タカオカさんが言わなかったこと
広島は、ずっと付き合っていた女、葉月の故郷だ。
みなみさんには言わなかった。みなみさんにも家庭があるのだから、同じことだ。
葉月とは何年付き合っただろう。5年だろうか。長く続いたものだ。
葉月はよく勉強した真面目な子で、少しだけ愚かで不器用なところが好きだった。
地元の広島から神戸に出てきて、法学部を出たにも関わらず、何をやるか考えていなかった。
葉月の純真な笑顔に癒やされた。会社を立ち上げる時も、いつもそばにいてくれた。
みなみさんは一時の気の迷いだった。
みなみさんもきっとそうだっただろう。それなのにいつの間にか惹かれた。
俺は葉月のように優しくない。結婚にも興味が持てない。
葉月は結婚したがっていた。応えられない時点で、別れてやるべきだった。
遅くなったが、別れてよかったのだと思う。
広島市街を歩くと、懐かしい光景があちらこちらに広がる。不思議なところだ。街に流れる雰囲気が少し日本離れして見える。街角でラフに営業するカフェは道にテーブルと椅子が張り出していて、パリの街角を思わせる風情だ。
地方出身だとわきまえていた葉月は、謙虚で可愛らしかった。いつでも俺を立てて、よく笑っていた。
結婚の話で折り合えなくなってから、葉月の言動がおかしくなっていった。捻くれて曇った笑顔を見せ、素直に話を聞かなくなった。
結婚を決められない俺からはいずれ、離れていったことだろう。




