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蛸の恩返し

 

「ミョージンさーん! 」


 ハクがチタニア海岸を駆け出した。

 船の準備をしていた青年が、こちらを振り返り手を振っている。海底で昆布をくれたミョージンさんだ。


「皆さん、乗ってください! 」


 俺達が乗り込むと、ミョージンさんが船を押しだす。


「しゅっこーだぁー! 」

 ハクの威勢のいい掛け声で、俺達の航海が始まった。





 スー――ポチャン!


「はーっ、はーっ」


 スー――ポチャン!


「はーっ、はーっ」


ミョージンさんが汗だくになりながら、一生懸命(オール)を漕いでいる。

 

 ……のだが、少しずつしか進まない。

 それはそうだ。4人と5匹が乗っていてるのだ。


「私たちも漕ごう」


「えーっと、(オール)の予備が……」


 ピロロの提案に、ミョージンさんが申し訳なさそうに言った。


  「……」


 全員が沈黙する。やばい、このままだと、ほぼ陸釣りになってしまう。


  ふるふるふる、キュッポーン!


  ポチャ、ポチャーン!!


 俺が思案に暮れていると、ピロロ胸に抱かれていた2匹の手乗りスライムが海へと飛び込んだ。





「うわぁぁぁぁぉぁーーーーーあ! 」


 行成のトップスピードに、真後ろへと身体を持っていかれる。

  俺達の大絶叫が、大海原に響き渡った。





「スラリー、シロリー、ここら辺で泊めてくれ」


 ミョージンさんが、スライムエンジンに指示をだす。

 

 最初暴走した彼らを、ミョージンさんは短時間で操れるようになっていた。流石、漁師である。

 名前まで『白スラリー』から『シロリー』へと洗練されている。


 このスライムエンジンは、ピグミア大陸で爆発的に普及し、後にピグミア三大発明? 発見? の1つとまで言われるのだが、まだ、それは先の話である。





「ちょー、気持ちー! 」


「波も穏やかで、最高の釣り日和ですね」


 ミョージンさんが釣り針に餌をつけながら答える。


「みてみてー! 」


 先に釣りを始めたハクが叫んだ。


 えっ!?


 皆の視線がハクに集まり、目が点になる。

 まるで、熟練したカツオの一本釣り漁師みたく、次から次へと釣り上げていた。


「……チタニアの釣りって、あんな感じなんですか」


「いやー、そんなことは……」


 ドサッ――ピチ、ピチ、ピチッ


 ミョージンさんの言葉を遮るように、空から魚が降ってきた。それを皮切りに、魚の雨が降り注ぎ始めた。


「ひぃーっ! 」


「やーっ! 」


「わーっ! 」


戦場……船上に響き渡る叫び声に比例して、魚の山が出来上がっていく。その横では、人知れず、スラリーが大量の魚を呑み込んでいた。

 

「っ!? 」


 ピタッと雨が止み、今度は船が大きく傾き出す。


  沈むーー!


 そう覚悟した瞬間、船が小高い丘へと乗り上げた。ヌメリとした弾力の有りそうな丘肌は、太陽光を反射し黒、青、赤、白の四色に輝いていた。

 視線をあげると、吸盤の着いた足が、魚を握りしめながら手を振っている。


「たっ、助かった……」

 死を覚悟したであろうミョージンさんは、そう呟くとその場に崩れ落ちた。


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