第22話「罪つくり」
これでよかった。
ウェリナが処刑されればきっと私は元に戻れる。
レクィエスを愛して、今度こそ心に寄り添って魔物討伐を果たす。
失う必要のなかった命を二人で抱きしめたかった。
――だからこれは正しい犠牲――。
「バカじゃないの」
膝を抱えてうずくまっていると、白い花びらが舞い落ちてくる。
牢獄にいたはずなのにあたりは真っ暗で、花びらだけが光って見えた。
すべてが終わったのかもしれないと顔をあげると、花びらの先に小さな足を見つけた。
「あなた……」
私を見下ろす青い瞳は侮蔑に満ちていた。
私とレクィエスの子、生まれることが出来ずに恨みだけ残した子。
「どうして気づかないの? だからムカつくの!」
レクィエスとファルサの子。
不必要なのはウェリナだからこの選択をした。
「私のこと恨んでるんでしょ? だからもう間違えないように……」
「それが間違ってるの!」
女の子は苦虫を噛み潰したような顔をし、思いきり私の頬を叩いた。
ゆっくりと頬が痛みだし、私は呆然と頬に指を滑らせる。
(どうして怒るの? 私、ちゃんと産みたいから苦肉の策でこうしてるのに……)
そう思って、我に返る。
(なにか……変)
母の顔が思い浮かび、すぐに目の前の女の子の肩を掴んで顔を凝視した。
(産みたい……。そう思ったのに、誰を産むのか見えていなかった……?)
とんでもなく、愚かで間抜けてしまったような……。
母は私を愛してくれて、何度も名前を呼んで抱きしめてくれた。
私とレクィエスの子ならば、愛おしい存在でありどんな顔をしているのか。
見るべき相手を見ていないのではないかと、女の子のやわらかい頬を両手で包んだ。
さらさらストレートの青い髪、いやよく見れば青よりも深みのある濃紺だ。
瞳は深海のように見えていたが、光りが当たれば広い空の色に変わる。
どう見てもファルサにそっくりな顔なのに、今の私にはだんだんと違う顔に見え始めていた。
「”私”なの?」
親指で女の子の目元をなぞり、猫目の目尻に指を滑らせた。
「バカなの? ふつー間違わないでしょ?」
女の子はむくれた顔をして強く私を睨みつける。
「認めて。自分は誰なのか、それがわからないような人、ママじゃない」
「やだ……!」
誰よりも悲しい想いをしていたのはこの子だ。
それなのに私は自分のことしか見えていなくて、“産むこと”を盾に正論ぶった。
一番大事なのは、私がこの子に対して愛情を抱くこと。
何をされても受け止め、時に叱り、愛を語るべき相手だ。
お母さまが私にそうしてくれたように、私がこの子に繋ぐべきだったのに……。
「ごめんね……」
――盲目さが、あなたを殺した。
こみあげてくる熱い想いに涙し、私は女の子を抱きしめる。
「気づいてあげられなくてごめんね。痛かったよね。ごめん、ごめんね……!」
「パパはレクィエスだよ。ママは、どっち?」
答えを知りながら、私を試すように問いかける。
愚かな私にサヨナラを告げ、愛しい我が子に額を重ねてやさしくささやいた。
「私は、ウェリナよ。あなたのママだよ」
――ようやく、私は自分が誰かをはっきりと認識した。
死後、ウェリナに憑依したのはファルサではなかった。
断頭台で処刑されたウェリナがファルサに憑依した。
私ははじめから“ウェリナ・リガートゥル”だった。
清廉潔白で、理想的な美しさをもつ聖女・ファルサに夢を抱いた。
悪女でしかない自分より、ずっとずっと隣に立つのがふさわしいと思い、暴走した結果がこれだ。
レクィエスに愛していると言われるたび、私はキレイな自分で向き合えないことに悲観的になって、愛情から目を反らし続けた。
二年前、女性の成人を迎えると身体に異変が起きた。
身体が熱くなり、抑えられない苦しさに意識が朦朧としているところをレクィエスに見つかってしまった。
初恋相手に再会してときめく余裕もなく、私はレクィエスにしがみつく。
熱に浮かされて、私に理性は残っていなかった。
レクィエスに「覚えてる?」と問われてからはよく覚えていない。
目が覚めたとき、私はレクィエスと身体の関係をもっていた。
レクィエスは私に「ずっと好きだった」と告げ、両想いに舞いあがる気持ちとなった。
同時にどん底に突き落とされる感覚を味わう。
レクィエスが私に語る愛は”本物ではない”と気づいてしまったから。
――素直になれなかったのは、レクィエスの愛を“本物の愛”ととらえていなかったため。
惑わせて利用する自分が許せなくなった。
この身体は男性を誘惑する”何か”がある。
それにレクィエスは惑わされて色情を抱いたに過ぎない。
加えてレクィエスは出逢いの瞬間を美化している節があった。
なにより、彼から強烈な違和感が突き刺さったから。
黄金の瞳があまりに盲目に私を見ており、まるで刷り込まれたかのように愛に固執していた。
喜ばしい告白は、私に罪をつくった。
告白されて怖くなり、私はその場から逃げてしまう。
それで熱がおさまることはなく、望んでいないのに突発的に熱が襲ってくるようになった。
男性は操られたように私を囲み、心のこもらない”愛してる”をささやいた。
瞳を見れば一目瞭然だった。




