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第1話「死に戻り聖女は悪女になる」

目を覚ましたら”悪女の顔”になっていた。


「えっ……」


鏡に映る自分に強烈な違和感を覚え、指先で輪郭をなぞってみる。


同じ動作をする姿に私はそれが”私”であることを知った。


「ウェリナ・リガートゥル? そんな……」


甘ったるい桃色の波打つ髪に、艶やかな目元とふっくらとした唇。


空色の瞳は透きとおるように美しく、ちゃんと“生きた瞳”をしていた。


すでに死んだ人なのに、と思って頭に割れそうな痛みが走る。


(違う。だって私は……そう、ファルサよ)


私の名前はファルサ。


青色の長い髪と瞳をしたこの国の聖女。


夫を支えながら魔物と戦っていた正真正銘の聖女のはずだ。


実際に戦っていたのは夫だが、私には”癒しの力”があり、夫の傷を治すことで国を守ろうと必死になっていた。


(夫……。そう、レクィエスよ。彼はどこ?)


夫はこの国の第二王子であり、英雄として急速に名を上げた人だった。



何ごともない平穏な治世。


そこに突如現れたのが魔物だ。


いきなり現れたかと思えば姿を消す摩訶不思議な存在。


さらに奇妙なのが、魔物はレクィエスにしか倒せないこと。


疲弊していく国で、唯一魔物を倒す力を宿した彼は、一瞬にして国の英雄となった。


私と彼は民の祝福を受け、結婚し魔物討伐の旅を共にした。


そのはずなのに……。


「私、死んだの?」


そう考えて頭がズキッと痛みだす。


ファルサとしての記憶は、彼が魔物を前にして戦闘を放棄したのを最後に途切れている。


なぜなら魔物に襲われる彼をかばい、私は斬り殺されたから。


『ごめん、ウェリナ。愛してる』


死の間際、彼がそう言ったのをしっかりと聞き取って、私は息絶えた。


「はっ、はっ……!」


最悪の記憶に吐き気がして、口を押さえてしゃがみこむ。


何も出てこないので胃液の味だけが口の中に充満した。


鏡に映る自分と意識の自分がかみ合わない。


頭痛ばかりが私に襲いかかり、混濁した意識のなか、小さな子どもの笑い声が聞こえた気がした。



(どういうこと? 私はファルサなのに、映っているのはウェリナ)


ウェリナは悪女として有名な人だった。


貴族のパーティーがあれば、いつも男性が彼女のもとに集まってチヤホヤするほどには惑わし上手な印象がある。


それを貴族令嬢たちは良く思わず、気づけば“ウェリナ=悪女”として名をはせるように。


実際、愛想のない人だったので女性たちにはめっぽう嫌われていた。


私はそれを遠くから眺めているだけだったはずなのに……。



ある日、彼女は大罪を犯した。


王宮で行われたパーティーに招かれ、私は慣れぬドレスを着て階段を上っていたときのこと。


その先に彼女が立っていて、目が合うと同時に彼女は私を突き飛ばした。


かろうじて軽傷で済んだが、その現場を目撃していた人が多数おり、彼女はあっさりと聖女殺害未遂で投獄されてしまう。


そして流れ作業のように断頭台にのぼる結末で“ウェリナ・リガートゥル”の人生は終わった。



「うっ……うぇぇ……!」


血が飛び散って、割れんばかりの歓声が響いていた。


どうして人の死に歓喜するのだろう。


気味の悪さに、すぐその場を立ち去ったことを今でもはっきり覚えている。


たしかに彼女は死んだはずなのに、今こうして私は彼女の姿になっているのは――。


(どうして? どうして私はウェリナになっているの?)


私を殺そうとした悪女になったと自覚すると、めまいがして膝が折れた。


「お嬢様⁉」


部屋の扉が開き、メイドの恰好をした年若い少女が駆けてくる。


「どうされましたか⁉ どこか体調でも……」


「……誰?」


その問いにメイドは目を見開き、青ざめて私の肩を掴む。


「ひどいですよぉ! イリアのこと忘れるなんてー!!」


「あああ……っと、ごめんなさい……」


肩を揺さぶられ、余計に頭がくらくらする。


吐き気もあって私はイリアを手で押し、よろめきながらベッドに腰かけた。


イリアは洗面器のお湯でホットタオルを作り、私の顔をやさしく拭い始めた。


(あったかい。きもちいいな……)


「昨夜は何時ごろに戻られたんですか? あんまり遅いと心配です」


「えっと……ごめんなさい。よく覚えてなくて……」


「? お酒でも飲まれたんですか?」

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