なんで、こんなところにアイナちゃんの写真集が落ちてんでしょうね?
だが、タカトの様子がも少々しおかしい。
本来であれば、なくなったと思っていた写真集が出てきたのだ、小躍りするぐらい喜んでもいいはず。
いや、もしかしたら……こんなところに写真集がある事がおかしいと思ったのだろうか?
であれば、写真集を隠した犯人はビン子だと勘ぐっているのかもしれない。
少し冷静になったビン子は、今更ながら軽率な行動をしたことを後悔しはじめた。
――どうやって、言い訳しよう……
「これは、レディホールカーネーションか!」
タカトは拾い上げた写真集もそこそこに、その下に隠れていた一つの花に興味を示していた。
それは一凛の漏斗状の花。まっすぐ天に向かって咲いていた。
「え? このきれいな花のこと?」
ピンクのカーネーションのような花弁がまるで肉のひだのように折り重なっている。しかも、その花弁の間からねっとりとした蜜が垂れ落ちているではないか。
写真集の言い訳をを考えていたビン子は、まるでその場を取り繕うかのようにわざと手を花へと伸ばした。
だが、それをタカトが素早く制止する。
「触るなビン子!」
その蜜に誘われたのだろうか、花弁の上を歩く虫が花の中央に開いた穴へと落ちていく。
この様子からして……食虫植物だろうか?
だが、カーネーションという名は聞いたことがあるが、『レディホールカーネーション』なんて花は聞いたことはない。
それもそのはず。
「コレは魔草花。魔植物の一種だ!」
タカトが興味深そうに観察している。
「俺……こいつ……初めて見た……」
「タカト……この花って珍しいの?」
「ああ……その界隈では有名な代物だ……」
「その界隈って融合加工じゃないの?」
「融合加工の素材として使えないわけではないんだが……この魔草花はこのまま生の状態の方が需要が高いんだ……」
さすが魔物素材の事には詳しいタカト君。
わき目も振らずに説明する横顔はまるで研究者そのものなのである。
きゅん♡
――こういうのよ! タカトのいいところはこういうところなのよ!
と、なぜか一人、嬉しくなっているビン子ちゃん。
だが……
「こいつはな! オナホ〇ルとして有名なんだ!」
――はい?
なにを言っているんでしょう……この男は……
――今……こいつ……オナホ〇ルって言ったわよね? 確かに言ったわよね。オナホ〇ルっていったらアレよね……童貞賢者が自己の魔力を高めるために日夜修行の一環として行っているというあの行為に使うアーティファクトのことよね……
ザッツライト! って、ビン子ちゃんwwwwやけに詳しいじゃないですかwwww
しかし、その行為を想像した瞬間……先ほどまでタカトに抱いていた恋慕のような感情の高ぶりが、まるでトイレの水を流すかのようにドン引きしていくのがよく分かった。
「ちょっと! タカト! あんた! もしかして!コレ使おなんて思ってんじゃないわよね!」
なぜか激オコのビン子ちゃん。
気持ちは分かる。
なんかいい感じだったのに、いきなりアホなことを言いだすとは無神経にもほどがある!
――そうじゃないわよ! 抱き枕のことといい! オ〇ホといい! ベッドには私がいるでしょが! 私のこと! どう思っているのよ! 一体!
うん? これはどういうこと?
そういう行為を見せんじゃないわよ! ってことなのだろうか?
それとも、そういう行為は私でやれってことなんでしょうか?
うーん……分かんない……
分かんないけど……
「馬鹿か! 俺がこんなもの使うわけないだろうが!」
――え?
意表を突かれた様子のビン子。
――もしかして……やっぱり私の事を気にかけてくれて
と、頬を赤らめた。
「だいたい、俺はアイナちゃんファンクラブ補欠の補欠だ!」
そう!これでもタカトはアイナちゃんのファンクラブの一員を自称する!
だからこそ! 礼儀作法にはめちゃくちゃこだわるのである!
まずは!アイナちゃんの写真集を前にして裸で正座!
