第一章 夜空に触れたその日 1
夜が訪れると、街の静けさが心の奥底にまで染み込んでくるようだった。月島千尋は、いつも通りの通学路を一人で歩きながら、何かが欠けているような感覚に囚われていた。周りには誰もおらず、ただ遠くから聞こえる風の音が、彼女の孤独を際立たせているように感じられる。
帰宅するにはまだ少し早い時間だが、どうしても心が落ち着かない。この胸の中に満ちる微かな不安がどこからくるものなのか、千尋にはわからなかった。ただ、毎日同じ道を歩いているはずなのに、今日はなぜか違う風景のように見えた。
「…なんで、こんな気持ちになるんだろう…」
ふと呟いた瞬間、周囲が一層静かになった気がした。辺りには人気もなく、空を見上げれば、深い夜の闇が広がっている。そのとき、千尋の背後に、誰かが立っている気配を感じた。思わず振り返るが、そこには誰もいない。ただ、暗闇に吸い込まれるように静かな空気が流れていた。
「誰か…いるの…?」
声を出してみるが、返事はない。けれど、確かに何かの視線を感じる。それは、彼女が生まれてから一度も感じたことのない、底知れない存在感だった。
その瞬間、彼女の視界に影が動いた。次の瞬間、風が凍りつくように冷たく感じられ、千尋の背筋に冷たいものが走る。全身が恐怖で固まってしまい、足が動かない。そのとき、不意に静かな声が耳元で響いた。
「君に、力を授けようか?」
低く冷たい声だったが、どこか優しさのようなものも含んでいる。その声の主は、まるで闇から生まれ出たかのように、千尋の前に現れた。彼の姿はぼんやりとした輪郭しか見えず、まるで現実に存在していないかのようだった。
「君が望むなら、僕が力を与えよう。ただし、それには代償が伴う。それでも構わないかい?」
千尋はその言葉に迷いを感じつつも、圧倒的な存在感に引き寄せられるようにして、自然と「はい」と答えてしまっていた。すぐに、自分が何に同意したのかも分からないまま、身体が不思議な感覚に包まれていく。
「これで契約は成立だ。これから君は、運命に挑む存在となるだろう」
彼の言葉が終わると同時に、千尋の体が不思議な光に包まれた。まるで、身体の奥深くに眠っていた何かが目覚めたような感覚。そしてそのまま、彼女は意識を失った。
次に千尋が目を覚ましたとき、彼女は見たこともない場所に立っていた。周囲を覆うのは濃密な闇と、遠くに輝く小さな星々。現実とは思えない景色の中、千尋は自分が確かに変わってしまったことを感じ取る。彼女の運命は、もう元には戻らない。