ビキニアーマーたわわ補正付き
エイミーとミレイは冒険者向け装備を扱う中でも評判の大型店に足を運んだ。
憧れのカスタム装備。欲しい機能、思い通りの造形に色。内容次第では半月近くかかるらしいが、それでも構わない。今日のこの買い物の為に依頼をこなし、せっせとお金を貯めてきたのだから。
「じゃあここに3時で」
「わかった。また後でね」
◇◇◇◇◇◇
ミレイと別れたエイミーは、アーマー売り場へとやって来た。
そこには様々な型の鎧が並んでいる。完全オーダーならまずは土台となる鎧を決めなければならない。そこに装飾、便利機能などを追加していくのだ。例えば火耐性を付けるとか、好きな模様を入れるとか。
ある程度まではセット価格となっていて、特殊な材料を使わない限りセット価格の範囲で十分だと先輩たちから聞いていた。
シンプルな型の隣には完成品も並んでいる。参考の為の見本も兼ねているのだろう。
──これは一つだけ属性を選べるけれど……あ、魔石の付け替えができるんだ。上級魔石全属性セットも付いているなら、この値段も納得。でも明らかに予算をこえているし、初心者を卒業した程度の自分が持つのは……。上級冒険者にでもならないと相応しくないと思うし、他人からも言われそうよね。
属性の耐性効果なら少し劣るものの他の装身具でも得られる。エイミーはそう気を取り直して他を見る事にした。
──ビキニアーマー、か……。
周囲を見渡してすぐに目に入ってきたビキニアーマー。さすがは大型店、品揃えがひと味違う。近所の武具店にはなかった品物だ。
聞くところによると、お色気重視でありながらその分機能がてんこ盛りらしい。男性には大人気、しかし女性には敬遠されがちな代物。それでも恋人や周囲におだてられて購入する女性は一定数いるそうだ。きっと心の底では憧れていたのだろう。
エイミーは文句無しの美人である。鍛えられた肉体はスラリとして優美だ。エイミー自身も「素敵な女剣士様」と女の子に憧れの目を向けられるのは気分がいい。美尻美脚は彼女も誇っている。しかしただ一点、一箇所、その部分だけがどうにも満足いかない……。
ふっ、とエイミーは自身の胸に視線を落とした。
全く無い訳ではないが、巨乳にはほど遠い。ミレイとは別の仲間、神官コンビの女たちの姿が思い浮かぶ。
主張の激しい爆乳を持つあの二人。明らかにその二人の胸に目が行っている男性陣二名。
──気付かれてないと思ってた? バッチリ見ちゃったよ股間の状態。聞いちゃったのよ「胸の分あの二人はマイナス」なんて話しているの。ちくしょう女の価値は胸の谷間で決まるのかよ! 顔は負けていないのに! むしろ胸以外は勝ってね? 勝ってる絶対勝ってる!
「ふー、ふー……」
エイミーは溢れ出そうな怒りと闇を抑えるために深呼吸を繰り返した。
──危ない危ない。……でもどれだけ機能がてんこ盛りなのか、それだけは見ておこう。
エイミーは説明文が読める位置まで足を進め……そして硬直する。
『たわわ補正付き』
その一文に、目が釘付けとなった。
──待って、いくら何でもこれは……痛い女扱いされる。いやでもこれまで鎧で隠れていたし、Dカップの人でも鎧の上からは分からなかったんだし……。
『幻が該当箇所を包む事でボインな谷間を作ります。上下セット加工でキュッと締まったウエスト、ふっくらしたセクシーな美尻も作れます』
『上下セット加工が不要な場合、同額の別機能を加えるか値引きとなります』
何て良心的なのだろう。エイミーの心は揺れる。
マネキン人形にもバッチリ効果を発揮している『たわわ補正』機能。こんなふっくらおっぱいをマネキン人形は持たない。なんという説得力!
たわわ。たわわなおっぱいが幻とはいえ手に入る。
たわわ、たわわ……たわわなおっぱいが付いた自分。
イケるんじゃない? 完璧じゃない?
揺れる。グラグラ揺れる。エイミーの揺れる心は「購入」の文字に少しずつ寄っていく。しかし……。
──でも、痛い女扱いされそう。
冷静な部分が待ったをかける。素敵なお姉様像が崩れるのは嫌だ。あの爆乳女たちへのモヤモヤを耐えるには、同性の憧れという支えが必要なのだから。
そっと値札に目を移す。こんな素敵な機能、きっとお高いに違いない。その金額を目にすれば諦める事が出来る。そう考えて……。
「えっ……!!」
お値段、予算内だった。もっとぼったくれるだろうに、まさかのお手頃価格。基本料金内で選べる他の機能も中々良いものだし、なんてお得なのだろう。
たわわ、たわわが手に入る。プルンと揺れるたわわなおっぱい。
たわわ……たわわ……たわわがプルンッ。
書いてあるのよ『走ると揺れます』と。
──大丈夫、きっと素敵なお姉様像も壊れない。今の鎧なら多少の大きさは誤魔化せるもの。まだ十代、いきなり育っても不自然じゃない。このくらいの巨乳なら平気平気!
「あのっ、すみません!」
購入を決めたエイミーは、店員に声をかけた。
◇◇◇◇◇◇
カタログの中からデザインを選び、色を決めたりしていたら、少々時間がかかってしまった。急いで待ち合わせ場所に向かう。十分以内ならセーフだろう。
そう考えていたエイミーだったが、反対方向から慌てた様子のミレイがやって来る。しかも満足そうな笑みを浮かべて……。
「そっちにもあったんだ」
「女性向けの体装備全般に付いているそうよ」
ミレイもまた、胸が小さい。文句無しのスリム美少女なのだが、胸がもう少し欲しいと本人は思っていた。そこに飛び込んできたたわわ補正付き装備。心の揺れ具合いや値札を見るまでの思考がほとんど同じと分かり、二人は爆笑し合った。
「来週が楽しみ」
「本当ね」
ウフフと笑い合う二人。
たわわ、たわわ、プルンとたわわに揺れる胸を想像し、それぞれ幸せな気分に浸る。
彼女たちは知らない。たわわ補正装備を身に着けて向かった先で、天然おっぱい(巨乳&爆乳限定)主義者のパーティーリーダーに追放を言い渡される事を。