サン《息子》レーザー⁉
でもって、案の定! 大ビンゴ!
ゴミの山の中であおむけに倒れた高斗に向かってマッシュが突っ込んできている場面に出くわしたのである。
「このぉぉぉぉぉ! 馬鹿ちんがっぁぁぁぁ!」
有無を言わさぬ棍棒の一振りがマッシュのわき腹をクリーンヒット!
「ゲホオッ!」
だが……高斗は思った。
――敏子の奴……どうやって、あのマッシュがEBEだと分かったというんだ。
しかも、女子大生殺害の犯人という事まで……
その事実は高斗ですらゴミの山に突っ込んだ際に、やっと確信したのだ。
そして、そのことについては、いまだ声に出して発していない……
いかに敏子がストーカーのように高斗の近くで聞き耳を立てていたとしても、その情報は伝わっていないはずなのだ。
なら、どう考えても分からない……
「おい! 敏子! コイツらが女子大生殺害の犯人、いやEBEだってわかったんだ!」
だが、そんな高斗の言葉に敏子の素っとん狂な声で答える。
「え? こいつらEBEだったの! しかも!殺人犯! やっぱりぶちのめして正解だったわ!」
……え?
固まる高斗
もしかして……
もしかしてですよ……敏子さん……コイツラ……EBEと分からずに棍棒でぶちのめしたんですか?
――おいおい……
もしマッシュがEBEじゃなく人間だったりしたら……敏子は確実に人殺し……殺人犯である。
いや、仮にEBEだと分かっていたとしても、有無を言わさずぶち殴れば、それこそ星間戦争!スターウォーズの勃発にちがいない!
もう……さすがの高斗も言葉が出ない……
――馬鹿なのか……こいつ……
って、お前もだろうが! この似た者同士!
だが、敏子がこの場に来てくれたのは高斗にとって都合がよかった。
というのも、建設中のビルの屋上には、あの時の少女がいるのだ。
――会って確かめたい……あの時、君はなぜ俺に「タスケテ」と声をかけたのか……
だが、そんな少女を追ってガイアがビルを駆け上っている。
後をすぐさま追いかけたいのだが、どうしてもマッシュとゲルゲが邪魔だったのだ。
まぁ、ゲルゲは毒ガスで撃退した。
そして、マッシュも赤虎の一撃でビルの壁にぶつかり動かない……
と、思ったら! 急にむくりと立ち上がりやがった!
――マジか!
首を左右に振りながらゴキゴキと音を立てている。
身に着けている服はところどころ破れているが、その体はノーダメージの様子。
――こんなの相手にしてられるか!
ということで、高斗はゴミの山から飛び出すと赤虎に向かって手を振った。
「敏子! あとはよろしく頼んだ!」
そして、建設中のビルの入り口に向かってダッシュし始めたのだ。
「え!? ちょっと高斗君!」
突然の事に意味が分からない敏子は、その背中を呆然と見送るのみ……だが、その瞬間、何かの気配に気が付いた。
「行かせると思っているでしゅか!」
突然、マッシュの体が蒸気を吹き出したかと思うと、一気に加速したのだ。
それはまさに、走りさる高斗を追うかのようにまっすぐと。
だが、赤虎も反応が早かった。
機体の横を通り抜けようとしたマッシュの体をジャストミート!
「チェストォォオオオオオオ!」
往年の王貞治を見るかのような見事な一本足打法!
その体重をのせた赤虎の棍棒が再びマッシュの体を打ち抜いた!
「ゲホオッ!」
だが……違った。
敏子は渾身の一撃をかましたつもりであった。
それはもう、腰の回転を伴ったフルスイングの勢いで。
それなのに、ちょうどホームベースに位置するあたりで棍棒がピタリと止まっていたのである。
棍棒を振りぬこうとねじれる赤虎の機体が悲鳴にも近い甲高い駆動音を立てていた。
だが、無理に動かそうとしてもピクリとも動かないのだ。
そう、そんな棍棒をマッシュの手の平がしっかりと鷲掴みしていたのである。
「と、でも言うと思ったしゅか!」
ニヤリと笑うマッシュ。
この男、どれほどの力を持っているというのだろうか。
蒸気機関車並み?
