表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

第11話「好きな人の知らない顔」

「……レクィエス」


そう呟くと、腕の中のイリアが動揺に震えた。


私はイリアの肩に手をおき、すがるように答えを求めて丸っこい目を真っ直ぐに見据える。


「私とレクィエスはどういう関係? イリアはどこまで知ってるの?」


「あ……と、お嬢様? 殿下のことは話したくないって……」


「撤回! 今は知りたいの!」


なりふり構っていられない。


先に待つのが否定したいような真実だとしても、避けられる問題ではない。


もし私がファルサを突き飛ばさなかったら……ウェリナは処刑を回避する?


このまま進めば、どういう理由になるかはわからないが(ファルサ)と対面する日が来る。


そう考えたら心臓が握りつぶされる痛みが走った。


「お嬢様は殿下のことがお好きなのですか?」


ウェリナの本心はわからない。


答えられない質問に、苦し紛れに口から出たのは私の想いだった。



「好き……よ」


「……そう、ですか。そうかなとは思っていました」


イリアに気持ちを語ったことはなさそうだ。


この雰囲気から察するに、イリアはほとんど関与していない。


今は情報を引き出せるだけ引き出さなくてはならないので、なお苦しい気持ちが増していった。


「いつからだった? よく覚えてないの」


「二年ほど前でしょうか……。お嬢様は十六歳を迎えてから変わりました」


その頃にデビュタントもしていたはず。


私がウェリナを意識したのは、階段から突き落とされたことがきっかけ。


派手な赤いドレスに、波打つ髪が艶めかしい人。


吸い寄せられるような肌のなめらかさに、男たちは我を忘れてウェリナの周りを囲んでいた。


――魔性の女、と呼んだ方がいいかもしれない。


男にはいい顔をする姿は、いくら公爵令嬢でも女性たちの反感を買ってしまう。


レクィエスを好いていたとして、他の男にも色目を使っていたとしたら最低だ。


そればかりは同情の余地がないと、ズキズキと痛む頭を押さえて悩ましい思いに息を吐いた。



「わかった。ありがとう」


後はわかりきった関係だ。


ウェリナとレクィエスは身体の関係を持っているが、心はレクィエスの一方通行。


抱かれておきながらウェリナが誰を想っていたかは不透明だ。


結局、そこがわからなければ気持ちの矛先が見つからなかった。


「夕飯だったわね。今日はいいわ。……少し熱があるみたい」


「あ……そうですか……。でしたら簡単なおかゆでも用意しますか?」


「うん。お願いしようかな」


本当はまったく食欲がないけれど。


イリアが不安そうにしているので、これ以上心配をかけたくなかった。


おかゆを食した後、そうそうにベッドに入り眠ろうとする。


(やだな……。本当に熱っぽい。この身体、変よ……)


頭まで布団をかぶり、膝を抱えて固く目を閉じる。


下腹部が疼き、レクィエスにつけられた痕がチリチリと熱かった。


***


翌日、外の風を浴びたいとあの木の下に向かう。


昨日の雨で芝生は濡れており、レジャーシートを敷いて木に背を預けた。


イリアが用意してくれたクッキーの包みを開き、膝において一口かじる。


(おいしい……。なんだか懐かしい)


この木の下でよくクッキーを食べていた気がする。


(これは……ウェリナの記憶かしら)



私はこの場所でクッキーを食べたことがない。


あくまでレクィエスと出会い、恋に落ちた場所。


それ以外に思い出があるかを考えても、ピンとくるものはなかった。


風が吹き、肌寒さに腕を擦る。外に出てくるには薄着だったかもしれない。


馬車に置いてきた羽織でも取りに行こうかと思い悩む。


「ウェリナ?」


水気を含んだ芝生を踏む湿った音。


目を開いて顔をあげた先に、厚手のコートを羽織るレクィエスがいた。


花を咲かせるようにやわらかく微笑み、頬を赤らめて駆けてくる。


突然の出会いに私は慌てふためき、顔を反らす。


「来てたんだ。ウェリナとここで会えるのはうれしいな」


「……どうしてここに?」


「よく来てるんだ。俺にとってここは特別な場所だから」


レクィエスは私のとなりまで歩いてくると、幹を撫でて頭上の白い花を眺めだす。


その視線を追い、年中咲きっぱなしの不思議な木に想いを寄せた。


「ウェリナと出会ったのもここだった。その時もクッキーを食べていたね」


手元のクッキーを見てレクィエスが懐かしそうに眺めている。


クッキーに思い入れがあったのはウェリナの方だったかと納得しつつ、私は頬の熱さと共に包みを差しだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