~転生?変身?化学反応?~
何度もやった実験なのに。
それは、唐突に起こった。
見事なまでの大爆発。
虹色の爆風が誘う激痛と共に、俺の体? いや、細胞? いやいや、組成分子? は宙に舞い上がった。
◇◆◇
俺の名前は柊僚、理系大学の4回生、専攻は化学。院試にも無事受かり、大学院進学も確定した。
研究室に配属されて約半年。最初は先輩に付きっきりで教わっていた実験にも慣れ、研究生活を謳歌していた。
ごり、ごり、ごり……
早朝、無人の研究室にその音が心地よく木霊し、芳醇な香りがたちこめる。
「1、2、3、…、30」
時計をみながら正確にカウントし、さらに、円を描くようにゆっくりとお湯を注ぐ。これが俺のルーティン。
自分でいれた至高の一杯に舌鼓を打つ。
普段なら誰にも邪魔されない、いや、されたくない時間は、勢いよく開けられた魔の扉により、終わりを告げた。
「あ、柊、おはよ。原料化合物を今日の夕方までに合成しといて。俺、夜使いたいから」
そう告げて先輩は俺の返事を待たず去っていった。
何度もやった実験。その慢心が出たのかもしれない。はたまた、嫌々ながら取り組んだことを、化合物に見透かされたのか。
粉体Aを液体に溶かし、粉体Bを加え残留物を回収するだけの簡単な実験…のはずたった。Bを加えた瞬間、唐突に怒る大爆発。そして、冒頭のシーンに繋がるのである。
誰もおらず周りに被害が出なかったことのみが、不幸中の幸いだろう。
神聖な研究室を派手に荒らされたことに気付いた教授が絶叫し怒り狂ったのは、それから数時間後のことであった。