第13話「元夫とのデート」
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朝日が窓からさしこんで、私は倦怠感とともに目を覚ます。
(なんで私なの……。私、子どもの時ってあんな感じだったかな?)
相変わらず頭は痛くて、この身体は不自由が多い。
鉛のような身体を起こせば、つい先ほどまで人がいた温度が残っていた。
もぞもぞとベッドから降り、丁寧に椅子にかけてある服を回収していく。
外出用のドレスワンピースのため、さっさと一人で着てしまおうと足を通すが、背中のファスナーに苦戦する。
癖の強いピンク色の髪がひっかかってしまい、途方に暮れた。
レクィエスの私室から見える城下町を眺める。
王子に与える部屋にしては守りが薄い。
呪われた王子と呼ばれていたとしても、露骨すぎる線引きに憤りを感じずにはいられなかった。
部屋を見渡して、切なさに膝を抱えてうずくまる。
(どうしてそんなに頑張れたのかな……)
常に命の危険にさらされた環境下。
もの寂しげな背中に頬を寄せたかった。
レクィエスを悲しませるものすべてから守ってあげたかったと、かつてファルサとして抱いた気持ちを思いだす。
「ウェリナ、おはよう」
ボーッとしていた私の意識が引っ張られる。
湯浴みで濡れた髪をそのままに、レクィエスが部屋に入ってきた。
私はとっさにワンピースと一緒に置かれていたタオルを掴み、大股に進んでレクィエスに止まる。
背伸びをしてレクィエスの頭にタオルをかぶせると、勢いでわしゃわしゃと水分を飛ばした。
「えっと……」
「濡れたままだと風邪ひくわ」
「ん、ちょっと、恥ずかしいんだけど」
ポッと赤面するレクィエスに、こちらもつられて頬に朱が落ちた。
(なんでそんなことで赤くなるの⁉)
もっと恥ずかしいことをしているくせに……と思って、考えるのをやめる。
魔物討伐で旅をしているとき、レクィエスはいつも冷静で淡々としていた。
作業のように魔物を倒し、傷を負っても表情一つ歪めない。
やさしい人なのに、その時だけはまるで感情を押し殺した子どもに見えた。
英雄と呼ばれるわりにちぐはぐな一面。
それを愛おしいと思っていたのだから、この愛情はどうしようもないほどに重かった。
(かわいいな……)
こんな風に、ファルサとしても触れてみたかった。
これは恋心を抱いているウェリナにしか見せない表情だろうから。
「ねぇ、ウェリナ」
ファスナーに髪をレクィエスが丁寧にほどいていく。
絡まりが取れるとイタズラにうなじに唇をあてられた。
合意とはいえ、こうも愛を向けられてウェリナは何も言わずにいた鋼の心が恐ろしい。
本当に身体だけの関係だったのか、勘ぐったところでウェリナの答えは謎のまま。
「城下町、いっしょに出ない?」
「城下町に?」
なぜまたそんな唐突な、と思えば顔色を気にする困り顔のレクィエスと目が合った。
「ダメかな?」
「……いいよ」
「! 本当に⁉」
愛情に満ちた目で見られて断れるはずもない。
唇を尖らせ、仕方ないから了承していると言いたげにわざと大きくうなずいた。
見れば見るほど私の知るレクィエスとのギャップが大きい。
目の前のレクィエスは愛に飢え、ウェリナに愛を懇願する人だ。
強い愛を向けられて本当にウェリナは何も思わなかった?
こうも見目麗しくて、一途に想ってくれる人を邪険にできるはずがない。
愛さずにはいられない人なのに、ウェリナは薄情な女だ。
嫌悪感が増していく現状に歯を食いしばった。
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ファルサを探しに来たときは余裕がなく、城下町をただの景色にしていた。
魔物が現れる前はこんなにも人が外に出ていたのかと圧倒される。
レクィエスと並んで歩くのはいつまでも慣れない。
聖女として一心に生きていた私に、普通の女性としての喜びをくれた。
今はそれを何と呼ぶ関係かわからない。
「何か見たいものある?」
その問いにあたりを見回して目につくものを探すが、何もピンと来ない。
眉をひそめているとお腹がきゅっと鳴り、生き恥に目を反らす。
レクィエスは反応に悩んでいるようで口元を隠し、人の動きを追う。
不器用さがかわいらしいと胸が高鳴り、女性慣れしていない視線のさ迷わせ方が愛しかった。
「この先に素敵なお店があるの。そこに行こう」
「あ……。うん……行こう」
リードするのが必ずしも男性であるべきとは思わない。
二人が一番動きやすく、素直になれる道があるのならばそれが最善だ。
レクィエスの手をひいて歩きだすと、濃紺の髪が揺れた隙間から耳が赤さを知る。
照れ隠しはお互いさまだと、くすぐったいが複雑な心境だと肩を落とした。
お店はメインストリートから逸れた場所に立地しており、あまり人がいなかった。
昼食時にしては早く、立地的にも人がぞろぞろと流れてくるような場所ではない。
私はレクィエスの手を引いて、二階のテラス席に向かう。
(どうしてこのお店、知っているんだろう? 教会が近いから?)