ちなみに、この赤虎。大型ダンプと押し比べても引けを取らない。
だが、そんな力を押し返したのだ。
よろける赤虎。大人三人分ほどの巨体がアスファルトの上に尻もちをついた。
コクピットの中で衝撃を振り払うかのように頭を振る敏子。
「なんなの! コイツら!」
いや、目の前の生き物がEBEであれば、人の想定外の力を持ちうることだってありうる。
だからこそ、念のために人型装甲騎兵白虎部隊を出動させたのだ。
だが、ここまでの怪力は想定外だった。
ディスプレイに映る異常な光景。
直径がマンホールのふたほどもある鬼の棍棒が砕けちった。
そう、マッシュが掴む手の平によってガキン!っと握りつぶされたのである。
――意味が分からない……
だが、そう思ったとしても目の前の敵が止まってくれるわけではない。
ディスプレイ上には、赤虎に狙いを定めたマッシュが加速してくるのがよく見えた。
「とらん!ザム!しゅ!」
敏子はすぐさまレバー押し込み赤虎を立ち上がらせる。
だが、遅い!
マッシュの連打が赤虎を打ち抜く!
激しく揺れるコクピット!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
だが、これでも敏子はエースパイロット。
マッシュの連打を防御しながら赤虎の体勢を立て直そうとする。
しかし、そこに強烈な一発!
がきン! と胸部装甲にひびが入った。
咄嗟に、距離をとった赤虎は腰の後ろから棒状の武器を取り出した。
それは太ももの半分ほどの長さ。見た目からして剣の束。
「赤月刀! 抜刀!」
瞬間、握った剣の束から赤き光が立ちあがる。
それは、一見、ガンダムのビームサーベル、いや、どちらかというとスターウォーズのライトセイバーのようにも見えた。
というのも、ビームサーベルはピンクもしくは緑が主体であるが、ライトセイバーは青と赤がメインなのだ。
そして、この赤月刀……名前の通り赤い光の高熱源を発する。触れれば即!蒸発!間違いなし!
「こいやぁぁぁぁぁ! この下種がぁぁぁぁぁぁ!」
敏子は両手で赤月刀を構えると、マッシュを進撃を迎え撃つ!
というか……こんな繁華街の真ん中でレーザー兵器なんか振り回して大丈夫なんですかね……もしかして……敏子さんって、乗り物に乗ると性格が変わるタイプとか……
突進してくるマッシュに向かって赤月刀を振りぬく。
だが、マッシュの体は赤虎の1/3ほどの大きさ。しかも、そのスピードは速い。
空を切る赤月刀をかいくぐるかのように上半身を下げたマッシュの体が一気に飛び上がる。
「もらったっしゅ!」
瞬間、マッシュの掌底をもろに受けた赤虎の左肩にひびが入った。
よろける機体。
だが!
「ふざけんなぁぁあぁあ!」
敏子の足が力いっぱいにアクセルを踏み込むと、倒れかけの姿勢を支えようと赤虎の足裏がアスファルトをえぐった!
そして、振り向きざまに返す一刀!
夜空に赤き一線が走る。
「ぎゃああぁあぁぁぁぁ!」
悲鳴をあげるマッシュ。
左肩から先が赤月刀の放つ熱線によって一瞬にして蒸発していた。
そして……目の前のビルも真っ二つ……まぁ……ビルの電気は消えていたから中には人はいなかったにちがいない……たぶん……
だが、そんなことで敏子がビビるはずはない!
やるからには徹底的に!
止めを刺すまでが遠足です!
ということで、アスファルトの上でのたうち回るマッシュの頭めがけて赤月刀をまっすぐに突き落とす!
「これで終わりよ!」
バシュン! という音ともに一瞬にして蒸発!
その顔のほとんどが吹き飛んだ!
それはもう無残なほどに!きれいさっぱり!
しかし、消し飛んだのは赤虎の顔!
マッシュめがけて赤月刀を突き落とそうとした瞬間、敏子が見るディスプレイは真っ白な光に包まれたかと思うと急にブラックアウトしたのだ。
そう、赤虎の顔にはメインモニターが設置されている。
そのカメラが一瞬にして吹き飛んでいたのである。
胸から上が吹っ飛び火花と煙を立てる赤虎。
力なくガクんと膝をついた。
そんな赤虎の前には一つの大きなダイコンがのびあがる。
ダイコン? いや……この形は、ダ〇コンwwww
そんなダ〇コンの先端についた小さな口からは、事をなし終わった時のように残り汁……もとい、おそらく冷却水が垂れ落ちていた。
赤虎がマッシュを突き刺そうとした瞬間!それは起こった。
先ほどまで生ゴミを食べていたスライムのゲルゲ。
それが急にむくりと勃起、いや、タケノコのようにまっすぐに伸び上がったのだ。
しかも、まるで体をこするかのようにブルブルと震え出しはじたではないか。
体の中心にこみ上げてくる生ごみの消化物!
