鎮魂祭
ガバッ!
視線を感じ飛び起きた。
気のせいか。再び、ベッドに身を沈め、目を閉じた。
じーーーーーーーっ。
瞼の裏側に、つぶらな瞳が現れた。
やはり、気のせいではなかったようだ。
スラリーの色素を探る。どうやら、河川敷にいるようだ。ピロロとラヴォア博士に声をかけ、俺はテントを飛び出した。
すでに太陽が登り始め、河川敷は朝日がさしていた。数人の人が集まっている。教帝聖下達だった。スラリーの色素に気付かれたようだ。俺達は無言で合流した。
白い輝きと共に、水面に人影が浮いてきた。
白スラリーが包み込んで運んできたのだ。水面に顔を出すと、ニュルっと陸に押し出す。
教帝聖下はハクの父であることを確認し、ハクを呼びにやった。
ハクと同じ銀髪の精悍な男性が、安らかに眠っている。今にも起きてきそうな雰囲気だった。
ハクは走ってやってくる。
「う、ううっ、お父さん」
父親に縋り付き、泣き始めた。
会えないのも残酷だが、現実を突き付けられるのは、もっと辛いだろう。
気付けば、俺達も一緒になって泣いてた。
「おっ、おとうさん、ごめん。ピロルと泣がないって約束しだのに、うっ、うう。笑顔で送り出すつもりだっだのに、ううっ、やっぱり、……むりだ」
ハクが涙を拭いながら、父親にあやまる。
「バカヤロー!本当に悲しい時は、声を上げて泣くんだよ!
ハクをいっぱい愛してくれてありがとう! ハクを立派に育ててくれてありがとう! 」
ドン・スネークが叫んだ。
「うっ、うぅ、自分も言うっす! ハクのおどうざーん、ありがどうっず! 」
ゴンがグチャグチャの顔で言った。
「おい、バカ狐!てめーもなんか言え!このやろー!」
「ううっ。ハクのお父さん、ハクを一杯愛してくれてありがとうございました。これからも、ハクのことを見守ってあげてください」
俺も泣きながら言った。
ハクが嬉しそうに笑う。
アナターゼ総主教が前に進み出て跪いた。
「ハク殿、すまぬ…。私がラヴォア博士を止めなければ、ソナタの父は助かったかもしれぬ。わたしがっ、私のせいで、ソナタの父は、うっ、うっ」
そのまま、泣き崩れた。
「ううっ。すまない…」
イルメナイト首席枢機卿が悲痛な面持ちで謝った。
「全て私の責任だ。ハク、お父上を守れず、すまぬ」
教帝聖下が頭を下げた。
「僕のおどうさんは、優じくて強いんです。誰のこども、責めたりしません。そして、僕が誰かを責めることも望んでいないんだ」
ハクは自分に言い聞かせるようにそう言うと、腕で涙を拭った。そして、スクっと立ち上がり、こちらを振り返る。
「お父さんは、こんなにも沢山の人に想われながら天国にいけるんだから、幸せものです」
最高の笑顔でそう続けた。その表情に、恨みや後悔の念は微塵も感じられたなかった。
ハクの父親は、他の犠牲者と共に埋葬された。発見された遺体は数十名に登ったらしく、多数の墓標が建てられていた。
その夜、チタニアでは鎮魂祭が行われた。故人を見送る儀式のことで、遺族が一晩中踊り明かすのだという。今回に限っては、各国の救援部隊も加わり、盛大に行われた。
俺も、ハクと踊り狂った。ハクが笑顔になれますように。そして、そのハクを見て、お父さんが安心して天国へいけますように、と祈りながら。




