寄り添いの鉄槌 (★教帝聖下視点)
「あらっ、まだ、立つの? 」
ゆらりと立ち上がった私を見て、シスターリアがいった。
無数の水晶片に襲われ、満身創痍だった。
さらに、長時間の戦闘で色素はごっそり持っていかれている。
聖剣を維持するためには、大量の色素が必要なのだ。そして、攻撃にも色素を纏わせるため、二重に消費することになるためだ。
「何か、言い残すことはお有り? 」
シスターリアが勝ち誇った笑みを浮かべながらいった。左眼の色眼は、すでに、解かれている。
舐められたものだ。うまい具合に。
「確かに、色素総量、その操作術、そして、剣技に至るまで私は貴女に完敗だ」
「あら、教帝聖下ご自身が認めて下さるなんて、光栄だわ」
「しかしながら、それでも貴女は教帝聖下にはなれない。
なぜなら、色素女神様のお心に寄り添うという一番大切なものが、私に劣っているからだっ! 」
「なっ!?
ふんっ、所詮負け犬の遠吠えね。相手をするのも馬鹿馬鹿しいっ!! 」
そう叫ぶと、シスターリアが動き出した。
「そして私は、負けてもいない」
同時に私も行動を開始する。
シスターリアが私に迫ってきた。
私はというと、空気中へ色素流し込んだ。
次の瞬間、空気中から無数の白色光線が放たれ、シスターリアを全方位から貫いた。
振り抜かれた聖剣は、私へと届くことなく消滅する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあっ!! 」
凡そ人間のものとは思えない叫び声が、神殿内にこだました。
シスターリアは私を侮っていた。
それはもう、わざわざ【色眼】を用いて互角を演出するほどに。
私がよろけるのだって、見えていたに違いない。
あそこで、私を一突きしていれば、全てが終わっていたのだ。
しかし、彼女はそれを選ばなかった。
数手先を読んだのだろう。
水晶で防げると思った私が、絶望し痛みつけられる未来を。
より苦痛を与えられると知った彼女は微笑み、そして、その未来を選んだ。
水晶が爆砕させたのは私だ。あの水晶は元々、ハクと私の色素で出来ているのだ。それを操るのは造作もないことだった。
シスターリアの攻撃が、切っ掛けではあったが。
斬撃により爆砕されたと見せかけて、一部は私を攻撃させ、残りを微細な結晶として空気中に浮遊させた。あとは、色素光線を流し込めば、反射増幅を繰り返し、シスターリアに聖なる光の鉄槌を下してくれるというわけだ。
彼女の気持ちへの寄り添い勝ちと言ったところか。寄り添いながら、寝首をかいたのだが。
もしかしたら、彼女はすでに、人体を超越していたのかもしれない。思考が余りにも黒に感化されすぎていた。色素操作術に異様に長けていたのも、その為だろう。
「っ!? 」
一切の痕跡を残さず消滅した彼女を思い、そんな事を考えていると、二体の色素女神像から無数の漆黒兵が湧き出すのが目に入ってきた。
「あの尼っ!! 」
思わず叫んだ。
消滅を悟ったシスターリアは生存を放棄し、持ちうる全色素を神殿に流し込んだようだ。
神殿の制御を試みるが、容易に弾かれる。
四の五の言っていられる状況ではない。
私は聖剣を再び出現させると、漆黒兵へと向かっていった。