そこから取り出したエネルギーが一つにまとまる。
エネルギー充填完了!
発射角度調整!
狙うは顔射!
口開けろ! 舌を出せ!
感極まったゲルゲの先端から高濃度のエネルギーが放出された!
これは!もしかして!サンレーザー⁉
その膨大なエネルギーは赤虎の顔を汚すどころが打ち抜いて、あまつさえ、その背後のビルをも打ち抜いた。
そのビルの窓には先ほどまで人の営みを表すかのように電気の明かりが煌々とついていた。
だが、いまやそんな壁面には大きな穴が開いている。
周囲一帯に立ち込める土埃。
突如沸き起こった惨事に人々はパニックになり逃げ惑う。
この少し前、高斗は建設中のビルの階段を駆け上っていた。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ
民間に移籍してから少々運動をサボっていたせいか息が上がる。
だが、屋上はもう少し。
そして、目の前のドアを開ければ、あの時の少女アイナがいるはずなのだ。
高斗は一気にドアを押し開け屋上に躍り出た。
そこはひらけた屋上。夜風が激しく吹き荒れていた。
高斗がドアから飛びだすと、目の前の夜空には色とりどりの夜行灯が鮮やかに映っていた。
建設中のためか視界を邪魔する安全柵はまだ設置されていないようである。
そのため、高斗の左側は数歩踏み出せば夜の空がぽっかりと口を開けていた。
逆の右側に視界を振るとガイアとアイナが一食触発の状況で対峙しているではないか。
「アイナ! 今すぐ戻るんや! アダム様がお怒りなんや!」
「うるさいよ! 私はあいつの言いなりになるのはもう嫌なんだ!」
アダム……そういえばガイアが言っていたような気がする。
自分たちはアダムの従者だと。
ということは、アイナもまたアダムの従者なのだろうか?
しかし、この状況から鑑みるに、アイナはアダムと何かあって離反したのだろう。
いったい何が……
だが、今の高斗にはそんなの関係ねぇ!
そう、目の前にあの時、空から落ちてきた七色の髪の少女がいるのだ。
今でもはっきりと覚えている。あの時、あの少女が流していた涙の粒を。
そして、ピンクの唇からはか細い声で必死に助けを求める声が漏れていた。
高斗は少女に向かって手を伸ばす!
「君の名は! アイナって言うのか!」
その瞬間、七色の髪の少女、そう、アイナの視線がガイアから離れると、高斗に向かって急伸したのだ。
一気に詰まる高斗との距離。
この状況! 上下、左右の違いはあれども、あの時のシチュエーションと同じではないか!
まぁ、意識の中のタカトは、アイナが空から落ちてきたことは知らない。
この意識体の状況でアイナを見るのは初めてなのである。
(アイナちゃんだ!)
だからこそ、アイナを見たタカトは興奮した。
仕方ない、これでも自称トップアイドルのアイナちゃん親衛隊の補欠の補欠である。
それにもかかわらず、タカトは今までの人生で生のアイナを見たことがなかったのだ。
アイナのコンサート……それは聖人世界ではトップクラスの人気イベント。チケットの値段が高額であるのは当然のことであるが、その入手は常に困難を極めた。そのため、チケット販売の窓口となっているコンビニなどは常に地獄絵図と化すのである。
というのも、日頃、草食動物なみにおとなしいオタクたちが購入順番を争って肉食化するのだ!
「順番まもれよ!」「何言ってんだ!俺の方が先に並んでいただろ!」
もう、こうなっては収拾がつかない。コンビニの店内を高熱のオデンが乱れ飛ぶ!
「あちぃ!」
あまつさえ、転売ヤーの存在がさらにいら立ちを募らせる。「転売ヤーなんか死んでしまえ!」と、コンビニの前で大合唱! ここまでがいつもの鉄板パターンなのである。
というか……なんで、タカトがそんなことを知っているんだ?
