第24話「愛したかった」
その言葉にハッとして、子どもとの向き合い方に正しさはあるのか思い悩む。
正しい、間違っている。
それよりも大切なのは、子どもが答えを出しているのに……。
私は母に愛情をもらったくせに、自分の子に愛情を注ぐチャンスを失った。
自分のことばかりで、私は私を見てくれる人から目を背けていた。
「愛したかった……」
声を出そうとすれば歯がカチカチと音をたてる。
喉が震え、まぶたが重くてまばたきの回数が増えてしまう。
醜い姿を隠そうとは思わなかった。
「私、レクィエスが好きよ。偽物だって認めるのが怖かった。自分から愛するのが怖かっただけなの」
「バカ」
「そう、バカなの。だから貪欲にもなる。あなたを失いたくないなんて、そんな都合のいいことを言ってはダメかもしれない。それでも言わずにはいられないの」
キレイごとに片付けることが出来ない。
未来の話であり、ここでウェリナとなった私には関係ないと切り離せなかった。
私の未来にこの子がいると思うと、皮肉にも私は未来を生きたくなった。
(遅すぎる。でも、せめて伝えたい。私はあなたたちを愛してたって、ちゃんと……)
この非現実の空間にいるということは、私の人生は幕を閉じたのかもしれない。
自暴自棄になった末路が断頭台。
疲弊した国民に、より不幸な姿をみせることで一時的な快楽を与えた女。
男をはべらせ、狂わせた悪女の集大成だ。
「あたし、生まれたかった」
空のように澄みきった色が私を映す。
「あの時系列に産まれることは出来なかった。だけど生まれたかった。だから……」
そう言って女の子は顔を赤らめ、むずがゆそうに唇をとがらせた。
首を傾げて顔を覗くと、女の子はやけくそになった赤い顔でボソリと呟いた。
「ウェリナがレクィエスと作っちゃえばいい……とか思ったの」
衝撃的発言に目が点になる。
子どもの発言とは思えない大胆さに思考が追いつかず、散らばったピースを集めて埋めていった。
(つ、つくっ……!)
「ちょっと! あなた子どもでしょ! どこでそんな言葉覚えたの!」
「産まれてないから年齢なんてないよ。ウェリナから影響うけたんじゃない?」
カッと恥ずかしさに身体を引き、両手で顔を覆い隠す。
(もーっ! もう、もうっ! なんて怖いもの知らずなの! ひねくれもの!)
そうさせてしまったのは私の行いを受けてのことのため、怒るに怒れない。
子どもは繊細で、よく周りを見ていて、愛情をうかがう生き物なのかもしれない。
一番、私が愛さなくてはとても脆い存在なのだと知った。
もう一度手を伸ばし、やわらかい頬を撫でて反対の頬に口づける。
「私、レクィエスが好き。まずはその気持ちを認めて、伝えるところからはじめたい。……もう遅いかもしれないけど」
きっと私は死んでしまった。
レクィエスの本当の気持ちを聞くこともなく、勝手に命を捨てた。
なぜファルサに憑依したかはわからないが、今そんなことはどうでもいい。
足掻く。
無様に、地を這ってでも、私は私の想いに生きたい。
私はたくさん母から愛情をもらったから。
なんだって構わない。
この子を愛したい。
それが全部だった。
「本当はこんなことするつもりはなかった! したくなかった! だってママなんだもん! キライだけど、ママのこと大好きだもん!」
母親失格。
愛すべき子に「キライ」と言わせるのはなんと罪深いことか。
子どもはいつだって母親の愛情を求めている。
それを私が一番知りながら、それが出来なかった。
ファルサに執着した私の愚かな未来――。
「たすけて……」
消え入りそうな声にハッとし、顔をあげる。
目の前にいるのはか弱く、小さな子。
――私とレクィエス、二人で愛し抜きたい子だ。
「魔物に勝てないの。魔物があたしの中にいる」
「どういう……」
理解が出来ない。
動揺だけが先行する。
突き飛ばされ、何もない底に身体が落ちていくも、何をすればいいかがわからずに手だけを精一杯に伸ばした。
「レクィエスのところに戻って! ……いつか、名前をつけて」
さみしさを隠した微笑みに、胸が締めつけられる。
はじめて本当の顔を見た気がした。
私はこれ以上、この子が悲しく泣くのを見たくない。
たったそれだけの本能が、喉を引き裂くほどの力で私を叫ばせた。
「見つける! 約束する! 必ずあなたの名前を見つけるわ! だからどうか私とレクィエスのところに‼」
また、生まれてきて――。
愛したいと、強く強く想いを抱いた。
その想いに、あの子はキラキラとした涙をこぼしながらくしゃりと微笑んだ。
「またね。今度会ったら、あたしを抱きしめてね」
草原から真っ暗な空間へ、何度も空間が歪んで最後に青空が視界に広がった。
歓声と罵声がワッと響き、青空とはかけ離れた鉄臭い匂いの充満する場所に立っていた。




