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銅士討ち

俺達は今小高い丘を登っていた。ここを超えたらシアニン帝国皇帝陛下の居城、ブルーフィールズ城が見えてくるらしい。


「ギャオーーーーン! 」


恐竜の鳴き声のようなものが、暗闇を切り裂いた。


「姫様は私がお守りしますっ! 」


カモフラージュの青い軍服をきた、若い衛兵が俺とピロロの前にたって剣を構えた。


「いやっ、明らかに遠くから聞こえてるだろ」


俺の突っ込みを諸共せず、剣を構え左右を威嚇している。ピロロはというと全く気にせず、奴の横を素通りする。


それに気付くと、小走りで前に進み


「姫様は……! 」


「もういいよっ」


俺の叫びは虚しく、誰にも届かなかった。


このやり取り、実は二度目であった。ほんの数分前にも、同様の鳴き声と彼は闘っていたのだ。


ピロロと俺、そして、ソルフェリーノは(正確には蛇も)ブルーフィールズ城を目指していた。


ヴァイオレッタ姫の元へと向うにあたり、案内役に選ばれたのがソルフェリーノだった。

ヴァイオレッタの遠戚で、姫が嫁いだ後も定期的に遊びに行っているらしい。


実の所案内役とは、ただの名目で、マドムさんがピロロの護衛に付けたようだ。役に立つのか、いささか不安だが、いないよりはマシ?なのか。


「先日は失礼いたしました。このソルフェリーノ、命に変えてご両名をお守りいたします」


初対面(正確には違うようだが)の第一声が、行成の土下座だった。


俺はその勢いに呆気にとられた。ピロロはというと、見向きもしていない。

周りの目もあるので、立つようにお願いすると、頑なに固辞する。その面倒臭いやり取りを何度か繰り返した。


「わー、もー、分かったよ。なんでも許すから!それで、俺たちを死守しなよ! 」


俺の投げやりな恩赦で、やっと、まとも話せるようになった。


こいつが、何を隠そう、マスターのところで、俺をか『卑しき獣』扱いした、張本人だったのだ。そのことを仰々しく詫びていたらしい。

この男は、どうも暑苦しく空回りするタイプのようだ。早くも熱中症になりそうだった。


ソルは丘の頂上につくと、構えていた剣を下げた。


「ブルーフィールズ城が見えますよ。あっ、緑色の龍が、遠くで暴れています」


俺とピロロも、奴の隣に並ぶ。そして、同時に翼を出現させ飛び立った。


「あっ、ちょっ、待ってくださいよ~」


ソルが飛び跳ねながら、走って追いかけてくる。


「チッ」


俺は内心舌打ちをし、奴の背中に翼を出現させる。


飛翔はピロロピロール種の能力だった。五角形を縦長に引き伸ばした二対の翼により飛行出来るのだ。


今や、俺は獲得した色素(ピグメント)を自在に操れるようになっていた。

ソルはヴァイオレッタ姫と同じキナクリドン種である。奴の色素(ピグメント)にピロロピロール種の能力を融合し、翼を出現させたのだ。


ここまでの道中も飛んで来たのだが、目立つことを警戒し、途中で徒歩に切り替えた。


俺は出立前に、研究室で博士立ち合いのもと、種の覚醒実験を行ってきた。それで無事、アントラキノン種も覚醒した。

飛翔能力にアントラキノン種の能力を複合させると、音速を超えた飛翔も可能だった。朱雀の影響が強く出ているようだ。

実は、シアニン帝国の最上位種であるフタロシアニン種も覚醒していた。まだ、内緒なのだが。


博士が言った通り、アレルギー反応が酷かった。これまでと違い、中々熱が下がらず嘔吐を繰り返した。2日程寝込んで、やっと、覚醒したのである。これも、ピロロには内緒にしていた。心配するだろうから。


ピロロを先頭に、俺とソルが左右を固め飛行にする。要領が良いようで、最初こそバランスを崩して落ちそうになっていが、数分で自分の能力のように使いこなしていた。


緑の龍が鮮明に見えてきた。足元の兵士をなぎ倒し、口から緑炎を吐いてやき尽くしている。銅の炎色反応のようだ。


その周りでは、青い鎧に身を包んだ兵士同士が戦っていた。

内乱だから当然かと納得していると、一際青く輝く剣で緑の龍に背後から切り込む騎兵の姿がみえた。


「ガキーーーン! 」


鋭い音とともに、件の騎兵が弾かれる。龍の鱗は、想像以上に硬いようだ。

緑の龍は一瞥するとそちらへ向けて、緑炎を吐き出す。と、同時にピロロが飛び込んだ。


「うそだろ! 」


ピロロと騎兵を覆うように巨大な結界を出現させる。ピロロが騎兵を救って飛び立つのと、結界が破壊されたのがほぼ同時だった。


緑の龍は諦めない。騎兵を抱いて飛翔するピロロ目掛けて、緑炎を噴射し続けている。このままだと、撃ち落とされるのも時間の問題だ。

俺は、異次元ポケットからひみつ道具……じゃなくて、白蛇を引っ張りだし緑の龍目掛け、投げつけた。


「おわぁっ! 急に、何しやがるっ! 」


「ピロロがピンチだ。緑の蛇を退治してこい! 」


「緑の蛇? この俺様を差し置いて、あいつ、蛇を名乗ってやがるのか。このドン・スネーク様が試してやろう」


ちょろい、奴だ。


突如として、五角形の翼を持った深紅の大蛇が出現し、緑の龍に体当たりを食らわせた。きっと、周りの兵にはそう見えたはずだ。


緑の龍はバランスを崩し、その場に倒れた。その隙に、ピロロが騎兵を安全な場所へと運んでいく。その後ろ姿を恨めしそうに眺めた後、何倍もに増幅した怒りをドン・スネークにぶつけるのであった。

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