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ルブルム城①

マスターの肉屋で、ピロロ姫に引き取られた俺は、そのままルブルム城に連れてこられた。


「ピロロ姫のお通ーりー」


その一声で、群衆が割れ道が出来た。ずっと胸に抱かれていた俺は、自分が王になったような気分を味わった。


民衆の中には、ピロロ姫に会えて涙しているものさえいて、そのカリスマ性を伺いしれた。


ルブルム城につくと、メイドさんが待ち構えていた。マドムさんとモアゼルさんといった。まず、俺を風呂に入れるらしい。汚れやダニを落とすためなんだと。失礼しちゃうぜ。


ここで、ピロロ姫が一緒に入ると言い出した。まぁ、俺としては姫がどうしてもというなら、仕方ないなぁと思ったのだが。いや、決して下心はないぞ。だって、野獣ではなくて魔獣だし……。メイドさん二人の必死の説得で、混浴は先延ばしにされた。


モアゼルさんが俺を受け取ろうと手を伸ばした。ピロロ姫は頑として、渡そうとしない。結局、引き剥がされる形で、俺は風呂へと連行された。マドムさんに抑えられたピロロ姫は、今生の別れであるかのように叫んでいた。


ルブルム城は細部にまで装飾が施され、豪華絢爛そのものだった。華やかに彩られた入口をぬけると、広大なエントランスが出現した。左右に廊下があり、突き当たりに階段があった。王への謁見の間や王族の居室があるらしい。


浴場は左側の廊下を進んですぐの所にあった。大小2つあり、王族用とペット用に別れていた。


俺を大理石の浴槽に入れながら、モアゼルさんは簡単に自己紹介をしてくれた。元々、マドムさんとモアゼルさん二人で、ピロロ姫のお世話をしていたらしい。俺が来て、モアゼルさんが俺とピロロ姫の担当になったのだそうだ。


「身の回りのことは、わたくしにおまかせください」


モアゼルさんはにこやかに言った。


お任せする程のことはないんだけどなぁと考えていると、細長い指が全身を舐め回すように、体の隅々まではわされる。


(ちょっ、やめっ、あっ、ふぁ……)


とてつもなく、くすぐったい。


「お湯を掛けますよ。動かないでくださいね」


やっと、解放されると思ったら、また、指が動かされる。


(もぅ、やめてぇーー! )


モアゼルさんはニヤニヤしていた。あきらかに、俺の反応を楽しんでるだろ、おい!


ドライヤーとブラッシングが終わると、モアゼルさんは洋服を選びだした。浴場の隣にウォークインクローゼットがあり、所狭しと高そうな衣服がかけられている。百着を優に超えていそうだ。


「どれにしようかしら。この赤もかわいいけれど、男の子だからこっちの青かしらね。いや、やっぱり……」


ペット用の衣服でさえ、明らかに俺(柊僚)のより多い。時間をかけてあーでもない、こーでもないと悩んでいる。


俺はそっと部屋を抜け出した。洋服などいらんのだ。


折角こんな立派なお城にきたのだ。部屋でじっとしておくなど勿体ない。俺はRPGの主人公になったつもりで、探検を開始した。


廊下にでると、美味しそうな匂いが漂っていた。急激な空腹感に襲われる。昼前にマスターのところで、食べたっきりだ。家畜用の餌を出してくれたのだが、実の所口にあわず殆ど手をつけなかった。


より鋭くなった嗅覚で場所を特定する。エントランスを挟んで反対側の廊下から、漂ってきているようだ。誰もいないことを確認し、廊下へと突き進んだ。


少し行くと扉のない大部屋に行き着いた。10名ほどが慌ただしく動き回っている。全員がコック服姿だ。


具材を切る者、フライパンを振るって炒める者、盛り付ける者、三者三様に働いているのだが、皆動きに無駄がなく洗練されている。思わず見とれてしまった。


また、体が宙に浮く。皆、俺の体を動物みたいに扱いやがる。


「料理長、変な奴を捕まえました。捌いて賄いにしちゃっていいですかねー」


俺の首根っこを掴んだ、若い男が調理場へむかって叫んだ。毛の混入を危惧したのだろう。


料理長と思わしき人物がこちらにやってきた。厳ついおっさん…じゃない、小柄の可愛らしい女性だった。幼い感じで、20代にもみえる。


「この子、ピロロ様の守護魔獣に選ばれた子では。私も先程お聞きしたところだから、確信は持てないけれど。もし、そうだったら、あなたが賄いにされるわよ」


料理長は、いたずらっぽく笑った。件の若い料理人は青ざめている。ざまーみろ、一人ほくそ笑む俺であった。


結局、料理長室に連行された。


「私は、シマ。あなたのご飯を担当すると思うから、よろしくね」


シマさんが微笑む。俺は、こくりと頷き頭を下げた。シマさんが目を見開く。


「あなた、言葉がわかるの?」


再度頷く。


「王家に仕える色素魔獣(ピグモン)って、知性が高いのだけど、こんなに言葉がわかる子にであったのは始めてよ」

話しながらシマさんは赤い飲み物を出してくれた。昔、祖母宅で飲んだ紫蘇ジュースに似た味だった。甘ったるくて苦手だったのが、シマさんのは炭酸割になっており、すっきりとして美味しかった。俺がグビグビ飲むのを嬉しそうに眺めている。


「私たち人間は、あなた方色素魔獣(ピグモン)色素植物(ピグプラ)から色素(ピグメント)を頂いていきてるの。その内で、特に色素(ピグメント)を上手く能力に変えられる一族が、国を統治する王家なの。ピロロ様は今この国で一番色素(ピグメント)の加護を受けていて、その強い能力から、次期女王だと言われているの。ぜひ、傍で支えてあげて」


こくりと頷く。ピロロ姫のことを心から慕っているのが、伝わってきたためだ。


「あら、やだ!話し込んでいたら、姫にお伝えするのを忘れていたわ。あなた、抜け出してきたのでしょ。きっと、カンカンよ」


俺は昼間の姫の怒りを思い出し背筋が凍った。


その時、扉が勢いよく開いた。先程の若い料理人が血相を変えて入ってくる。


「料理長、守護魔獣(さきほどのモンスター)が居なくなったと大騒ぎになっていますよ。ピロロ姫様が国中探すようにとご命令です」


それを聞いて、俺とシマ料理長は青ざめたのである。



◇◆◇



「「申し訳ございません」」


ピロロ姫のご寝所にて、平伏すもの二名と一匹。


「私目がお洋服選びに熱中してしまったばかりに、申し訳ございません」


「いいえ、私が直ぐにご報告差し上げればよかったのです。つい、お言葉がお分かりになると知り、下らぬお話をしてしまいました」


俺は再度、頭を下げる。死にたくない一心だ。


ピロロ姫がニヤリと笑った。


「お前、モアゼルとシマも誑かしたのか。私が見込んだだけのことはあるな。

まぁ、よい。洋服選びは今から、私とモアゼルで行おう。あと、今日は私と添い寝だからな。逃げたら許さぬぞ」


目が笑ってない。マジで怖いんですけど……。


「それとお前に名前をやろう。つけてないのも不便なのでな。私の名前ピロロピロールからとってピロルでどうだ」


モアゼルさんが拍手した。シマさんも頷いている。こうして、俺はピロルになった。


それから数時間、俺は着せ替え人形をやらされた。にもかかわらず、結局、洋裁師に新調してもらうらしい。


俺の睡眠時間かえせ! 声にならない虚しい叫びであった。

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