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渚の人魚姫

この作品は拙作「ノイルフェールの伝説~天空の聖女っセインテス~」のスピンオフ作品です。

本編をご覧いただかなくても物語が進むように制作しておりますが、もしご興味がございましたら本編も併せてご覧いただくと、この作品の世界観が広がりますので、よろしかったらご覧ください。



 海の中はいつだってボクのもの。ボクの世界。そう信じている。

 碧く広がるこの世界は全部。

 海の水も海面をゆらゆらと漂う陽射しも、静かに動く魚達だってみんなみんなボクのもの。

 この静かな世界で、ボクはいつだって自由に生きている。

 何者にも縛られず、綺麗な海の中を、胸を張って泳いで行く。

 そう、ここがボクの生きる場所。生きていくべき愛しい世界だから。

 あの日あの場所で『彼』と出逢うまでは……


―――――――――――――――――

ノイルフェールの伝説~天空の聖女(セインテス)~外伝

~The legend of Noirfale~SIDE STORY

 精人魚族(ローレライ)の歌

―――――――――――――――――

挿絵(By みてみん)


「ナディア! 待ってよっ―!」


 呼ばれる声に振り返ると、ボクの数少ない友達のヒルダが後を追うように泳いでくる。


「早く、ヒルダ! 早くしなくちゃイルカの群れが見られないよっ!」


 彼女を急かしながら先へ先へと進む。

 ボクはイルカが大好き。あの美しい情景を思い浮かべるだけでワクワクしてくる。早くイルカ達に会いたい。

 山吹色の長い髪が水に揺れる。


 目指すのは『いつもの特等席』

 ボクは金と白の混じった尾鰭をひらひらと揺らしながら、ただひたすら泳ぎ、海の真中にぽっかりと浮かぶ小さな()へやってきた。


 島とは言ってみたけど、実は海面に突き出ている岩山だ。

 その場所は、ボクとヒルダが座ってちょうど良いくらいの大きさだけど、この場所こそいつもの特等席だと思っている。

 二人で腰を下ろし、イルカ達がやってくるのを待つ。


「そんなにそのイルカ達、綺麗なの?」


 ヒルダが尾鰭をパタパタと水に浸けたり出したりしながら聞いてくる。


「もう、本当に綺麗なんだよっ! この間、ちょっと話し掛けてみたんだけど、みんなすごくいいイルカ達だったの! 海の中で一番優雅で、一番心優しい生き物なの!」

「ふぅん……早く来ないかなぁ?」


 その声が聞こえたのか、海の彼方からイルカ達が群れを成して跳ねながらやってきた。陽の光を浴びて輝く水しぶきが、虹色の宝石のように散りばめられていく。

 イルカたちの優美な曲線が、まるで海面に踊りを織り成しているかのよう。


「凄い、凄い、凄い!」


 ボクは思わず手を叩いて喜びを表現した。


 ヒルダも身を乗り出して見ていると、イルカ達はあっという間に此処までやって来た。

 その内の小柄なイルカが近づいてきた。


「やっほー! ナディア!」


 イルカはボクを見ると、声を掛け、一気に泳ぐスピードを上げた。

 何度も飛び跳ねたり、水面を立ち泳ぎしたり、元気に泳ぐ。


「ボクもああやって飛びたい!」


 このイルカはこの間友達になった女の子。名前はドリー。彼女の動きには優美さがあった。


「こんにちはナディア。お隣はお友達?」


 彼女が演舞を終えるとゆっくりと近付いてきた。疲れも見せてないドリーの声には、温かみのある響きが含まれていた。


「うん! ボクが連れてきたの。友達のヒルダだよ!」

「こんにちは、イルカさん」

「あたしはドリー! ヒルダちゃんで良い?」

「いいわ。ドリーちゃんね? よろしく!」


 そう言ってお決まりの挨拶が終わると、三人で海を泳いだ。

 穏やかなに凪いでいる海は静かで、陽の光が優しく差し込んでくる。


 ヒルダが楽しそうに、素早く前に進み、軽やかに方向転換を繰り返している。

 イルカのドリーは、身体を自在に操りながら、ボク達の前を泳ぎ回っていて、時々ヒルダに寄ってきては、嬉しそうな声を掛けてくれる。

 ボクは二人の動きを見つめながら、ゆっくりとした泳ぎで追いかけていく。

 

 でも、楽しい時間はあっという間に過ぎ、ドリーがいる群れの他のイルカ達がやって来て「移動するよ」と声を掛けた。

 ボクはその様子をちらっと見てからドリーを促した。


「そろそろ行った方がいいんじゃない?」


 ドリーは、多分彼女のお母さんだと思われるイルカに目配せをしてからボクとヒルダの頬にキスをした。柔らかな感触と共に、イルカ特有の優しさが伝わってきた。


「じゃあ、またねぇ!」


 そう言ってイルカの群れは去っていく。

 その姿は夕陽に照らされて、まるで黄金の矢が海を切り裂いていくかのようだった。

 ヒルダは見えなくなった海の方向を見ながら笑った。


「可愛いわね、あの子。素直そうで」

「とってもいい子よ。また一緒に遊べたら楽しいね!」


 そんなことを話しながらボク達は帰路へついた。


 ボク達は人魚族(マーメイド)

 人魚族(マーメイド)はまだ成人を迎えていない人魚で、成人を迎えると女性は『海女族(メロウ)』になり、男性は『海人族(マーマン)』になる。だけどボク達はまだ『人魚族(マーメイド)。』だ。


 ここの海はほとんど人間族(ヒューム)がやって来ることもないから危険もないし。そして何よりも海で起こる全てのことをボクは愛している。

 水平線の向こうから見える朝陽とか夕陽とか……さっきのイルカの群れだって、時々現れるクジラの群れだって、迫力があって凄い。


 海の世界は何時だって希望や暖かさに満ち溢れている。この陽気な世界がボクの全てだから。


 でも時々、不思議に思うことがある。

 この海の先にぼんやりと見える黒いもの。パパもママも『(おか)』と呼んでいる場所。そこには人間族(ヒューム)というボク達によく似た生き物がいるらしい。

 (おか)は熱くなったり寒くなったり、乾燥したりで生きていくには過酷な場所だとパパから聞いた。


 どうして人間族(ヒューム)はそんな過酷な場所に住もうと思ったんだろう?

 海の方が楽しいし、過ごしやすいと思うのだけど……


 ママはとても怖い者ばかりが住んでいて争いの絶えない世界だと言っていた。

 そんな怖い世界に住む人間族(ヒューム)は、この世界の暴れ者のサメのように凶暴で残忍なんだろう。でも、本当にそうなのかな?


 まぁ、サメは鼻先を殴って両手でひっくり返してやれば簡単に気絶するから人魚族(マーメイド)の敵ではないけど、人間族(ヒューム)はそうはいかないみたい。

 たまに仲間が突然いなくなったと思って皆で探していたら、人間族(ヒューム)に攫われていたから危険だってママは言っていたし。


 この世界はいつだって平和なのに……どうして人間族(ヒューム)は争いたがるのだろう?

 イルカたちのように、みんなで仲良く泳ぐことはできないの?

 海の中では、仲間達はみんな助け合って生きているのに?

 時には喧嘩したり争ったりする事もあるけれど、命を奪い合うようなことは滅多にないのに。


 ボクは、潮の流れに乗って流れ着いた船の残骸を目にすると、いつもそう思ってしまう。


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