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ラズワルド卿救出

「どなたか存じませぬが、お助け頂きありがとうございます。拙者はラズワルドと申します」


ピロロが救出した騎兵が自己紹介した。


穏やかに語っているが、動きに全く隙がなかった。発せられるその独特の雰囲気から、相当の達者であることが分かる。


身につけている甲冑は、分厚く頑丈そうで、細部まで綺麗な装飾が施させていた。色素(ピグメント)の使いこなしで大体予想はしていたが、やはり、シアニン帝国の幹部のようである。


ある程度の状況を説明してくれた。緑士が蜂起し緑龍があばれだしたこと。

それを、討伐するために青龍とラズワルド卿率いる軍団が派遣されたこと。緑龍と戦う前に、青龍が謎の黒い結界に、捕われてしまったこと。皇帝陛下に援軍要請しつつ、緑龍討伐を続行したこと。

そうこうする内に、背後から青士団に襲われ、隊がボロボロにされたこと。そして、現在に至ることを、掻い摘んで説明してくれた。


どうも、話しを聞く限り、ただの緑士による内乱ではなさそうである。

最後に、この状況を打破するために協力して欲しいとお願いされた。得体のしれない俺らに頼らなければならない程、戦況は逼迫しているのだ。


ラズワルド卿の話に、偽りはなさそうだった。そして、なによりシアニン帝国皇帝陛下のことを心配しているのが伝わってきた。


共闘を申し出、こちらの情報も開示した。ヴァイオレッタ姫の救出という俺たちの目的と合致したためだ。


まず、ラズワルド卿の軍隊救出が最前の課題だった。


俺達は今、平原の外れにある木陰で話し合っていた。ここからならば、青士同士の戦いが一望できた。緑龍とドン・スネークは既に主戦場を移したようだ。


数の上で劣るラズワルド卿の軍隊が壊滅するのは、時間の問題だった。俺達は策を練ると、早々に行動を起こした。


俺は戦況を見渡せる位置に浮遊した。ピロロがラズワルド卿を5キロほど離れた地点で下ろす。青士団に向けてラッパ演奏により、集合の合図を送ってもらうためだ。


演奏が始まると、それまでバラバラだったのが嘘のように、1つの意思を持ち大軍が動きだした。


俺はシアニン種の色素(ピグメント)に全神経を集中した。合図とともに、動かなかった個体を瞬時に割り出し、結界で捕縛した。その数、30万を優に超えていた。

人のなせる技では無い。しかしながら、都合がいいことに、俺は人ではないのだ。

現実的な所をいうと、色素(ピグメント)に若干の違いがあったのだ。なんとなく、黒ずんでいるように感じた。その二つの要素で篩にかけ、実行したのだ。多少の取り逃しは、ラズワルド卿が対処してくれるだろう。


結界内では、青士達が内側から突き破ろうとして苦戦している。当然である。結界にはフタロシアニン種の色素(ピグメント)を練り込んでいた。同種の攻撃は受け付けないのだ。


幸い、そこまで力のある騎兵はいないようだった。派遣主は、ラズワルド卿の軍隊を数の利で殲滅する作戦らしい。


ラズワルド卿が隊の掌握と異分子排除を終えたようだ。各隊の隊長クラスであろうか、ラズワルド卿の周りには、屈強な男達が集まっていた。ソルも手足となって働いていた。国が違えど、暑苦しい者同士気が合うようだった。


1人の男がラズワルド卿の前で捕えられている。青士団に紛れていたらしい。俺の包囲網を掻い潜るとは、なかなかやりおる。

ラズワルド卿のスキをついて襲いかかったところを、ソルに取り押さえられたらしい。珍しく、役に立ったのだ。


囚われてた男はサクソンといった。シアニン帝国の実力者インディゴ卿の側近のようだ。


「俺は何をされても、口はわらんぞ」


サクソンが鋭く言った。ラズワルド卿が、部下達に目配せをする。サクソンが木陰へと連れていかれた。


「ぎゃーーーっ、わはははははははははっ」


大絶叫が聞こえたと思ったら、即、大爆笑に変わる。それが4サイクル程繰り返されたのち、サクソンが連れられて戻ってきた。あっさり口を割ることにしたらしい。


サクソンの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。この短時間で何があったのか、ほんの少し気になった。ラズワルド卿に確認すると『大人の秘密』だとはぐらかされた。


サクソンが明かした情報によれば、インディゴ卿は緑士の反乱を利用し、クーデターを起こしたようだ。それも、緑士のトップであるジンク王子に皇帝陛下一族殺害の濡れ衣を着せ、始末することで正当性を維持しつつ帝位を継承する腹積もりらしい。

どうも、その裏ではニガレオス帝国皇帝ボン・ブラックの力が働いているようだ。青龍封印の件も、一枚噛んでいるらしい。凡そ、青龍を抑えることでシアニン帝国の弱体化を狙っているのだろう。


いくら命令だとはいえ、これだけの大群が同士内に加担するのはおかしい。皇帝陛下の命令で緑龍討伐に向かっているのだ。それを撃てば逆賊になることぐらい、獣の俺にだってわかる。


その疑問を口にすると、皆が一斉にサクソンを見た。素っ惚けた顔をしていたが、ラズワルド卿の目配せを見た瞬間慌てて話し出した。余程、怖い目にあったのだろう。


皇帝陛下への忠誠を削ぐべく洗脳されているらしい。俺が感じた色素(ピグメント)への違和感はそれが原因らしかった。


ラズワルド卿が部下に何かを命じた。部下がすぐさま弓矢を持ってきた。それを受け取ると、懐から青い宝玉を取り出し先端に括り付けた。皇帝より賜りし宝玉のようだ。

そして俺に、ラズワルド卿が矢を放つと同時に、結界を解くように言った。


俺は再度、結界に捕らえた青士団が見渡せる位置に浮遊した。

ラズワルド卿が合図とともに、弓矢をはなった。宝玉が青白く輝く。その光が矢全体に広がり一筋の線となって、緩やかな弧を描きながら突き進む。

最頂部から下降軌道へ入った瞬間、数十万もの光の束に分かれ、兵士たちに降り注いだ。俺が結界を解くと、兵士達の心臓部へと吸い込まれていった。青士団が青く輝き、闇夜を明るく照らした。


「これより、皇帝陛下をお救い致す。戦う意思のあるものは剣をもて! 」


「「「おうっ! 」」」


ラズワルド卿の号令を機に、総勢60万弱の青士団が結成された瞬間だった。


もうそこには、俺が感じた違和感は微塵も存在しなかった。ただ、ただ、澄んだ青が全員の行く末を照らしていた。

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