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第2話「聖女はどこにいる?」

その可能性はありそうだ。やたら吐き気に襲われるので二日酔いかもしれない。


私はお酒を飲まないが、ウェリナは飲む人だったのだろう。


それくらいには、ウェリナという人間を知らないのが現状だった。


「あの……イリアさん」


「なんですか、その改まった呼び方は。イリアでいいですよー」


イリアとは打ち解けた仲だったのだろうか。


探りさぐりでしか関われないので、イリアの反応をみながら答え合わせをしていくしかない。


「今ってその……魔物は大丈夫なの?」


「魔物? 何のことですか? そんなのいるわけないじゃないですか~」


となれば、魔物が発生する前と推測できる。


ウェリナが処刑されたのは魔物が発生してすぐのこと。


私とレクィエスはまだ結婚どころか出会っていないはずだ。


魔物は突如発生し、誰にも倒すことが出来ずに混乱しているなか、唯一魔物に対抗できる存在としてレクィエスが表に出た。



英雄と称えられ、国の希望となった人。


まさか彼が本当に愛していたのはこの身体の持ち主・ウェリナとは思いもしなかった。


私は心から彼を愛していたので、一方通行の想いだったと知り、身を引き裂かれる想いに涙をこぼす。



「レクィエス……。彼はどこ? ファルサは今どうなって……!」


「レクィエス殿下……。あの、呪われた王子のことですか?」


「ちがっ……! ……違わないけど」


彼は英雄となる前、”呪われた王子”と呼ばれ忌み嫌われていた。


その理由は妾の子という単純な理由。


妾が正体不明の女だったために、彼は迫害されることとなった。


(魔物が現れる前。私はまだ、彼に恋をしていない……)


もしウェリナの身体に憑依していたと仮定して、この時にはファルサも生きているはず。


そう考えると、ファルサの身体にいるのは誰だ、と焦りが募って立ち上がった。


「外に出ます! えっと、着替えはどこに……」


「えぇ⁉ 朝食はどうされますか?」


「……今日はいいわ。ありがとう」


心配の色をみせるイリアだったが、私が折れる気配がないと察したようで「着替えをお持ちします」と言って部屋から出ていった。


(やっぱり仲が良かったのかしら? 少し意外だわ)


とことん女性に嫌われていたウェリナが傍に仕えるメイドとは仲が良いなんて。


先入観だが、メイドたちにも横暴に振る舞うワガママな人だと思っていた。



(私を殺そうとした人。……それしか知らない。どうして……?)


一人で悶々と考えても答えはでない。


まずは現状把握しかないと、私はレクィエスとファルサの現在地を知るために動きだす。


ドレスルームをあさり、簡素なワンピースを見つけるとそれに着替えてこっそりと外に出た。



***


街はとても賑やかで活力に満ちている。


私の直近の記憶とはまるで別世界だ。


(”私”は教会によくいたわ。……逆に教会以外どこにいたかしら?)


ファルサとして明確な自覚がありながらも、魔物と戦う日々が強烈すぎてそれ以前のことは不鮮明。


教会で人々の傷を癒し、時に給仕として子どもたちと接していた日々を思いだし、ものさみしい気持ちに口角が上がる。


魔物が現れる前は密やかに過ごしていたのに、国が荒れて聖女の力は奇跡だと救いが求められた。


記憶をたどりながら歩いていると、見覚えのある教会が空に突き出ていた。


(あの教会だ!)


急いて走りだし、草木に隠れて教会の前をのぞき込む。


小さな子どもたちに囲まれた女性がいた。




青色の長いストレートの髪に、同色の瞳。


おだやかで優しい目元をした清楚な女性、それがファルサだ。


(私はここにいるのに、どうしてそこにも私がいるの⁉)


教会には孤児院が隣接しており、子どもたちとよく遊んでいた。


今も同じように“私”が助けを求める人たちに微笑んでいる。


「ファルサ様……息子が怪我をして」


「あらら、痛そうですね。大丈夫、すぐに治りますから」


ファルサが傷口に手をかざすと白い光が波打ち、傷を治していく。


ぐったりとしていた男の子は目を見張り、傷を負っていた頭部に触れて笑顔を浮かべた。


「ありがとう! ファルサ様!」


「いいえ。治ってよかった。でもあんまり怪我しないように気をつけてくださいね」


そう言ってファルサは淡々と、人に呼ばれるたびに駆けまわっている。


あのようにいつも駆けまわり、魔物が現れて新たな役割を担った頃、レクィエスに出会って恋をした。


魔物で疲弊した国で英雄となった彼と、傷を癒す聖女は運命的だと民は盛りあがる。


人々の祝福を受け、私たちは結婚した。


民に望まれた政略結婚ではあったが、私はレクィエスを愛しており、彼もまたやさしく接してくれたので満たされていた。


魔物を討伐するために彼といっしょに旅をして。


忙しない日々だったけど彼のそばにいられて幸せだった。


(なのに彼は……)


愛していたのは”ウェリナ”だった。


これ以上、報われない未来を待つファルサを見ていられず、教会から飛びだして城下町を駆けた。

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