精神を統一すると、床に頭をこすりつけるように三度礼拝!
それから、厳かにしずかにゆっくりとティッシュを3枚取り出して、そっと膝上に乗せるのだ。
だからオ〇ホなんてwwwって! 童貞賢者の魔力修行の描写なんていらんわい!
「不潔! なんかタカト!キモイ! 超キモイですけどぉ~!」
というか、ビン子ちゃん……アイナちゃんの(以下略)だけの言葉だけで、よくタカトの魔力修行の話だと分かりましたねwww さすがは!夜な夜なタカトの行動を観察しているだけのことはあるwwww
「アホか! こんなもんに突っ込んだりしたら、一発で人魔症にかかってしまうわい!」
そう、魔草花には魔の生気が宿る。
当然、オ〇ホにでも使えば、ウィンナーの先端に開いた穴から魔の生気が流れ込んで人魔症に感染してしまうのだ。
なら、なぜ、タカトは需要があると言ったのだろう。
というのも、この聖人世界では神民以外の人魔症罹患者は、ほぼ治療を施されない。
しかも、見つかれば即!人魔収容所送りになるのである。
当然、収容所の中でも治療が施されることはない。ただ、人魔症を発病して死を待つだけ……そうなると、いつ人魔症が発病するのかという恐怖におびえ続けなければならないのである。
その恐怖……おそらく、精神は日々壊れていくことだろう……
そして、そんな恐怖から逃げようとするのが人間という生き物。
耐えられない恐怖から目をそらすかのように快楽に走るのである。
例えば、ヒマモロフといった麻薬といったようなものに。
しかし、聖人世界において禁止薬物に指定されているヒマモロフの入手は困難。
だが、それに代わる快楽物質が人間の脳内にはあるのだ。
快楽ホルモンとも呼ばれる脳内物質「ドーパミン」
それを手っ取り早く分泌させるには賢者の魔力修行なんてもってこいなのである。
というか、賢者の魔力修行しか方法がないのだ。
だって、人魔収容所の中では常に一人……人魔症の感染を恐れて誰も近づかないのだから……
その説明を聞いてビン子は少し申し訳なくなった。
自分の短絡的な思考では想像できないほどの恐怖がそこにあるのだということを思いもしなかった。
おそらく、すでに人魔症にかかっている人にとって、これ以上の魔の生気の吸収など関係ないのだろう。
少しでも自分が自分であるために……そう考えれば、この花の需要も見えてくる。
だが、ビン子は気になった。
「男はいいけど……女だって……」
確かに性欲は男女問わずあるもの。
この『レディホールカーネーション』の形では男しか満足できない。
「あっ、それならそこに生えている『ベロベロチューリップ』とか、『立チンぼ』とか使うんだよ」
と、タカトは指さした。
そこにはチューリップのような形をした花の中からベロのような何かが伸びたモノや、つくしを大きくした感じの魔草花が生えていた。
「その上に、女が腰を下ろしてだな……」
タカトがまた得意げに説明を始めようとしたのだが、
「もう!それ以上説明しなくてもいいわよ!」
と、顔を赤らめたビン子が全力で阻止した。
「しかし、この辺り……やけに魔草花が多いな……」
タカトはあたりを見回す。
『レディホールカーネーション』や『ベロベロチューリップ』、『立チンぼ』以外にも何種類かの魔草花が見て取れた。
まるで、この辺りは魔草花の群生痴態……
いや、群生地帯www(マジで間違えたわwww)
だが、そもそも魔草花は魔人世界の植物、聖人世界には生えていないのだ。
――ということは、この近くに小門があるということか?
そう、これは魔人世界とつながっている小門を種が通ってきて自生したことを表していた。
「で……なんで、こんなところにアイナちゃんの写真集が落ちてんでしょうね? ビン子さん……」
と、タカトは写真集についた葉っぱを丁寧に払い落としながら、目も合わせることもなくビン子に問いただした。
その声は静かに……そして、抑揚もなく……淡々とである。
ひっ!
