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今日は……無駄に天気がいいなぁ

 ――というか、こいつ!あの時のこと覚えていやがったのかよ!

 確かにあの時は銅貨4枚(40円)しかなかった。だが、ポケットの中に金貨2枚(20万円)が入っていたのである。まぁ、確かに、その金貨はタカトのお金ではない。権蔵の道具を配達した際に受け取った売上金なのであるからタカトが自由に使っていいものではないのだが……

 ――なんか!こいつに貧乏人と言われるのは腹が立つ! 確かにウチは貧乏だ! だが!赤の他人に貧乏人『様』と言われる筋合いはいない!

 もう、こうなったら目の前のオオボラをギャフンと言わせたい! 言わせてみたい!

 だが、目の前の少年はイケメン……ブタ麺いやブサメンのタカトに勝てる見込みはなかった。

 ――なんか手はないだろうか……奴のウィークポイントとなるような何かは!

 こういうセコイことを考えるときのタカトは凄い!

 彼の脳内にあるスパコン腐岳は異常なまでに活性化するのである。

 考えろ!

 考えろ! 俺!

 ピコーン!

 そんなスパコン腐岳が一つの事実に気が付いた。

 ――あれ……そういえば、あの時のハンカチって……確か、コウエンが持っていたよな……

 でもって、コウエンは女の子。

 ――ということは! イヒヒヒヒwwwwww

 瞬時にタカトの顔がにやけた。

「オオボラさん……オオボラさん……あのハンカチはコウエンさんへのプレゼントでしたかwwwww」

 ぎくっ!

 瞬時にオオボラの体が硬直した。

 だが、またもや何事もなかったかのように芋の皮をむき始めたのである。ただ、先ほどまで仏頂面だった顔を耳まで真っ赤にしながらであるがwww


 それを見たタカトはニンマリwwww

 ――オオボラのウィークポイント! ゲッチュだぜwwww

 こいつに弱みを握られるとはオオボラ君は災難だwww

 なので、タカトはオオボラの耳元で……

「ハ・ン・カ・チ♡」

 と、面白がってささやくのだ。

「だから、手を動かせって! タカト!」

 オオボラはそんなタカトの顔を押しのけようとするが、タカトはオオボラを離さない。

 いつしか二人は地面の上でゴロゴロごろwww

 もう、芋の皮むきどころではなかった。


 当然……

「何やってんのよ! タカト!」

 二人の背後で炊き出しをしていたビン子は騒がしい二人に怒鳴り声をあげた。

 そして、横に並ぶコウエンも大声を上げる。

「オオボラもいい加減にして! 炊き出しで忙しいの分かってるんでしょ!」

 

 怒りで仁王だつコウエンとビン子の前に正座する二人。

 借りてきた猫のようにしょぼんとうなだれていた。

 そんなタカトの頭にビン子が、これみようがしにハリセンでバンバンしばく。

「タカト! いい加減にしなさいよ! 私まで恥ずかしいじゃない!」

「すびばせん……」

 顔をパンパンに腫らしたタカトは、もうその言葉で精いっぱい。

 一方、コウエンもまたオオボラの前で顔を真っ赤にして見下していた。

「いつも!僕に言うじゃないか! 自分のなすべきことをしろって! オオボラが今なすべきことって何!」

「はい……芋の皮むきです……」

 いつもオオボラに怒られているのにも関わらず、今回は自分が怒る番!とでも思っているのだろうか? コウエンは怒っている中にもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

 ――いつも思いつめたような顔をしていたオオボラが、あんなに笑うなんて……なんだか、嬉しい。


 皆の懸命な働き(若干二名を除く)の甲斐があって、この日の炊き出し作業を無事に終えた。

 だが、これで万命寺の僧たちの仕事が終わったわけではない。

 スラムの人たちがいなくなっても、まだ後片付けが残っている。

 屈強な男の僧たちは大きな机やテントなどを軽々と担ぎ万命寺の門をくぐっていく。

 そして、コウエンはというと、炊き出しで使った鍋や包丁を近くに流れる水辺へと洗いに行くのだ。

「ビン子さん。洗い物を手伝ってくれないかな」

「はい。喜んで」

 ビン子はそう答えたはいいが、地面に置かれた洗い物に目を奪われた。

 それはもう一つの山。1/10スケール弁天山標高6.1m日本一低い自然の山が出来上がっていたのだ。

 さすがに言葉を失うビン子。

「コウエンさん……これ……いつも炊き出しのたびに一人で洗っているの?」

「まぁね。僕はやっぱり女だから力仕事には向いてないからね。だから、洗い物係かなwww」

 仕方なそうに笑うコウエン。

 だが、ビン子はその山を見てがぜんやる気がわいてきた。

 ――これぐらいの量! 今日の私ならいける! 全然いける!

