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壮行会

「いやー、今日は一杯釣れてよかった。なぁ!ピロル君! 」


「……」


 博士がわざとらしく、俺に声をかけてくる。

 そっぽを向いて、無視する俺。


「いやー、ピロル君があんなに、スライム達に気に入られるているとは、知らなかったよ!

 彼らは臆病で、こちらが気づく前に逃げるから、なかなか出会えないんだよ! 」


「……」


 興味が唆られる話題で、俺の機嫌を取ろうたって、そうはいかない。


「なぁ! 」


 無視を続けていると、博士はスラリーに同意を求めた。スラリーとは、俺に顔ぺチャしてきたスライムの名前である。


 俺達は今、ルブルム城へ帰るため、馬車に揺られていた。

 水を張った樽を乗せ、スラリーも湖から連れてきた。ぷかぷかと気持ちよさそうに浮かんでいる。


 ペチャッ!


 お馴染みの効果音に、思わず博士の方を向いてしまう。


「ふはははっ」


 顔面スライムまみれで、ずぶ濡れの博士をみて思わず、笑ってしまった。


 スライム越しに、満面の笑みの博士と目があった。顔に『スラリー、グッジョブ! 』と書かれている。


「俺、まだ、博士のこと許していませんから。」


 無表情を取り繕い、言い放つ。


「一人で茂みに逃げだして悪かった。そして、助けもせず、研究欲に呑まれたことも謝る。何でもするから、許してくれっ! 」


 博士が土下座しそうな勢いで謝った。


 スライムまみれで謝られてもなぁ。

 これ以上、無表情でいることに耐えられそうもないので、許すことにした。


「分かりました。スラリーに免じて、晩御飯のデザートで手を打ちましょう」


「ばっ、晩御飯のデザートっ!! 」


 博士の声が裏返った。


「嫌ならいいですよー」


「い、いえ、嫌では、ありません」


 博士が明らかに落胆している。


 樽に戻されたスラリーは、楽しそうにぷかぷか揺れていた。



◇◆◇



 所は変わって、またまた、料理長室である。

 明日の教帝聖下救出作戦出立を受けて、壮行会を開いてくれたのだ。

 シマさんいつも、すみません。


 今日の主役は、博士が釣った魚達である。


「いやー、今日は一杯釣れてよかった。なぁ!ピロル君! 」


「さすが、博士です」


 博士は、お城につくと早々に、釣果を自慢して回っていた。デザートが確約されているので、話をあわせる。


 シマさんの手にかかると、天ぷら、塩焼き、煮付け、そして、刺身と、同じ素材とは思えない変貌を遂げ、俺たちを楽しませてくれた。


 俺のイチオシは南蛮漬けだ。

 丸みのある甘酢が染み込み、衣はトロッと、身はしっとりふっくら、極めつけに、野菜のシャキシャキ感が合わさり、絶妙のハーモニーを奏でていた。


 もう、死んでもいいや。

 いや、教帝聖下を助けるまではダメだけど。

 とさえ、思えた。


 そして、待ちに待ったデザートである。

 俺の前には、()()ショートケーキが二つ並べられている。


 ラヴォア博士が、恨めしそうにこちらを見ている。当然、無視である。


 全層を1口で食べられるように、フォークを縦に入れ掬うと、隣に浮かんでいるスラリーに食べさせてあげた。

 椅子も用意してあげたのだが、樽が余っ程気に入ったようで、出てこなかったのだ。


 水の中で、デローンとぎりぎりまで広がった。たぶん、頬っぺたが落ちたんだろう。

 その様子に、思わずニヤケていまう。

 余りの可愛さに、何度も繰り返してしまった。


 俺がスラリーに気を取られていると、白い2つの影が前を横切った。


「!? 」


 皿に目を落とすと、2つのケーキが忽然と姿を消していた。


 影が通り過ぎた先に視線を移すと、ショートケーキ形に膨れた、2匹の白蛇がいた。


「お前ら、俺のショートケーキ食べたなっ!! 」


「言いがかりもたいがいにしやがれっ! ケーキなんて、しらねーよ、なぁ」


「知らないっす」


 スネーク兄弟が抜け抜けと答えた。

 俺が立ち上がると、博士の方へ逃げようとする。


「博士、そいつ等を捕まえて」


「私は、中立だ」


 博士がこれ見よがしに言った。


「はーっ!かーっ!せーーー っ!! 」


「私が捕まえてやろう」


「私もお姉様に加勢しますわ」


 ピロロとティルスが参戦する。


 シマさんは、それを笑いながらみていた。





 こうして、騒がしくも平穏な俺達の夜は、あっと言う間に更けていったのだった。


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