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第14話「願っていたの、こんな日々を」

はっきりと思い出せないが、ここのお店は隠れた名店だと自信がある。


高揚する気持ちのまま注文して料理がくるのを待っていると、向かい側に座るレクィエスが甘ったるく微笑んでおり、つい顔を赤らめてしまった。



「あの……そんなに見ないで……」


「あ、ごめん。……ウェリナが付き合ってくれたの、うれしくて」


(それを言われたのが私だったら、どれほどよかったか……)


天にも昇る心地良い響きだが、私はウェリナとして受け取ることが出来ない。


身体だけの関係だった相手にどうしてそこまで幸せそうに笑えるのか。


「……ずっと、こんなおだやかさを願っていたのよ」


「ウェリナ?」


ハッと顔をあげ、醜い感情を口に出したことにショックを受ける。


(こんなの……! 聖女らしくない!)


「なんでもない」


幸せを憎いと思う日が来るとは想像もしなかった。


戦いのない平穏な日々を願っていた聖女の面影をなくしてしまった。


ここまで堕ちてしまうと、聖女どころか妻として願っていたことさえ黒く塗りつぶされてしまう。


(私……レクィエスと家族になりたかったよ。私、ずっと一人だったから……)


聖女として生きてきた。


その背景に家族は存在しない。


いつから聖女になって、誰かの痛みや苦しみに手を伸ばすようになったのだろう。


そんなに可愛げのある思考ではなかったはずなのに、レクィエスと結ばれてからは子どもを抱きしめてみたいと夢さえ見ていた。


絶対に、そんなことは叶わないのに……。



「おまたせしました」


アフタヌーンのセットが運ばれ、あいらしいセッティングに胸がときめく。


魔物が現れてからは困窮して、食材が不足して保存の効くものばかりになっていた。


念願だったレクィエスとのデートに恥じらいも忘れて口に食べものを放り込んだ。


(変ね。まだまだ食べられるわ! 私、こんなに食べる方じゃないのに!)


食べる手が止まらない。


あっさりと食べきってしまい、満腹にならないことに首を傾げてお腹を撫でた。


「……まだ食べてもいい?」


「もちろん」


何を言ってもレクィエスは否定しない。


食い意地ばかりの姿を見せるのは乙女心としては複雑だが、レクィエスが嬉しそうならなんでもいいや、と気が抜けてしまう。


食べ終わって、私とウェリナの明確な違いを知る。


ウェリナは基本的に大食いで、食べる時はとことん食べる人だと理解した。


ウェリナになってから気持ちが塞ぎこんでいたので、久しぶりに自由気ままに食事を出来て肌艶がよくなった気分だ。


魔物討伐で旅をしていた頃は、贅沢が悪という風潮があり食事を控えめにしていた。


お店を出て、手を繋いで城下町を歩きだす。


「おいしかったならよかった。他に食べたいものはある?」


「なっ……ないよ。もう充分……」


何をどうしたってレクィエスはウェリナに夢中だ。


あまりに愛が深すぎて、歪さを感じるほどに。


(やだな。悲しくなっちゃう。ここまで愛を表に出すなんて……)


もしも私が「ウェリナではありません」と口にしたところで、ただの頭のおかしい発言だ。


「見た目はウェリナだけど、中身はファルサなんです」と信じるはずもない。


(今の私にそんなことを口にする勇気もないの……)


「しばらく大丈夫そう?」


「えっ?」


何が、と思ってすぐに身体の火照りのことだと気づく。


二人の間では肌を重ねるのは当たり前のことだったと実感し、口の端をきゅっと結ぶ。


(この関係はいつからなんだろう? この身体の異変、レクィエスは……)


「どうしたの? 顔、赤いけど……」


「なんで私、コントロールができないの?」


聞かずにはいられない。


ウェリナの身体に憑依している以上、避けては通れないことだ。


息せき切って問うと、レクィエスは目を見開いてすぐに目を反らす。


どうやら言葉に思い悩んでいるようだ。


ようやく答えてくれた時、私は勝ち目がないと悟ることになる。



「デビュタントの時、俺はウェリナと再会して……。それからずっと……」


二年前のことだ。


二年もこのような関係が続いているかと想像し、ゾッとしてしまう。


レクィエスとウェリナが恋愛関係だという噂はなかった。


むしろ男をはべらせているわりに、誰一人特定の男女関係が噂にならない奇妙さもあった。


(あまりに不気味で、退廃的な人……)


「どうして、そうなったの? なんで私、こんな身体なの? 淫らで、イヤなのに……」


「落ち着いて、ウェリナ」


「愛されてなかったなんて、あんまりじゃない‼」


すれ違う人々が一瞬足を止める。


こんな喉を引き裂くような声をあげれば目立って当然だ。


不思議そうにこちらを見ながらもすぐに元の行動に戻る。

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