 目をキラキラさせるビン子!

 というのも、権蔵の家での家事は、ほとんどビン子が一人でこなしていたのだ。

 そう……権蔵に任せると二度手間になってしまうのである……


 話戻って、権蔵の道具屋の外。

「ビン子! コレの何がいかんのじゃ!」

 サンサンと降り注ぐ太陽の日の下で洗濯物を干す権蔵は気に入らなそうな声を出していた。

「爺ちゃん! 洗濯ものは干すときにはちゃんとシワを伸ばして! こう!」

 服の袖を引っ張りながらビン子はきつい声を出していた。

「こうか……」

「爺ちゃん! それは陰干し!」

「うーーん、別に日の下でもいいじゃろが……」

「ダメ! 生地が痛んじゃう!」

 このように権蔵は家事全般、てんでダメ……ありほど融合加工には長けているにもかかわらず……

 それでも、まだ、ビン子を手伝おうという気概があるだけましな方。

 タカトはと言えば……

「そりゃ! 『お脱がせ上手や剣(試作4号)』の一撃を受けてみろ!」

 と、ビン子が干した洗濯物に短剣を振り下ろしていた。

「何やってんのよ! タカト!」

 当然ビン子は怒髪天!

 だが、タカトはふんぞり返りながら偉そうに言うのである。

「何をやっている? お前はバカか! 見て分からんか!」

「分かるわけないじゃない! せっかく私が干した洗濯ものに何してくれてんのよ!」

「これはな『お脱がせ上手や剣(試作4号)』の試し切り!」

「はぁ? そんなことどうでもいいわよ! 今、洗濯もの干しているのが分かんないかな?」

「あのな……『お脱がせ上手や剣』はスカート一枚、パンツ一枚だけを切り裂く名刀!この風にたなびく洗濯物をスパッと切ることができなければ、その目的が実現できないんだ!」

「知らんわい! 試し切りなら、他でやりなさいよ! ほかで! というか!

洗濯もの切ったりしたら本当にしばくわよ!」

 と、まったく役に立たない……というか、存在そのものが邪魔になっていた。


 というようないつもの日常……

 しかし、この炊き出しの後片付けでは邪魔な二人がいないのだ。

 しかも! コウエンという強い味方までいるのである。

 ――もう!家事がはかどって仕方ないわ!

 そんなものだから、

「コウエンさん! 早く洗いものしに行こう!」

 と、嬉々としながら洗い物を抱きしめスキップを踏んでいた。


 で……いつもビン子の邪魔をするタカト君はどこに行ったのだ?

 当然、タカト君……後片付けをサボっておりましたwww


 少し小高い丘の上、スラム街を見渡せるトン先に一つの大岩が横たわる。

 そのうえで、頭の後ろに手を回し仰向けに横たわるタカトの顔には、まぶしいぐらいの日の光がサンサンと降り注いでいた。

 ――今日も……無駄に天気がいいなぁ……

 そんな時、タカトの頭の上からオオボラの声がした。

「なあ……タカト……ここの光景は……ひどいだろう……」

 タカトは起き上がることなく目の玉だけを上にずらす。

「このスラムにいる奴らは……この国にとってどうでもいいやつらばかり……死んでも誰も気にしやしない……」

 オオボラは遠い目で見ながら言葉をこぼす。

「だけどな……それでも同じ人間……人間なんだ……」

 そのつらそうな言葉に、タカトは声をかけようかと思ったが、何を言っていいのか分からなかった。

「同じ人間であるにもかかわらず、やれ神民だ!貧民だって区別されていいと思うか? なぁタカト……どう思う?」

「さあな……」

「いや!いいわけがないんだ! 皆、同じ人間なんだぞ! それがどうしてこんなに差ができるんだ! 生まれが違うだけで! これもそれも上に立つものが悪い! 悪いに決まっている!」

