黒の再起動 (★ラヴォア視点)
「3人の状態はどうだ? 」
「皆、脈と呼吸は有りますが、顔色が悪く、髪の毛の脱色がすすんでいます。
色素が大幅に不足している証です」
アイザック副学術院長の問いかけに答える。
医者であるクラテスの方が適任であろうが、私の処置により目覚めたばかり彼は、まだ、壁に寄りかかり辛そうにしていた。
一刻も早く、色素を摂取させるべきだが、マゼンタ王国第一皇女相手にクラテスに行った処置は行えない。
ピロルくんやピロロピロール姫の様に、皮膚を介した色素の授受が出来ればよいのだが……。
あれは一部の色素女神様に愛されたモノにしか出来ない技だった。
「まっ、まずい 」
クラテスが、ピロルくんを指差しなが苦しそうに言った。
それまで真っ白だったピロルくんが、徐々にドス黒く変色していく。
「何が起こっている? 」
「たっ、たぶん、また、暴走するぞ」
私の問いにクラテスが答えた。
クラテス曰く、先程暴走し始めた時も、徐々に黒くなっていったらしい。
クラテスは、ヨーメン学術院長の命令を受けて、ピロルくんの色臓(色素を作りだす臓器)を仮死状態にする手術を行ったらしい(正確には色素核の遺伝子情報?塩基配列?を弄るらしいが)。
それに成功して数時間後、ピロルくんの様態が変化しだした。ドス黒く変色し、破壊行動を始めたのだという。
話から推測するに、ピロルくんの体から色素が欠乏すると、黒い色素が増殖し暴走を引き起こしているようだ。
つまり、ピロルくんの体を色素で満たせば暴走を止められる。
私は鞄へと走った。
それと同時にピロルくんが動き出す。私の意図を呼んだかのように、こちらへ飛びかかってきた。肩掛け鞄の紐を持ち振り回す要領で、ピロルくんをハタきにかかる。
遠心力を利用した攻撃が直撃した。弾き飛ばされるかに見えたピロルくんは、鞄にしがみつき着地するとそこを起点に、鞄を振り回す。
「うわぁぁぁあっ! 」
立場が逆転し、紐を持っいていた私が振り回される。鞄を取られまいと抵抗したせいで、派手に吹き飛ばされてしまった。背中からお尻にかけてを壁で激しく打ち、呼吸が止まる。
クラテスを運ぶため残っていた予備兵が、ピロルくんに斬りかかった。
ピロルくんはそれを素早く避け、態勢を崩した予備兵の足を払い転ばせる。そして、彼の振り回し、呆然と見つめている副学術院長へ向けて放り投げた。二人纏めて戦闘不能に陥る。
ピロルくんが、ゆっくりと私の方へ近づいてきた。痛みで動けぬ私の前で立ち止まると、手刀を振り上げた。
殺られる。
そう覚悟した瞬間、ピロルくんが赤黒く発光しだした。
振り上げられた手がプルプルと震え、上へと押し戻されている。まるで、ピロルくんが葛藤しているかようだ。
しかしながら、それも一瞬だった。赤黒い発光は徐々に消光しドス黒いピロルくんが、ニヤリと怪しく笑った。
今度こそ死を覚悟した。
ピロルくんは、止まっていた腕を再度高々と掲げた。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
腕を振り下ろそうとした彼に、炎に包まれた朱雀が飛び込んだのだ。彼の体がゆっくりと持ち上がり、私の上にそっと降ろされた。
私の胸の上で、炎のように揺らめき紅く輝くピロルくんが静かに寝ていた。
「遅くなってすまぬ。
ピロロの弱い色素から場所を特定するのに、時間がかかってしまった」
朱雀が飛び出してきたのであろう一筋の炎が横へと広がり、そこからラキノン大王陛下が現れ、私にそう言った。




