第23話「すべてが終わったあの瞬間」
私を愛しているのではなく、何らかの力が働いてのこと。
その”何か”は義弟のラミタスにも影響を及ぼした。
突如、ラミタスは私に手を伸ばし、身体の関係を要求してきた。
幸いにも衛兵に見つかり事なきを得たが、激怒した父がラミタスの頭を冷やすために遠方の領地に送った。
ほぼ無差別のような誘惑に、私は何度も吐いて自己嫌悪に陥った。
火照りに悩まされるたびに、レクィエスを利用した。
彼もまた、“何か”に惑わされていると知りながら、私は“レクィエス以外は嫌だ”とワガママを貫いた。
振りまわしてはダメだと、言葉だけは拒絶する。
態度は受け入れていた矛盾。
何度、想いに応えられないと突き放しても、レクィエスは何倍も「好きだ」と口にした。
たった一度の出逢いがそこまでの愛に繋がるとは思えず、愛を否定した。
(私だって普通の女よ! 嫉妬もするし、独占欲だってあるし、愛されたい!)
好きな人に愛をささやかれて、うれしい気持ちを隠しきれるほど器用ではない。
その隙が今に続く彼との関係性。他の男に抱かれるなんて、吐き気がして耐えられなかった。
(利用なんてしたくないの)
レクィエスは私の身体の異変に気づいていた。
抗えない熱をおさえるためと、互いに言いわけをつけて触れあう。
操られた気持ちを利用して抱かれるたびに、心にはヒビが侵食し、良心と罪悪感の板挟みに倒錯した。
壊れそうな状態で生き繋ぐ。
女性には嫌悪されており、誰にも相談できず。
母を亡くしてからずっと冷たい公爵家で過ごし、愛情に飢えていた。
過剰に人の目を気にするようになり、潔癖なほどに自己否定をしては涙に暮れた。
(キレイな人……。ファルサ……聖女さま……)
理想的な美しさをもつファルサに焦がれた。
人々に愛され、おだやかに微笑み、何もかも包み込む慈悲深い女神にしか見えなかった。
聖女として民のために尽くす彼女を知り、いつしか彼女になりたいと憧れを抱く。
同時に嫉妬心もあり、私よりもよっぽどレクィエスの隣が似合うと心が割れた。
――それからよく覚えていない。
ウェリナ・リガートゥルの生涯は断頭台での公開処刑で終わり、悪女として静かに消えていった。
「愛してる」を受け入れず、「愛してる」を伝えることもなく。
本音と後悔が入り混じり、ファルサに憑依してしまうほど――。
「愛してるの」
ファルサとして生き、レクィエスの子を身ごもった。
身体はファルサだったかもしれないが、中身は聖女と勘違いしたウェリナだった。
レクィエスを愛することを許された清らかな身で、幸せに酔っていた。
「ごめんね。あなたのこと、守らなきゃいけなかったのに」
私の幼少期に似ていると、時間をかけて気づく。
あったかもしれない未来。
この子は私とレクィエスの間にあった可能性だと知り、感極まって力の加減なく女の子を抱きしめた。
「都合がいいよね。ほんと、自分勝手でごめんね」
泣きじゃくる私より、女の子の方がずっと大人で、困ったようにため息を吐く。
「あたしの中にはママの幸せを願う気持ちと、憎いと思う気持ちの二つがある」
さらさらの細い髪の毛はレクィエスと似ている。
愛おしい色を持っているのに、顔立ちは私に似ているのでつくづく神様は嫌がらせが好きだと笑った。
「あたしに気づかないし、自分を認めないでいる。じゃあ、あたしのママは誰なのって、ずっと思ってた」
すべてが終わったあの瞬間。
レクィエスが戦闘放棄し、私が前に飛びだして命は絶たれた。
レクィエスを守りたい一心だったが、まさか時が巻き戻ると誰が考えようか。
ましてや処刑されて、ファルサの身体を乗っ取る愚かな行為に走る。
今、すべてが自己嫌悪から起きたループと理解したが、それでも自分を認めることが出来ないまま。
ファルサに憑依していた状態で身籠っているので、この子にとっては誰が母親か不明確となる。
情けない母親としての私は認めたくないが、子どもを愛せない私はもっと嫌だった。
「あたしは魔物になったんだぁ。……魔物にはね、不思議な力があるの。だからウェリナが嫌がること、しちゃえばいいと思ったらそれが現実になっちゃった」
私の弱さがこの子を魔物に変えてしまったのかもしれない。
私を憎むようになったのは、私がすべてを拒絶したからだ。
私はウェリナであることを放棄するということは、この子の母になることを拒否したのも同然だった。
愛に裏切られたから、愛で裏切り返す。
愛で傷つけることなんて容易いから。
ウェリナの母は愛を注いで育ててくれたけど、父はそうでなかった。
二人の間に愛はなく、母が死んだあと父はすぐに後妻を娶った。
部屋にこもり、身を守るしかなかった私は愛情不信になる。
愛ほど不完全で、誰かを幸せにも不幸にもするものはない。
たくさんの”嘘の愛”をささやかれ、キモチワルさに逃げる。
初恋相手にすがって、気持ちを弄んだ。
彼の気持ちが”本物なのか、嘘なのか”を見ようとしなかった。
「愛は怖い。信じたら傷つくだけだもの」
産まれなかった我が子を抱きしめ、口の中のしょっぱさに唇を丸める。
「ママが愛してくれないと、あたしはママを愛せないよ」