それを聞くビン子の顔は引きつった。
――やっぱり……タカト……写真集の事……忘れてなかったのね……
忘れるわけないだろ!
タカトにとってアイナの写真集は命よりも大切な宝物なのだから!
かつて……ビン子がカバンの中にこの写真集を隠した時……いや、タカトにとって、この『アイナと縄跳び!』を無くした時などは特に酷かった!
タカトはその日からプツリと姿を消したかと思うと3日ほど家に帰ってこなかったのである。
そして、やっとのこと家に帰ってきたと思えば、その体はゴミまみれでげっそりとやせ細っていた。
おそらく飲まず食わずで国じゅうのゴミ捨て場をあさり回っていたのだろう……もしかしたら……無くなった写真集『アイナと縄跳び!』が、もう一度落ちているかもしれないとでも思っていたに違いないのだ。
だが見つからない……
探せど探せど見つからない……
しかし……その写真集はすでに絶版に……
二度と手に入らない……写真集……
もう二度と……
それを理解したタカトは絶望で打ちひしがれる。
――もう、アイナちゃんのいなくなった世界に俺の居場所なんて……
って、それあくまでも写真集ですから!
だが、消えた写真集とともに己が命を消してしまいそうな勢いでタカトは落ち込む。
その様子を見た権蔵は、「またか! また!部屋にひきこもるつもりか!」とため息をついてドアの前に立ちふさがった。
またか……ということは、タカトのこの状況は以前に何度かあったのだろうか。
だが、今回の状況など、かつて(?)経験した悲劇的な状況に比べたら屁みたいなもの。
――そうじゃ……あの時……アイナの死に比べたら、大したことなど全くない!
アイナの死?
何度も言いますが、それアイナちゃんの写真集wwwwしかも、結構新しい!
その本の中にアイナちゃんの姿がちゃんと載ってますwwwwもしかして、コレは幽霊の写真集とでもいうんですかぁ?
まぁ、今はそんなことはどうでもいい!
年老いた権蔵には人生経験は豊富にある!
打ちひしがれた心を元気にするには、それ相応のビタミン剤をぶち込めばいいのだ!
ならば!
と、タカトの口を無理やりこじ開けると、その中に玉子酒をぶち込んだ!
「風邪にはやっぱり玉子酒が一番じゃ!」
ひっく♪(///o///)
――って……じいちゃん! それは風邪じゃないから!
と、ビン子は思いもした。
だが……
この状況……とても……「その写真集、私が隠しました」とは言えない……
もし、言おうものなら……マジでタカトが激高しかねない。
大体、タカトが大げさにギャンギャンと怒っている時は、意外と大したことはない。
それよりも、マジでヤバいのは……
草むらから写真集を拾い上げた今のように……静かに……そして、言葉の抑揚なくしゃべるとき……
――タカト! マジで怒ってる!
さすがにビン子は事の重大さに気が付いた。
――こんなことになるんだったら、さっさと写真集を本棚に戻しておけばよかった……
だが、後悔先に立たず……
というか、今の今までカバンの中の写真集の存在などケロリと忘れていたのだ。
え? なに? ツョッカー病院の屋上でタカトがビン子のカバンの中をあさっていただろうって? その時に中身に気づかなかったのかだって?
いやwwwいいところに気づきますなぁwww
でもね! ビン子ちゃんが持っているカバンが1つだけと誰が言った!
そう、ビン子はカバンをいくつか持っているのだwwww
だから、まぁ……言い訳になるが……ビン子にはどうすることもできなかったのである。
かといって、このまま「ごめん」と謝っても許してもらえるとは思えない。
おそらく、日頃の恨みも相まって酷いことをされるに違いないのだ。
例えば……「私は貧乳です」と5万回、半紙に書かされるとか……
最悪である!
そんなものを5万回も書かされた日には、自己暗示にかかってしまって体の成長が阻害されかねない。こうなれば!一生!貧乳確定だ!
――それだけは絶対に嫌!
