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第20話「本当の悪女」

「ウェリナ、男の人嫌いだもんね。清廉潔白に生きたかったもんね」


男嫌い?


あれだけ男をはべらせていたウェリナが?


清廉潔白な生き方とまるで逆だったが――?


「待って……。ウェリナはあなたと何の関係も……」


「あるよ。レクィエスが愛してたのはウェリナだもん。戦うの。やめたのはウェリナのせいだもん」



思いだす。


私の最期、レクィエスの本心。


“ごめん、ウェリナ。あいしてる”



結局はこの言葉にすべてが集約されていた。


ウェリナをきっかけに、レクィエスはあっさりと魔物と戦うのを放棄した。


今、ウェリナを助けるために魔物に立ち向かっているのに、それを投げ捨てるのはおかしなこと。


絶望して、愛に死んだみたいだ。


「私はレクィエスをかばって……死んだ」


ウェリナの存在が戦闘放棄に繋がったとすれば、この子が恨むのと辻褄が合う。


憎む対象のウェリナがもっとも嫌がることをし、苦しむ姿に嗤って楽しむ。


だがわからないのは、すでに死んでいたウェリナを憎むことだ。


憎むべきはウェリナというより、ファルサに向ける感情のように思えるが……。


「私……レクィエスを愛してるのよ」



私は立ち上がり、胸に手をあてて自分に言い聞かせるように子どもに告げた。


にっこりと笑うだけで、子どもは何も答えない。


今の私は未来を知っている。


つまり未来で戦闘放棄を起こさず、生き残ってこの子に出会う道もあるはずだ。


ファルサとしてレクィエスを愛し、愛される未来が待っているかもしれない。


ならば答えは一つ――。



「私が死ねばいいのね……」


ウェリナという存在を未来に残さない。


この子もレクィエスも、ファルサとしての心も守るにはウェリナが邪魔だ。


記憶のとおり、ウェリナではなくファルサとして結ばれ、魔物に支配される未来に勝てばいいだけのこと。


「私、苦しかったものね……! レクィエスに向き合えない自分が嫌だったもの!」


女の子は何も答えなかった。


クスクスと笑い声が響き渡り、再び雷がおちてステンドグラスが割れる音がした。


とっさに目を閉じて女の子を抱きしめて守ったが、何の感触も腕に残らない。


目を開けば、雨の音がやけに目立つ教会に一人、座りこんでいた。




私は女神の像を見上げ、手に残る温もりを握りしめる。


(そっか。私が憑依したのはウェリナを断頭台に送るためね)


女の子を生かすため。


ファルサとしてレクィエスを愛し抜くため。


すべてを背負えるのは未来に生きるファルサだけだろう。


……ならばいっそのこと、ここで死んでしまえばいいのではないか?



そう思って首に手を回してみたが、少し締めたところで耐えがたい頭痛に悩まされる。


脳裏によぎるのはレクィエスの愛を失い、絶望に死にゆくときの私。


あんなにも冷たくて恐ろしいのはもう嫌だと、私は首を締めきれずにその場に倒れ込んだ。


(死ぬのが怖いんだ。だから逃げられない場所にいく。こんなの誰も巻き込めない……)


私でけじめをつけるしかない。


これは私たちの勝敗を決するための、余興に過ぎないのだから。



***


本当の悪女は私かもしれない。


だって自分の都合でこの行動をとることを選んだのだから。


未来を知っているから、階段から突き落としても彼女は死なない。


それに彼女は聖女であり、清らかで何一つ後ろめたさのない人だった。


純粋に夫を愛し、民のために魔物と戦う道を選んだ。


理想を体現するかのように、愛によろこび、他者のために懸命に聖女のつとめを果たした。


清く正しく生きてきた私が、今は汚染されたかのように泥まみれだ。


最低な行いだとしても、彼との幸せをあきらめきれない。


ここで私が消えれば幸せな未来を掴めるかもしれないと希望を抱き、絶望に落ちる。


失ってはいけないものを失った。あの子の憎しみもひっくるめて、私が罪を犯す。


赤いドレスを手にとって、悪女の顔になる。


この身体から解放してあげる。


もう十分苦しんできたと、私は知っているから。


これが私とあなたのための最善。


「ごめんなさい。どうか私のために死んで……」




彼のいない王宮に入り、予定調和のその場へ向かう。


この日は王宮でパーティーが行われており、王に招かれた聖女見たさに多くの貴族が集まっていた。


「魔物なんだが、普通の兵士じゃまったく歯が立たないようだ」


「あぁ、それであの呪われた王子……レクィエス殿下が出たそうだが」


「殿下はあっさりと魔物を倒したらしいぞ! きっと民を助けてくださる!」


ずいぶんと都合のよい言葉が飛び交う。


散々、呪われた王子として蔑んできたくせに、危険が迫れば媚びを売る。


魔物の恐ろしさを知らない貴族たちが、民たちの疲弊も知らずに酒を飲み浮かれていた。

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