チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!
反り立つ崖の前。
先ほど崩れおちた崖先が地面の上で大小さまざまな岩と化していた。
そんな岩の中、一人の少年が崖を背に座り込んで天をみあげていた。
上向くアゴ先……力なく垂れる両腕……
開いた口からは何やら魂が抜けているような気がしないでもない……
どうやら、この少年……先ほどから気を失っているようなのだ。
――だが、そんなこと関係ねえ!
反り立つ崖へと突撃をかましている最中のダンクロールにとって、目の前の少年が気を失っていようがどうでもいいことなのだ。
――警戒すべきは、あの短剣!
しかし、全身の体毛を硬質化した今、その表面は戦車並みの装甲を有している。
いかにあの剣が優れていたとしても皮一枚貫くことは叶うまい!
ダンクロールは勝利を確信した。
――あの少年をミンチにしたうえで、ゆっくりと脳と心臓を頂こうではないか!
これで魔人への進化が、また一歩近づく!
だが、そんな時、突然、緑の瞳に何かが映った。
それは握りこぶし大の石が二つ。
崖上に生えた木の上から飛んできたのだ。
――ナニ!
ダンクロールがいかに体毛を硬質化したとしても眼球は無防備!
――さすがに守り切れない!
ダンクロールは反射的にまぶたを閉じる。
だが、突進の勢いは止まらない。
それどころか目を閉じたダンクロールはさらに頭を下げたのだ。
――ええい!このままツッコむまでよ!
少年のいた方向は分かっている。
その距離、約数メートル!
今更、数センチずれたところで狙いが大きく外れるわけではない!
であれば、このままツッコめば少年の体のどこかには当たるはずなのだ。
どうせミンチにして全て食らうつもりだった。
いまさら、心臓や脳が潰れたところで問題ない。
ついに!ダンクロールはその勢いのままにタカトへと突っ込んだ。
がコーン!
激しい衝突音!
ダンクロールが突っ込んだ崖壁が大きな音共に崩れ落ちる!
高く巻きあげられた砂埃!
白い土煙が辺り一面の視界を遮った。
それほどまでの巨大な衝突エネルギー……こんなものをまともに食らったりしたら……貧弱なタカトの体などハエ叩きで叩き潰したゴキブリのように体液をまき散らしぺっしゃんこになっていることだろう……岩肌に飛び散るおびただしい血液、割れた頭蓋からはこぼれおちる脳みそ……もう!それはまさに!スプラッター!
おそらく……タカトの奴……死んだな……
でも、さすがに脳みそや大量の血液をまき散らしていたりしたら……この小説がコミカライズやアニメ化された際、絵柄的に最悪になってしまうのでは……
そうなると……PTAによる有害図書指定!
いや、動物愛護団体からの鬼のようなクレームだってくるかもしれない……
そんなことにでもなったら、深夜枠でしか放送されななくなるかもしれないのだ……
だが、ものは考えよう。
深夜枠とは男のロマン!
ああ今でも思い出される……性が芽生えた中学時の青い夜。
両親が寝静まったころを見計らってテレビに毛布をかぶせて光が漏れないようにしたものだった。
11pmをはじめ放送されていた番組は深夜枠だからこその味わいがあった!
ならば、この小説だってはっちゃけるとこまではっちゃけたらいいのだ!
目指せ!深夜枠!
って、だいたい、この小説を読んでくれる人なんておらんのにwwwwそんなこと心配してどないするねん!
そういえば……深夜枠と言えば……タカトの奴……ムフフな本のこと心残りだっただろうなぁ……
え? なに? 話そらすな? そらしてなんかないよwwww
ということで、作者だけでも手を合わせてあげようではないかw
アーメン ソーメン ワンタンメン……
しかし、あの小石は一体誰が投げたものなのだろうか。気になるなぁ~
<(;・з・)> ~♪。
何も動かない。
何も音がしない。
巻き上がった砂埃が次第にはれはじめていく。
地面の上にパラパラと落ちていく小さな砂粒。
耳をすませば、そんな音がハッキリと聞こえてきそうなぐらい静かな時間だけが流れていた。
土埃が晴れた先にはダンクロールの巨体が岩肌に突っ込んでいた。
そのイノシシの顎の下にはタカトの体が横たわる。
砂埃をかぶった黒い短髪。
髪の間から流れでた一筋の血が頬を通って顎からぽたぽたと落ちていた。
おそらく、ダンクロールの一撃はタカトの頭をかすめ崖肌に直撃したようだ。
そのためか、タカトの体は一応、もとの原型を保っていた。
保っていたが……動かない……
その体はミンチになることを避けたというのにピクリとも動かないのだ。
ダメだな……こりゃ……
やっぱり……タカトの奴……死んだな……
ということは……この物語もココで終わりかよ……はぁ……
と言うことで! 次回からは主人公を権蔵にして心機一転!お送りします!