 徐々にオオボラがヒートアップしていくのがタカトには分かった。

 そして、いつしか握りこぶしを作るオオボラ。

「上に立つものが変わらなければ、ココの生活はいつまでたっても変わらない!」

 岩の上からスラムを見渡し覚悟を決めるかの如く強い言葉を発した。

「だからこそ!俺は変える! きっと変えてみせる!」

 おそらく、それがオオボラの想い、いや、目標なのだろう。

 タカトはそんなオオボラと自分を比較する。

 ――俺はただ……母さんの仇をうてればいい……かな……

 ここにいるオオボラは強い信念で自分の夢をかなえようとしているのに対して、自分はこんなところでくすぶっていていいのだろうか。

 だけど、今の弱き自分では、あの獅子の魔人にはかなわない……そんなことは分かっている。

 ――だが……それでいいのか……本当にそれでいいのか……ただ、それを言い訳にして逃げていていいのか……

 相変わらず空を見上げつづけるタカトは思う。

 ――今日は……無駄に天気がいいなぁ……クソっ……


 片づけを終えたタカトとビン子はコウエンに連れられて万命寺へと続く参道を歩いていた。

 万命寺の入り口には古く大きな門がドーンと立っていた。

 その両脇には天にも届きそうな杉林がうっそうと覆いしげる。

 そのせいか辺りは少々薄暗い。

 それどころか先ほどまでいたスラムの喧騒とは異なり、妙にシーンと静まり返っていたのである。

 辺りに漂う少しひんやりとした空気……

 そんな空気にタカトは少々居心地の悪さを感じていた。

 というのも……門の両脇には仏さまを守護するという巨大な鬼神の木像がタカトにらみをきかせていたのである。

 おそらく、タカト自身、日頃からロクなことをしていないという自覚でもあったのだろう。

 薄汚れた心がまるで仏様に見透かされているような気がしてならなかった。


 タカトはビン子の影に隠れながら恐る恐る門をくぐる。

 ――僕は何も悪いことはしてませんよ……アーメン……ソーメン……ワンタンメン……

 って、お唱えする文言はコレでいいのか?

 というか、アーメンってキリスト教じゃないの?

 そんなことはどうでもいいんだよwww

 だって、ここは聖人世界! 融合国! 日本という名の常識なんて存在しない!


 そう……ここは万命寺……聖人世界に伝わる仏を祭る寺である。

 仏? 神様がいるというのに仏を祭る?

 そういわれれば不思議である。

 だが、この聖人世界において神は現存する存在なのである。

 例えていうなら、ビン子やミズイなどがそうである。

 姿がある以上、それは認識することができる存在。

 神の脅威は現存する脅威であり、対処する方法はいくらでも存在する。

 ただ、人は見えぬものに恐れを感じる。そして、その畏怖に対して信仰を抱くものなのだ。

 それが単にこの世界では仏と称されているだけの事。

 そして、その見えぬ仏の功徳を人々に説いて回るのが僧たちの役割という訳である。


 ここ万命寺が何の仏を祭っているのかは知らないが、万命拳の発祥の寺であることは間違いない。

 万命拳とは修羅の国で生まれた拳法が融合の国に伝わり独自に進化したものと言われている。

 そして、この万命拳を万命寺は修行の一環として取り入れていた。

 それはどこぞの国の少林寺に近い考え方。

 少林寺拳法は、治安がめちゃくちゃ悪かった当時、寺の財産や僧たちの安全を守るために武術で自衛するために発展してきたといわれている。

 そして、この万命寺も融合国のはずれに位置するため、先ほど見てきた通り門前にはスラムが形成されていた。

 スラムに巣くう人々は奴隷の身分から逃げ出した者……仕事に就けない罪人たち……納税できずに追われた一般国民など融合国にとって必要とされないものたちであった。

 当然に、スラムそのものの治安は悪い。しかも、そんな人たちを狙う夜盗や人さらいが日々出没するのである。

 女は凌辱され、子供は売られる……抵抗した男は余興がてらに惨殺……というありさま……そんな理不尽がまかり通るのがスラム街というもの……まさに無法……

 だが、この国の警察官たる守備兵たちはスラムの人々を守らなない。いや、守る気など最初からないのだ。

 スラムの人間は人にあらず!

 だが、それでいいのか……

 本当にそれでいいのか……

 同じ人の命……そんなに軽いものなのか……

 誰も救わないのであれば、自分たちが……

 かつての万命寺の僧たちは目の前の人々の命を救うために自衛の手段を得たのである。



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