三岐黒龍②
俺達は一斉に、四方に跳んだ。黒炎が交錯しながら追撃してくる。
黒龍の怒りは凄まじく、俺達のあらゆる攻撃を跳ね返した。
緑炎は黒炎に呑み込まれ、赤毒は色素諸共蒸発した。これは、物凄いことである。硫酸は沸点が300度以上と高温で、蒸発しにくい物質なのだ。それを一瞬で蒸発させ尚且つ、炎の勢いが衰えないのだから、正に化け物級である。
極めつけが、天候操作無効である。天候操作は、神獣たる龍種にのみ許された秘奥義らしい。
緑龍が咆哮をあげると、それに呼応し雨雲が円を描き出した。それは、もう、圧巻だった。
……のだが、三頭の黒竜が軽く吠えただけで、雨雲が吹き飛ばされ、広大な青空が顔をだしたのだ。
興醒め、ならぬ、叫覚めもいいところである。
当然、俺やピロロの遠隔攻撃など、赤子の手を捻るように弾き返された。
逃げながら隙を付くことを余儀なくされたのだが、此方の攻撃が通らないので意味がない。
俺たちに残された選択肢は、酒に酔わせて寝込みを襲うか、封印するかの二社択一であろう。
お分かりの通り、そう都合よく酒などないので、消去法により封印だ。といっても、知識も技量もない。もしかしたら、ピロロか緑龍あたりは知っているかもしれないが、今、聞き出してそれを実行する余裕は誰にもない。
ここで俺はあることに気づいた。目の前に、神獣に対抗出来うる伝説級の王蛇がいることに。ドン・スネークなら、石化による封印ができるのではないか。
早速、俺は思念通話で聞いてみた。
(ドン・スネーク、きこえるか)
(なんだ。この忙しい時に、うるっせぇな)
(お前、石化とか出来ないのか)
(出来るっちゃあ、出来るが……な)
どうも、歯切れが悪い。
(黒龍は動きを封じるしか、倒す術がない。やってみてくれ)
(仕方ねえなぁ。絶対、俺様の方を向くんじゃねーぞ)
ドン・スネークは渋々だが、引きうてけくれた。
皆で軽く打ち合わせ、作戦を実行した。俺とピロロ、そして緑龍は、黒竜を中心に1点で交わるように飛んだ。三頭は混乱し、一瞬動きが止まった。
と同時に、辺りが赤黒い光に包まれ、黒龍が足元から、赤く石化……というか結晶化していく。
徐々に広がっていき、首の付け根まで達した。
「あっ、不味い……」
ドン・スネークの間抜け声と共に、禍々しい光が消えた。ドン・スネークをみると、白蛇に戻っているではないか。察するに、色素を使い果たしたようだ。
黒龍が首を動かそうと藻掻いている。表面の結晶化部位に小さなひびが入った。どうも、内側から石化しているのではなく、外側を結晶コーティングしているらしい。
「なんで、そうなるんだよっ! 」
俺は慌てて、黒龍に駆け寄った。黒龍の動きは激しさを増し、ひび割れがどんどん大きくなっていく。足元まで達する既のところで、黒龍に触れることができた。と、同時に多重結界を展開しつつ、『化学者の手』を介して色素を流し込む。
ひび割れが修復され、結晶化も進みだした。黒龍が異変に気づき、俺に攻撃を集中してきた。結界を張っているのに、焼け死にそうである。
ピロロと緑龍が、黒竜の意識を削ぐべく攻撃を仕掛けているが、奴は見向きもしない。
俺と黒龍の消耗線になった。結界は張った傍から壊されていく。3頭からの一斉攻撃だったのが、次第に2頭に、そして、一対一になった。
緑龍が1頭に絡みつき、もう1頭をピロロが真っ赤な大太刀(たぶん、色素で作り上げたと思われる)で翻弄してくれたのだ。
奴らの動き回る首を結晶化するのが難しく、一進一退の攻防が続いていた。
一瞬の隙をついてピロロが俺にサピグメントを投げて寄こした。その弾丸は俺の結界を突き破って、スっと口へとおさまった。危うく、喉を突き破りそうな勢いである。
身体中を色素が駆け巡る。その全てを、黒竜へと叩き込んだ。
あれだけ苦戦したのが嘘のように、一瞬で黒龍は動かなくなった。シマさん様々である。
俺はその場にへたれこんだ。身も心もボロボロである。
遠くで、歓声があがっている。皇帝陛下御一行が、絶妙なタイミングでご到着されたようだった。




