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最初の朝食

 カラン、カランッ、ガチャガチャ、ガシャーン!


 金属がぶつかり合う音で、目が覚めた。

 ハクの膝から、そっと抜け出し窓の外を見ると、マスターが調理器具を抱えながら歩いていた。

 ハクが俺の横に顔を寄せてくる。


「起こしちゃったか。ごめんな」


「ううん。あれ、手伝ってみたい」


 ハクが、マスター達の方を指さし言った。

 朝ごはんの準備をしているようだ。

 俺達は、行ってみることにした。


「マスター、おはようございます」


「おう! お前、話せるようになったのか! 」


「ラヴォア博士のお陰です」


「相変わらずだな、あいつは。ガハハハハ! 」


 俺の返答を聞いて、マスターが豪快に笑った。

 その野太い声に、若干、ハクが引いている。


「お前、見ない顔だな。その風貌は、チタニア領のモンか」


「はっ、はい。ハクって言います」


 緊張気味に答える。


「何か、手伝えることはありますか」


「そうだな。あっちで、店のモンが具材を切っているから、手伝ってやってくれ。あと、火起こしも手伝ってくれると嬉しいんだが」


 俺の申し出に、マスターがそう言った。


 火起こし、か。

 そこで、はたと気付く。

 俺は最高のファイアースターターを持っているということに。


「これ、使えますか」


 異次元ポケットから、寝ているゴンを取り出し、マスターに渡した。


「白龍、それもチビだな。んっ、この感じ、赤龍が化けてやがるのか!? お前、これどこで拾った! 」


 マスターが興奮しながら言った。

 流石、マスターだ。赤龍の擬態? を見抜いたらしい。


「シアニン帝国で懐かれたんですよ」


「確かに、あの国の守護魔獣は龍種だが、赤龍の存在なんて知らんぞ。コイツは誰かの、守護魔獣なのか」


「……強いて言うなら、ドン・スネークの守護魔獣ですかね」


「守護魔獣の守護魔獣ってか! そりゃ、傑作だな! 有難く使わせてもらうぞ、ガハハハハ」


 マスターは豪快に笑いながら、ゴンを連れ去っていった。まさか、本当に使えるとは……。


 俺達はマスターの店の店員さんを手伝いに行った。最初は緊張していたハクも、徐々に打ち解けていった。


「わぁー、ちょっと、何をするっすか! 」


 ボーーー!


「やっ、やめるっす! 」


 ゴーーー!


 お馴染みの声と、炎が噴き出される音が聞こえて来た。視線を向けると、ゴンがマスターに完全制御されている。


「すごい、僕もやってみたい! 」


 ハクはそう言うと、マスターの元へと駆け出した。


 その無邪気な後ろ姿はどこにでも居る、少年のそれだった。


「マスターここですか! 」


「そうだ、そこをゆっくり引っ張れ」


 ボーーーー!


「やったぁ!上手くできた! 」


 ゴーーーー


「もう、勘弁っすよー。何もでないっすよーー」


 ボーーーー!



 ハクの楽しそうな声に、()()蹲る小さな背中の()が重なる。


 悲しい過去は変えられない。でも、未来はいくらでも楽しくできるのだ。

 あの辛い記憶が、たくさんの楽しい思い出で少しづつ上書きされればいい。


 ハクのお父さんも、ハクの笑顔を望んでいることだろう。



◇◆◇



 テーブルにカレーとサラダが並べられた。

 何処の世界でも、キャンプにはカレーだと、相場が決まっているようだ。


「「「いただきまーす! 」」」


 ハクの朗らかな掛け声で、朝食がスタートした。俺達は新たに加わった、ハクの為に自己紹介を行った。


「これ、ハクくんが切ってくれたんですよ。

 凄く手際がよくて、助かりました。」


 店員さんが言った。

 ハクは父親と二人暮らしだったらしく、日頃から料理をしていたようだ。


「火起こしもセンスが良かったな。龍種の制御は達人でもなかなか難しんだが、1発でこなしおった」


 マスターが続けた。

 ハクは嬉しそうに、微笑んでいる。


 その横で、ラヴォア博士が呆れたように呟いた。

「竜種で火起こし……。そもそも、そんなことができるのは、お前ぐらいだろう」


 散々こき使われたゴンは、ポケットの中でお休み中だ。後で食べれるように、取っとやらねば。


「ハク、お代わりを頼む! 」


「はいっ!! 」


 ピロロがハクにお皿を差し出すと、最高の笑顔でよそいにいった。


「俺様の分が無くなるじゃねーか! ハク、取っといてくれー! 」


「はーい! 」


 忙しく動き回るハクは、輝いていた。


 デザートに、マシュマロを焼いて食べた。

 串に刺して表面を炙る。

 その炙った箇所をスルッと引き抜いて食べる。

 マスター曰く、これが通の食べ方らしい。


 スラリーにもあげると、だらし無くデローンとなった。

 ハクは面白がって、何度も食べさせている。

 しまいには、一緒になってデローンとやっていた。


 取り敢えず、元気になって良かった。

 純粋にそう思った。


 ハクの心の中に、新たな葛藤を産むことになろうとは、その時気付きもしなかった。

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