って、なんで権蔵やねん! そこは普通はビン子ちゃんやろ!
いやいや! 今はそんなことはどうでもいいんだよ!
そう、問題にすべきはタカトが隠したムフフの本の処遇!
タカト亡き今、その運命はビン子に握られていると言っても過言ではないだろう。
ならば、きっと……ビン子によってブックオフに売りとばされ……性奴隷のようにオタクたちの欲望に供されることになるに違いない……
だが、汝!悩むなかれ!
地獄という名の異世界に旅立った君にとって、この憂き世の出来事など些末なことでしかないのだ……
いかにムフフな本の中のアイナちゃんの服が無残に引きちぎられようが……ビリビリビリ! いやぁ~ん♡
白く透き通るような柔肌のページがオタクたちの白濁によって汚されようが……ドピュ―ん! きたなぁ~い♡
ピンク色をした愛しいアイナちゃんの唇にバナナを乱暴に突っ込まれたとしても……ドピュ―ん!ドピュ―ん! 熱い♡熱いわぁ~♡
もう、それは君には関係ないこと。
だから、安らかに眠りたまえ。タカト君……
アーメン ソーメン ワンタンメン……
パチ!
突然、タカトが目を開けた!
もしかして、ムフフな本の危機を察知したとか?
って、まだ、ブックオフに持って行ってないし。
しかし、なぜか、タカトの顔がものすごく不快そうな顔をしているのだ。
――なんか気持ち悪い……嫌な夢を見たような気がする……
そう、タカトがダンクロールを目の前にして意識を失ったあの時……
タカトはまた感じたのだ。身震いがするほどの恐怖。
赤黒い感覚が心の奥からズルズルと這い上がってくる感覚を。
「小僧……我が入れ物を粗末にするなとあれほど命じたであろうが!」
それは、タカトの心の奥底に沈む井戸の底から這い上がるかのような男の声。
鬼のような左手が井戸の境界を突き破り思いっきり天へと突き出された!
その手が井戸の縁をガッチリと掴む。そして、己が体を引きずり出そうと力を込めるのだ。
しかし! その時! どこからともなく声がした!
「ピッ! EDシステム起動……抑制フェーズへと移行……」
それは井戸の周りを浮遊していた無数の白きネコ。いや、キュ〇ベイ?
そんな白きネコたちが一斉に井戸から這い出てくる男へと攻撃を加え始めたのである。
ドピュ―ん!
白濁のミサイルが無数に乱れ飛ぶ!
「くそ! 白き悪魔たちか! どこまで我の邪魔をすれば気が済むのだ!」
地獄から這い上がろうとする男の屈強な胸板に無数の穴が次々と穿たれていく!
ドピュ―ん! ドピュ―ん!
「ピッ! EDシステム……抑制フェーズ2へと移行……」
白い猫の口が耳まで大きく裂けた!
しかも、喉の奥から黄色いバナナ、いやブーメランを打ち出しはじめたのだ。
男の胸には赤色の血をまき散らす無数の穴。
そんな穴に次々とバナナが突き立てられていく。
「うがぁぁぁぁぁぁ!」
その苦痛に男は悲鳴を上げた。
だが、それだけでは終わらない!
次の瞬間、そのバナナが放電をするかのように一斉に電撃を飛ばしたのだ!
身にまとっていた服がビリビリに破かれる!
