引っ掻き傷
おなじみ? 『金曜 女のドラマシリーズ』
今日のしろかえでは“黒い”です(^^;)
呼び出された喫茶店のウィンドウから“元”お義母さんの姿が見えた。
きらびやかなネイルでディ●-ルのリップ マキシマイザーを持ち、ハンドミラーを覗き込んでいる。
「あれが今のオトコの趣味なのね!」
独り言ちた言葉が自身の心にボタン!と染み出して
私は深いため息を付く。
「会いたくないなあ~!!」
声に出してしまった……
でも、彼女は悠生の母親なのだからと気持ちを抑える。
喫茶店に入り、探すふりをしてから“彼女のブース”に行き、一礼する。
「遅くなりました」
「ううん! 私も今、来たところ。遥ちゃんは何にする?キャラメルマキアートがあるわよ」
「いえ、ブレンドで……」
「あら、すっかり大人ね! でもそれじゃ私がつまらないからアナタもマキアートになさい!」
「分かりました。お義母……澄江さんもキャラメルマキアートで?」
「もちろんよ! 懐かしいわね……ほらっ! アナタが学校のお友達と“シー”へ行くからって……お洋服を“グラモ”に買いに出かけたじゃない! あの時もふたりでマキアート飲んだわね! アナタの嬉しそうな顔を見て……私はつくづく女の子の母親になれた幸せを噛みしめたの!」
元からそういう性質の人なのだろうけど、少し夢見がちな瞳をして見せるこの人は、今は美魔女で……私の義母だった頃より確実に華やかだ。
だからこそ、私にも“いい思い出”だったこの事には触れて欲しく無かったのに……
曖昧に頷いたタイミングで会社支給のスマホが鳴った。
見ると……ちょっと厄介な得意先だったので私は席を立ち、澄江さんから離れたところで電話を取った。
予想通り厄介な事を得意先から捻じ込まれ、やむなく上司にも報告の電話を入れた。
「まったく!!よりにもよって!!」
また心の中で独り言ちながら席に戻ると澄江さんが絡んで来る。
「お休みの日まで仕事なんて!! アナタ一体何をやってるの?!」
「仕事ってそういうところあるでしょ?!」
「それは分かるわよ! でもアナタは他人まで巻き込んでいる、上司の方だってご迷惑でしょ!!」
「この件は……課長から至急の報告を求められているの!」
「そう指示はされても、部下は上司に迷惑を掛けない様にしなきゃいけないの!! それが社会常識!! アナタがそんなだから悠生にも迷惑が掛かるの!!そういう所はホント!!あなたの父親にそっくり!!」
「そういう前時代的な事を言わないで!! 第一!!なぜ悠生や父の話になるの?!!」
元義母はまるで物語の継母の様にキッチリメイクされた目力で鋭く私を睨んだ。
「悠生はね!今は大越の立派な跡取りなの!! アナタとは別の世界の人なの!! 私はね! アナタの事を憎く思いたくないの!! アナタは悠生の事も色々面倒を見てくれたから……でも! もう悠生とは関わらないで!! でないと……さっきみたいにアナタの父親と重ねて見てしまう!!」
テーブルに置かれたキャラメルマキアートの甘い香りとは裏腹の苦い思いが私の胸の内にこみ上げて来る。
元夫婦間の出来事の詳細は分からない……でも一時は確かに……このキャラメルマキアートの様な甘い香りがする幸せの中に私達は居た筈なのに……
でも、私と悠生は別だ!!
悠生が私の事を邪魔だなんて言う訳が無い!!
お互いの親達の諍いが絶えなかった時も私達は身を寄せ労り合い……愛を育んだのだから……
そんな私達の愛を!!
目の前のこのオンナが踏みにじろうとしているのか??!!
「父の事も悠生の事も澄江さんから言われる筋合いではないわ!!」
こう反論すると、澄江さんは口を付けたカップの先をキュッ!と拭いてわざとらしくため息をついた。
「どうしてこんな子に育ってしまったのかしら! 血は争えないとは言うけれど……とにかく悠生はアナタとは違うの!! あの子には……業界大手の田宮製作所のお嬢様との縁談が進んでいるの!! アナタも“元”弟の幸せを願うのなら、あらぬ噂が立たないよう慎みなさい!!」
こう言われて私の頭の中では全力で否定しているけれど……思わず言葉が口を衝いて出る。
「悠生は何と言ってるんです??!!」
私の問い掛けに澄江さんは自身ありげに胸を張った。
「あの子は思慮深い子だから!! あの子にとっても我が家にとっても一番有意義で身綺麗な選択をするわ!」
中学に上がるまでは親一人子一人で過ごして来た悠生は……その優しさゆえに母の夢と希望を叶えようとするだろう……“恋人”との愛を犠牲にしてまでも……
私は自分に言い聞かせる
「本当に悠生を愛おしく想っているのなら、カレがこの世で一番大切に想っているであろう母親の期待を裏切らせ、その事でカレ自身を苦しめさせる事はできないだろう!!??」
でも私はとんでもない事を口走っていた。
「分かりました! では悠生は私が手篭めにしてからあなたにお返しします!!」
次の瞬間、私は喫茶店のBGMを遮るほどの音で澄江さんから平手打ちを食らった。
「この売女!!! 悠生には二度と会わせない!!!」
テーブルの上に一万円札をバンッ!と叩き付け澄江さんは出て行った……
あのオンナが見えなくなってから、じわじわジンシンとして来る頬をハンドミラーで確かめたら……
打たれて腫れた頬とは反対側に赤い横一文字……
おそらくキラキラ光る爪かジュエリーが引っ掻いたのだろう。
理解してもらいたくて
祝福されたくて
もう一度
お義母さんと呼びたくて
最後の一線だけは越えない様にと
いつも悠生の胸を必死で押し戻していた……
そんな努力がすべて無駄だと感じ、情念と嫉妬を激しくこの胸に抱え込んでしまう私も、テーブルの上に“これ見よがし”の一万円札を残していったあのオンナと
同じ穴の狢なのかもしれない……
オンナって!
オンナって!!
オンナって!!!
かくも醜い。
おしまい
ドロッとしたのを書いてしまいました。
こういうのは黒姉の方が得意なのですが……( *´艸`)
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