博士の悦び
テントに戻ると、海底での様子をピロロが尋ねて来た。短めにまとめ、早く寝ようと思っていたのだが、それは許されなかった。ラヴォア博士が根掘り葉掘り聞いてきたためだ。
「まさか、ハクがチタニア種とシリカ種のハーフだったとはな。私としたことが、全く気付かなかった。まぁ、魂晶の儀を行っていた教帝聖下も気付かなかったのだから、無理はないか。やはり、チタニア種の輝きが強すぎてシリカ種が飲まれてしまうのかもしれないな」
1人でぶつぶつ呟いている。
「ハクが沈まずに白スラリーに乗れたのも、ハーフだからですよね」
「そうだろうな。ハクくんが、まだ子供で色素の体内含有量が少なかったのも、良かったのだろう。君が、水中を泳げたのも、そのためだと思うぞ」
「えっ!? 」
「君も、色素女神様からチタニア種を授けられた訳だろ。普通に考えたら泳げないはずだ。でも、君は泳げた」
「そうか、色素女神様がチタニア種とシリカ種のハーフにしてくださったのか! 」
博士に言われて、初めてそ気付いた。
「その通り。それに、君はハクくんより小さい上に、色んな色素を獲得しているから、チタニア種の色素含有量が相対的に低い。それも良かったんじゃないかな。まぁ、詳細は研究室で体液検査をしてみてからだな」
博士が嬉嬉として続ける。
「相変わらず、ピロルくんは面白いな。色素操作でバルーンを攻撃するように仕向けられたタコを、壺を好むという本能を利用して制したわけだろ。おまけに、色素で上書きして、洗脳を解除したのだから。
外部からの洗脳よりも本能が勝るという実証結果は、そのまま論文にしたいぐらいだよ! 」
目が怪しく光っている。
「そういえば、海上からは、どうやって戻ってきたのだ」
ピロロが問う。
「バルーンの事にばかり気を取られ、その先のことを話し合ってなかったな」
博士が、今思いついたとばかりに言った。
「蛇2匹に、飛行しながらバルーンを押してもらったんです。俺は、上空から方向指示を出しつつ、領民の安全を確認していました」
「どうやって、進む方向を決めたんだい」
「ピロロの色素を目印にしました。教帝聖下と相談した結果、漂着場所をチタニア海岸に定めたんです。ピロロにはそこに移動してもらいました」
「なるほど。だから、突然、姫様が海岸へと移動したのか」
ラヴォア博士が頷く。
「海岸で待っている際に、真っ先にドンとゴンが飛んできたのはそのためか」
ピロロが納得したように呟いた。バルーンを浅瀬に運び終わった2匹は、カレーの匂いにつられ広場に直進したのだ。広場で大暴れした後、早々に、異次元ポケットへと収容され出てこなくなった。
「いっぱい面白いことを聞けて、楽しかったよ。私も是非一緒に行きたかったなぁ。
疲れただろう。ゆっくり、休んでくれたまえ」
博士が満足気に言った。
外を見ると、ほんのり夜が開けだしていた。