一瞬にして焦げた服が煙を吐き上げた。
そして、男はというと、ついに力尽き再び井戸の底へと落ちていったのだ。
「白き悪魔よ! 今は大人しくし引き下がろう! だが、イブは必ず迎えに行く! 例え世界を滅ぼすことになったとしても!」
――寒気がするような嫌な気分……あれは一体なんだったんだ……
仰向けに倒れるタカトは半目に開いた目で上空を見上げていた。
だが、おぼろに映る視界には黒い影。
そんな影から、ポタポタと赤紫の液体が垂れ落ちてはタカトの黒髪を濡らしていた。
どうやら、タカトの額から流れ落ちているのはこの赤紫の液体のようである。
……ということは、タカトの奴……頭にけがをしていないという事なのか……
そのせいか、「チッ!」などと、残念がる思いが先ほど石が飛んできた木の上から聞こえてきたような気がする。
おぼろげな視界は時間が経つとともにはっきりとしてきた。
浮かび上がってくるのはダンクロールの大きな下あご。
その下あごから突き出た大きな牙の先から赤紫の血が垂れ落ちていた。
どうやら、この血はダンクロールの魔血のようである。
「ひっ!」
その事実に気づいたタカトは驚き、慌てて四つん這いでバタバタとダンクロールの影から這い出してきた。
というのも、魔血は魔物の血。すなわち、魔の生気を含んでいる。
そんなものを体に浴びようものなら人魔症に感染してしまいかねない。
というか……
ダンクロールの牙がすぐ目の前、いや、鼻息が届くぐらいの鼻先にあったのだ。
びっくりするなという方が無理というものwwww
だが!
タカトがダンクロールの影から這い出た瞬間、背後からドシーンという大きな音が響いた。
恐る恐る振り返るタカト。
そこには先ほどまでタカトの上にのしかかっていたダンクロールの巨体が地面の上に倒れこんでいるではないか。
周りに濛々と立ち上がる土埃。いかにダンクロールの質量が巨大であったかという事を如実に物語っている。
――あんなものがぶつかりでもしていたら……つぶれるどころかミンチ確定やん!
今さらながらタカトは恐怖した。
しかし……倒れこんだダンクロールが動かないのだ。
先ほどから倒れこんだままマジでピクリともしないのである。
――オイオイ……このブタ、もしかして……崖にでも頭をぶつけて気絶でもしているんじゃないのか?
これはチャンス!
トンズラこく!大チャンス!
だが……しかし……かと言って、このまま背を向け逃げるのも……ちょっと怖い。
だって、もし、このブタが死んだふりでもしていたら……
逃げている最中に背後から太い牙でブスリと刺されかねないのだ……
そんなことにでもなったら、即死確定!即おだぶつ!
ならば、目の前のブタが本当に気絶しているのかどうかを確かめる必要がありそうな気がするのだ。
ということで、タカトは恐る恐るダンクロールに近づいた。
タカトの靴がダンクロールの前足、いやつま先をそれとなく小突いてみる。
やはり、反応はない。
反応はないのだが……この至近距離でダンクロールが目を覚ませば……タカトに逃げ切る自信など全くなかった。
そうなれば……今度こそミンチ確定! 即死亡!
そんな恐怖に襲われているせいなのか、タカトの足先はブルブルと震えていた。
いやwwwそれどころか、腰が引けて足先だけを何とか伸ばしてダンクロールに触れているのだ。
もうwwwなんかwwww超格好悪いwwww
だが! タカトは男の子!
そんな恐怖をタカトなりに打ち払いながら、もう少し、もう少しだけ強くブタの前足を蹴ってみるのだ。
だが、蹴りの反動に伴ってダンクロールの前足はわずかに揺れるだけ……
この時点で狸寝入りという可能性は消えそうであるが……タカトにはまだ確信が持てなかった。
なぜなら! これぐらいの刺激であれば狸寝入りをし続けることは十分可能なのである!
であれば!
―――もう少し強い刺激を与えてみないとダメか……
それは否が応でも体が動いてしまうような刺激!
すなわち!反射反応である。
例えば、手に熱湯がかかったりすると頭で考えるよりも早く引っ込めることだろう。
ならば!この反応を使えば、いかにブタが狸寝入りをしていたとしても体が勝手に動くはずなのだ。
だが、問題はそれほどまでに強い刺激をどうやって与えるかである。
一番手っ取り早いのは金玉を蹴り上げる!
その痛みは人畜、いや異世界人や宇宙人といったあらゆる世界線で共通する痛みであることは間違いない!
しかし……かと言って、目の前のダンクロールの金玉を蹴り上げる勇気などタカトには到底でてこない……だって……金玉蹴った瞬間、反射的に太い後ろ足で蹴られたりでもしたら……チーン!……が、即死確定なのである。
ならば! もっと安全で、より効果的な嫌がらせ……何かないだろうか。
タカトの脳内スパコン腐岳は考えた!
ポク!
……
ポク!
……
ポク!
……
……
……
チーン!
……
……
チーン!チーン!
……
……
……
チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!チン!
って! チン!チン!うるさいわい!
というこで、めでたく腐岳は一つの解答を導き出した。