毎日三枚小説『アブラゼミ』
留置場に入れられた僕は心良い安堵の気持ちに浸っていた。
「何笑ってる。人殺しが」
刑事がそういう。いわゆる事情聴取という物なのだろうが、別にどうだっていい。もうすぐ楽になれるんだ。
「なんで殺したんだよ。自分の実の兄だろう?家庭にも問題はない」
「蝉のせいですよ」
僕はそういって刑事の顔を見ないようにした。刑事は理解できないとでも言うように首を振った。
蝉の思い出はまだ10歳くらいの事だろうか?今でもはっきりと覚えていた。
「なあ雄二なんでミンミンゼミがミンミンゼミって言われるか判るか?」
兄はそういって蝉の鳴く林の方を見た。ゴンの散歩に出かける途中、外は眩しさで一杯な夏だった。
「ミンミン鳴くからでしょ?」
自信を持って僕は言った。
「そうだよ。ミンミンゼミはミンミン鳴くからミンミンゼミという。じゃあアブラゼミはなぜ油蝉と言われるかわかるか?」
からかうような気分の悪い笑みを浮かべて兄は言った。僕には何故油蝉が油蝉と呼ばれるのかしらなかった。だから僕は黙るしかなかった。
「誰にも言わないって約束できるか?」
「うん」
僕がそう答えると兄は手で筒を作ってこっそりと言った。
「油蝉ってのはなあ、燃えるんだよ。それこそ油みたいにガンガン燃える。まるでなんかの爆発みたいに綺麗な色をして燃えるんだ。内緒だぜ?」
「どんな色?」
「さあなあやってみないと判らないなあ」
兄は笑ってそんな事を言っていた。
僕はずっとその事を忘れているはずだった。小学六年生の夏の日。高校生になった兄は犬の散歩なんかする暇がないって言って僕に仕事を押し付けた。犬は自分と同じ位大きなシベリアンハスキーでいつも僕が引きずられてばかりだった。
その日あの公園で犬が鼻を利かせ歩き回っているとジージージーと蝉が地面でばたついていた。ジージー鳴くのは油蝉。僕は兄の事を思い出して、ふとライターを探しまわった。
公園に落ちた小さなライター。昔からライターは好きだった。僕は蝉の羽を指でつまみゆっくり火を近づけた。
蝉は羽を必死にばたつかせて鳴いた。今となって考えればなぜ兄の言った事を行ったのかわからない。
「なにやってるの?」
振り返るとそこにいたのは幼なじみだった。僕は慌ててライターを隠したが彼女にはばれていた。黒こげになった蝉を見て彼女は言った。
「あなたって最低な人だね」
胸が苦しい。それが僕の初恋だったってしったのは、クラスで避けられてからだった。
次の日から僕の周りには人が寄りつかなかった。誰も話しかけもしないし、時々侮蔑的な視線を投げかけるだけになった。
彼女がみんなに話したのだと悟った。僕はそして毎日毎日油蝉を捕まえては火を付けた。
「僕は蝉になりたかったんですよ」
刑事に事の経緯を話し終わると僕は言った。
「蝉は2週間だけしか生きれないし煩わしく鳴いているだけでしょう? 僕はずっと苦しかった悲鳴を叫びたかった。だからもう蝉みたいに短く命を終えたかった」
「だから兄に火を付けたと」
刑事は言った。
「そうです。そうすれば僕は死刑になれると思って」
これまで黙っていた刑事が思いきり机を叩いた。
「あまったれんじゃねえ!クソガキが」
胸ぐらを捕まれて僕は椅子から立たされた。
「問題が起こったのなら何故解決しようとしない。自分の中で苦しんでそれが誰かに伝わるとでも思ってるのか?」
息が詰まりそうだった。
「その君の幼なじみに会った。彼女はお前の為に泣いていたぞ」
僕は驚いた。
「お前の刺した兄もな、お前に恨みなんて持ってない。何がお前を突き動かしたのか聞きたがってる。彼女が本当にクラスの奴に言ったって思うのか?兄がお前の事を考えてないと思うのか?」
僕は目の前が暗くなっていくのを感じた。
「本当に蝉になりたいなら、一生懸命生きて贖罪していくしかないんじゃないのか?」
刑事はそこまで言うと取り調べ室から出て行った。
毎日小説書くって凄く凄く変態だよな。どうしたらもっと効率よく書くことが出来るだろう。なんとかまた次の話も考え中。推敲せずに出さなきゃいけないのでどうしても読みにくい所があるかと思いますがどうか寛大に気持ちでお願いしますm(_ _)m