だが、今のタカトならやりかねない。だって、ビン子が嫌がることをピンポイントで見つけてくることにかけては天才的なのだから。
――なにか誤魔化す方法はないかしら!
必死の形相のビン子は、カバンの中に手を突っ込み何か使えるものはないかと探し始めた。
「実はね! タカト! 私も写真集を作ろうかと思って!」
ビン子はカバンの中から一つのカメラを取り出す。
「だから、その写真集を参考にしてポーズを考えようかなってwww」
そのカメラをタカトに無理やり押し付けたのだ。
うーん……ビン子ちゃん……この言い訳は……ちょっと無理やりなんじゃw
というか、無くなったはずの写真集をビン子ちゃんが持っていたという言い訳にはなってないしwww
だが、今はこれしかない!
これしか思いつかなかったのだ!
――なんとしても! 写真集の一件! ごかましとおす!
引きつった顔に満面の笑みを浮かべポーズを取りはじめたビン子ちゃん。
「だっちゅーの♡」
まじで、このまま押しとおるつもりのようだ!
だが、タカトは思う……
――このカメラ……『モモクリ発見!禍機断ちねん!』じゃないか!
そう、これは昨晩、完成したばかりの偽乳発見装置! いうまでもなく、タカトが融合加工した道具である。
カメラの形をしているが……カメラじゃない!
いかにビン子がポーズをとろうが、この『モモクリ発見!禍機断ちねん!』では記録ができないのだ……できるのは、目の前の女の真なる姿を映し出すことだけ。
大きな木の前、必死に胸を強調するポーズをとるビン子。
貧乳のシルエットをあますことなくさらけ出している。
そのため、『モモクリ発見!禍機断ちねん!』で映し出された姿には、ありのままのビン子が映し出されていた。
もう……そこには隠し事などありえない……
だがまあ……確かに……隠し事はあるんだけど……それは心の内の話。
いかに、『モモクリ発見!禍機断ちねん!』でも、心の内は映し出せないのよwww
だから、今のタカトにビン子の嘘など分かる訳もないのだ。
だが!
しかし!
一生懸命にポーズをとり続けているビン子を見ているのは面白い!
――俺がおちょくらなくても、ビン子の奴www勝手にアホなポーズをしていやがるwww
だんだんと楽しくなってきたタカト君。
――ビン子がこれをカメラと思っているのならwwww
と、『モモクリ発見!禍機断ちねん!』を顔の前に構え、まるでカメラで写真を撮っているかのようなフリをしはじめた。
「いいよ! ビン子ちゃんwwww こっちに視線ちょうだい! パシャ!パシャ!」
って……お前たち……いったい何してんねん! 獲物を狩りに来たんじゃないのかよ!
だが! それを見たビン子は心の中でニヤリと笑う。
――タカトの奴! 乗ってきたわwww
お調子者のタカトの事である。おもろいことがあれば首を突っ込まずにはいられない。
それが奴のいいところでもあり、短所でもある。
しかし、今の状況では少々心もとない。
このまま写真集の事をケロリの忘れさせるにはあと一つパンチが必要なのだ!
パンチ?
そう、パンチである!
それに気づいたビン子は、ミニスカートを履いているにもかかわらずジャンプした!
それも大きく!高くである!
体の上昇とともにすぼむスカート。
ビン子は頂点に達した時、これみようがしにポーズをとる!
そして、落下へと転じたスカートはパラシュートのように開き始めたのだ。
内に秘めたパンチをさらけ出しながら!
これは! もしかして!
そう!俗にいうパンチらだ!
――コレでどうだ!
渾身の笑みをタカトに送るビン子!
勝負あったか⁉
「今日はホワイトかぁぁぁぁ♡ ぶはぁぁぁ♡」
その途端、タカトは吹っ飛んだ! 背中を反るように後ろに倒れこんだのだ!
ホワイト♡ ホワイト♡ ホワイト♡ 白! 白? 白……
タカトの視界は白色の霞に包まれた。
それもあたり一面、まっしろしろ!
――もう……なにも見えやしない……