂気を光らせた。
(断頭台……! これってまさか……)
「おい、さっさと歩け!」
「きゃっ!?」
背中を突き飛ばされ、よろめきながら足を踏ん張らせる。
両手首は縄で縛られ、それを手綱に兵士に引かれて死への道を歩いていた。
断頭台を囲む石壁の観客席。
多くの国民が”悪女の最期”を見ようと集まっている。
魔物被害により、生活に困窮する民にむけた余興のようなもの。
「悪女は死ね! 淫乱女!」
「贅沢三昧……。誰がその金払ってると思ってるんだ!」
「聖女様になんてことを!」
事実以外にも尾ひれがついているが、聖女に対して行ったことは言い訳しようもない。
無関係だったファルサに危害を加えた罪だ。
断罪が正しい。
恐ろしくても階段をのぼって首を切られるべき。
――それは正論であり、事実か誤りかは別問題だ。
悔しいことはたくさんあり、歯を食いしばってばかりだ。
私は足を止めると、兵士の顎に頭突きを食らわせた。
「ぐあっ!?」
「何して……あっ……!」
突然の抵抗に兵士たちに隙ができ、現状打破のため必死に駆ける。
(いやだ! 死にたくない! 自分勝手とはわかってる! でもこんなのは嫌だ!)
立ち向かうこともなく終わるのは嫌だ。
本当の想いを聞かずに、見捨てるように消えるのは嫌だ。
どうして最期の瞬間、「愛してる」と言ったのかを知りたい。
(本音を聞きたい!)
「おい! おとなしくしろ!」
「うあ"っ!?」
兵士に髪を引っ張られ、痛みとともに地面に倒れ込む。
ここは処刑場、罪人を裁くところだ。
何十人もの兵士が見張っており、石壁に囲まれて逃げ場はない。
悪女の断罪を観に来た民から石を投げられ、罵声が飛んでくる。
誰一人味方がいない。
聖女を殺そうとし、一瞬で名前が知れ渡った悪女。
助けたいと思う者が変わっている。
言い訳をする気はない。
だが彼に会うまでは諦められないと、私は地面に押しつけられた状態で叫んだ。
「レクィエス! あなたが好き! 愛してるの! あなたにそれだけ伝えたくて……!」
「騒ぐな!」
「うっ……!」
横腹を蹴られ、痛みにうずくまる。
頭は痛いし、お腹も痛いし、汗と涙でぐしゃぐしゃだ。
おまけに泥まで跳ねて、とても貴族の令嬢とは思えない悲惨さ。
泣いて駄々をこねたい。
こんな私を好きだなんてやはりレクィエスは変わり者だ。
ここにレクィエスはいないのに。
魔物討伐のために王都を離れていると知りながら、夜空のような面影を探している。
一等星のようなきらめく瞳、愛を乞う切なげな声。
今でもそれが本物だったかわからないが、私が好きなのだからどうしようもない。
あきれるほどに、私はレクィエスを愛しているから。
「会いたい……。レクィエスに会いたい!!」
どこを見ても視界がかすむ。
空の色を見て、あの子を思い出し、会いたいと願う。
疑り深くて、まわりの見えない私だけど、あの子とちゃんと目を合わせられるように。
愛せるようになりたい。
母が私の名を呼んでくれたように、名前のないあの子を呼びたかった。
「ウェリナッ!!」
世界の音はその声一つ。
いつも一途に私を見つめ、手を伸ばしてくれる。
あふれきった想いをぶつけたい。
だけど触れたいという想いも捨てきれなくて、身体をよじって叫んだ。
「レクィエスーッ!!」
兵士たちが強制的に道を開かされ、伸ばされた手が私の伸ばした手に触れる。
何にも縛られない手が私を引き寄せ、胸に抱き寄せる。
恋しかった温度に涙があふれ、なりふり構わず身体を押しつけた。
「好き。レクィエスが好きなの。愛してるって、言いたかっ……」
「愛してる」
唇に噛みつかれる前に、私にだけ聞こえる声で愛をささやかれる。
懇願するように押しつけられた唇に、私は目を閉じて身をゆだねた。
想いを隠さなくていい。
ありのままの愛情をぶつけられると満たされる。
ようやく実感を得たのは、自分を卑下することなく愛せる喜び。
涙のしょっぱさが身に染みた。
「俺、気持ち変わらないよ」




