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オカルト5

 日は沈みかけ、明るかった空が徐々に暗くなりつつある。伊吹は学校を出た通りを歩んでいた。


(結局碧さんは、琥珀に起こったことは何も知らなかったな――)


「聞いてもいい?」


「うん?」


「異世界の事」


 伊吹の問いかけに、琥珀は空を見上げた。


「最初は本当に戸惑ったよ。気がついたら見知らぬ城の広間に立っていて、目の前には立派な王様がいらっしゃって――」


 琥珀は懐かしむように微笑んだ。


「――実は玲央くんも一緒に異世界に行っていたの」


「え⁉︎ 玲央も?」


 伊吹は久保井(くぼい)玲央(れお)の名前を聞いて特段と驚いた。


「そう、驚くよね」


「なるほど、通りで最近見ない訳だ……」


「怜央くんが勇者として選ばれた時は、わたしも驚いた。彼は面白がってたけど」


「勇者……、ねぇ」


「うん。魔王を倒すように言われたの。最初は何もかもが不安だったけど、冒険者ギルドに所属して、少しずつ剣術や魔法を覚えていった」


「まさしくテンプレート的だね」


「ギルドで様々な依頼を受けて、時には危険な目に遭うこともあったけど……、仲間と共に成長していく毎日は、本当に楽しかったよ」


「怜央とは、ずっと一緒に?」


「うん。私があまりにも無茶ばかりするから、ほっとけないんだって。わたしに言わせればあっちの方が余程無茶してたと思うけど……。でも」


 琥珀の声が少し震えた。


「最後の魔王城での戦いは……」


 琥珀の表情が陰る。琥珀は拳を強く握りしめていた。


「向こうでは二年近く経ってたけど、こっちでは数日しか変わってないみたいだね……」


 琥珀が話題を区切る。伊吹は琥珀に何かを感じ取った様子である。


「琥珀……」


 静寂が二人の間に流れる。伊吹から見た琥珀の横顔には、懐かしさと後悔、そして決意が混ざり合っている様であった。


 二人は暫く歩いている内に、あの大きな交差点にまで来ていた。信号機の根元には、変わらず花束が供えられている。


「うっかりトラックに轢かれて異世界転生なんて、如何にもテンプレらしいが、笑えない冗談だな」


 琥珀はただ静かに表情を少しだけ歪めた。


「本当は長い夢を見てただけなんじゃない?」


「向こうでは現実世界に戻るなんて無理って言われてた。でも、どうしても戻りたかった……」


 琥珀は天を仰ぎ静かにそう言った。空は随分と暗くなってきている。


「大体の異世界物は、現実に辟易して異世界に行って好き放題するって感じのイメージだから、異世界に行った奴が戻りたがるってあんまり見ないパターンな気がするけど……、どうして戻って来たんだ?」


「うーん……、伊吹には秘密」


「ふーん、なるほど……、なるほどね」


 二人の間に静寂が訪れる。車のエンジン音だけが響いていた。


(死んで異世界に行ったわけだから、死んで戻って来たって事なのか? でも、玲央は? 事故死したのは琥珀だけなのに玲央も同時に異世界に行っていたのか? 琥珀は……、本物って事で、いいのか?)


「伝えておきたいことがあるの」


 暫くして、琥珀が不意に口を開いた。その声には、今までにない真剣さがあった。


「え?それって……」


 伊吹は突然の事に狼狽え、顔を逸らす。


「もうわたし長くないの」


「えっ?」


 短いながらも、ようやく小説としての形に仕上げることができました。読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!

 一ヶ月後を目標に、同じくらいの分量の続きを投稿できればと思っています。このプロローグの全体としては、あと四〜五章程度で完結させる予定です。

 感想や誤字報告など、どんなものでも気軽にコメントいただければ幸いです。皆様からのお言葉が何よりの励みとなります。これからもどうぞよろしくお願いします!


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