だって、その様子をタカトはエロ本コーナーで立ち読みしながらムフフと笑いながらみていたのだ。
チケットを買えないタカト。
せめて、チケットに群がるアホどもを馬鹿にしてやろうとでも思っていたのだろうか?
いやいや……そんなつまらないことをタカトはしない!
というか、こんな大騒ぎなど滅多起きないのだ!
であれば、日ごろヤリたくてもやれないものをやろうではないか!
目指すは禁断の袋とじ!
そう!それはエロ本の中において立ち読みの存在を一切拒む禁断のページ!
その中にはとてもここでは書けないような卑猥な写真が写っていた。
だが、金がないタカトはエロ本を買えない……いや、買うことができないのだ。
でも、見たい……見てみたい……恐ろしいまでの青春本能、いや性春本能。
破ることなく袋とじを覗き見る!
タカトの脳内でスパコン腐岳が高速演算!
そして、一つの解決策を見出したのだ。
それは袋とじをグッと横から押し広げる。すると、袋とじが輪っか状に広がり、その中に空間を作った。その空間を下からのぞき込めば何とか中の様子を垣間見ることができるのだ。
だが、暗い。
ならば! 外の明かりを取り込んで。
顔にエロ本を押し付けて右に左に光を求めるタカトの姿。
当然……コンビニの女主人であるケイシーに注意される。
「何やってんだよ! この変態野郎が!」
だが、時は世紀末!
多くのオタクどもがコンビニ内でヒャッハー!状態で騒いでいる。
いかにケイシーが織田信長だったとしても多勢に無勢。本能寺、いやコンビニは完落ちすることになるだろう。
ならば!いやでも注意はそちらに向かざるを得ない。
時は今!天が下知る 五月哉!
ということで、タカトはエロ本コーナーで股間から何かをしたたらせながら、さっきから一冊の本の袋とじを下からのぞき込んでいた!
だが、タカトの名誉のために言っておこう!
タカトが見ているのは決してエロ本などではない!
それはアイナの写真集。アイナの写真集がなぜエロ本コーナーに置かれていたかは今は論じない! だが!その袋とじには、アイナの超レアなグラビア写真! 水着姿が映っていたのだ!
この写真で何人の小学生男児が大人の階段を上ったことだろう……
この写真で何人のオッサンたちが童貞魔術師のレベル限界を突破したことだろう…
それほどまでに人を惑わすアイナの水着姿!
もう、犯罪だろうが!なんだろうが構わない!
袋とじにできた空間に目を押しつけ中のアイナを覗き見ようとするタカト。
そこまでして見たかったアイナの水着姿。
それがどうだ! いま目の前には生アイナがいるのだ! 写真集同様にエロい姿で!
もう!興奮するなというほうが無理な話www
しかも、そのアイナの顔がどんどんと近づいてくる!
このままだとアイナちゃんの肌に触れることができてしまうかもしれない。
いや、勢い余ってハグだってできるかもしれないのだ。
そうなると! アイナちゃんの巨乳が自分の体に押し付けられる!
(ああ! この体が自分の思い通りにならないのが腹立たしい!)
だが!まてよ! これがライトノベルやアニメの世界だったらラッキースケベだってありうる!?
直前で転んでしまうアイナの体。
そんな顔がタカト、いや高斗の顔へ一直線!
ぶちゅー♡
(もしかして♡キスゥ~♡)
もう、想像しただけでタカトのテンションはダダ上がり!
それはもう、タカトのミニ大根がちょっと大きなカチカチ大根にまで勃起する、いや、天が下知るぐらいの興奮状態だったのである。
だが、思うのだ……(あれ……アイナちゃんの瞳の色って……)
そう、タカトが知っているアイナの瞳の色は黒色。人の目の色である。
それに対して今近づいてくる瞳は緑。忌み嫌われる魔物、魔人の色なのだ。
そう……今のアイナは空から落ちてきた時と同様に緑色の光を放っていた。
だが、タカトは知らない、そのことを。
一方、高斗はアイナが空から落ちてきた時のことを思いだす。
――あの時、君は俺にタスケテと言った。
だが、その身を受け止める前にアイナは消えてしまった。
――しかし! 今度は必ず君を受け止める!受け止めて見せる!
高斗は大きく両手を広げた。
だが、そんな高斗に発せられたアイナの言葉は思いもしないものだった。