クリスマス大作戦?(2)
クリスマスをやろう!
なぜかそんな結論にいたった面々だが、真冬に唐突にそんなイベントやろう!って思いつきで言ってできるわけがないだろうと高を括っていたのだが……
「できたよマスター!」
笑顔でリーナがココと一緒に禍々しい邪悪なオーラを放つ異物を抱えてギルド本部の客室にやってきた。
「えっと……なにこれ?なにかの儀式に使う呪物?」
どう見ても誰かを呪い殺すアイテムにしか見えない何かに小さな髑髏やら何かの動物の骨やら気味の悪いオブジェが無数に取り付けられていた。
え?何これ?怖い……すごく怖い。
しかしリーナは。
「マスター何言ってるの?マスターに教えてもらったクリスマスツリー?ってやつだよ?必要なんでしょ?飾り付けもバッチリしといたし!」
そう笑顔で言ってきた。
なるほど、リーナ曰く、これはクリスマスツリーらしい……
うむ、えらく禍々しいクリスマスツリーだなこれは。
自分が幼少期にこんなクリスマスツリー見せられたら、きっとトラウマでクリスマスなんてやらなくていい!ってなんてたと思うぞ。
「いやリーナちゃん、クリスマスツリーはもみの木っていったじゃん!あとかざりつけもこれ、オーナメントはこんな呪われそうなものじゃないからね?」
「え?でも宗教儀式なんでしょ?」
「いや、別に怪しい木に怪しい装飾施すイベントじゃないからね?えーっと……まぁ詳しく説明しなかった俺も悪いか。とりあえずこれ見てみ?」
とりあけずスマホで写真をみせてみた。
するとリーナが目を輝かせて。
「わぁ!すごく綺麗!!こんなのなんだねクリスマスツリーって!」
「こんなのなんだよクリスマスツリーって。だからその悪魔を召喚しそうな禍々しいオブジェは廃棄してきてね?」
まぁ、リーナに見せた写真はニューヨークの有名な観光名所にもなるアレだから、一般人のクリスマスツリーとは規模がまったく違うんだけど、どんなものなのかイメージさせるには丁度いいだろう。
しかしリーナは。
「こんな大きな木でないとダメなんですね!わかりました!!ティーくんと一緒にまず木を探してきます!!ココさんも一緒にきてくださいね!」
「えーココ、もう十分手伝ったし、ココこれからカイトさまと一緒にいるから無理ですよ?」
「木を運ぶのティーくんだけじゃ大変だからココさんもきてくださいね!」
「ココ、何度も言ってますけどこれからカイトさまと一緒に……」
「ココさん、約束忘れました?」
リーナが笑顔でそう言うと、ココは少し悩んだ後、渋々といった具合でリーナに従って一緒に出掛けて行った。
多分街の外にちょうどいい木を探しに向かったんだろうが、まぁTD-66とココがいれば安心だろう。
というかリーナのやつ、いつの間にかココを従わせてるな、一体2人の間に何があったのやら……
「まぁ、あの様子じゃしばらくは帰ってきそうにないな」
そう思ってギルドユニオン総本部にでも顔を出すかと思った時だった。
ケティーとリエルが大量の食材を抱えてどこかの異世界から戻ってきた。
「ふぅーただいま、やっぱこっちの世界に戻ってくると寒いね……暖炉だけじゃ限界だよ」
「エアコン設置したほうがええんちゃうか?ほら、マジックアイテムて言い張れば疑われんて」
そんな事を言いながらケティーとリエルは自分に大量の食材を押し付けてきた。
「じゃ川畑くん、お願い」
「いや、突然お願いって渡されても俺はどうしろと?」
「なんやカイト、わからんのかいな?」
「わからんな、さっぱりわからん。口で言ってくれなきゃさっぱりわからん」
そう言うとケティーが呆れた顔を向けてきた。
「リーナちゃんが言ってた事忘れたの?エマちゃんにも川畑くんの料理食べされたい、そしてできればパーティしたい、できるだけ盛大にしたい、街をあげてしたい」
「うん、最後のほうは聞いた事ないというか初耳だな、クリスマスマーケットでも開催するつもりかよ」
そう言ったのだがリエルは無視して。
「まぁ、そないな訳やからクリスマスパーティの料理しっかり頼むわな!うちらは色々準備があるんでこれで失礼すんで!」
そう言ってギルド本部から出ていってしまった。
色々と準備て何するつもりなんだ?
まさか、本気でこの街にクリスマスマーケットを根付かせるつもりなのか?
「さすがにそれはないか……ないよな?……うん、まぁとりあえず料理でも作るか。さて、何を作ればいいのやら」
そう呟いてケティーとリエルが持ってきた大量の食材を抱えて厨房へと向かう。
とりあえず食材を眺めていればアイデアは浮かんでくるだろう。
というか食材の大量すぎて何往復かしないと運び込めない量なのだが。一体、どれだけ作らせるつもりなのだろうか?
「まったく……俺は一体何をやってるんだろうな?一刻もはやく転生者転移者召喚者を見つけて前に進んでいかなきゃならないってのに」
何気なく口にしてふと日本にいた頃を思い出す。
高校では世間に無関心で無趣味であったため、交友関係は狭かった。
自分で言うのも何だが、いわゆるクラスの人気者、中心人物、行事やら何やらがあった時のまとめ役とは縁遠い存在だったと思う。
とはいえ、彼らとは大局的ないわゆる窓際族のボッチたちとも違う。
とりあえず、どこかのグループにとりあえず属してるひとり……学園ものでいえば主人公たちと絡むこともないモブキャラ、客観的に見れば自分はそんな存在だった。
そんなグループでも12月に入り、学期末が訪れ、年の瀬が迫ると嫌でも話題はクリスマスに注がれる。
「聞いたか?隣のクラスのなおちゃん。たけと付き合いだしたんだってよ」
「マジで?最悪……あんなののどこかいいんだよ?なおちゃん趣味悪すぎだろ?オレ結構タイプだったのに」
「まぁ、ひがんでも仕方ないだろ……たけと付き合わなくてもなおちゃんがオマエとくっつく事はなかったと思うぞ?」
「いや、そりゃそーなんだがな?」
そんな話題に特に興味はなかったが、とりあえず相づちだけは打っておいた。
というかなおちゃんってどんな子か知らんし、たけって誰だっけ?まったく知らんわ。
そう思っていると皆が自分に視線を注いだ。
「で、川畑はどうなんだ?」
「どうって何の話だ?」
「クリスマスだよク・リ・ス・マ・ス!何か浮ついた話はないのか?」
「ねーよ、んなもん。その日はバイトだ」
そう言うと皆が納得して頷く。
「だよなーそうだと思った」
「さすが守銭奴、気合いが違うぜ」
「クリスマスよりお金優先ですか」
「誰が守銭奴だ。つーかお前らもバイトしてるじゃねーか、当日入ってないのか?」
そう尋ねると皆が首を振る。
「もしもの時のためにシフトは開けてある」
「そうそう、突然クリスマスに滑り込むように彼女ができるかもしれないからな!」
「出会いは一瞬、それを物にするのも一瞬ってな。クリスマスにシフト入ってたせいでワンチャン逃したらどうする?」
そう言う彼らを見て何とも哀れな気持ちになった。
うん、そうか……まぁ頑張れ、何も起こらないと思うがな?
「というかクリスマスにバイトしてて悲しくないのか?川畑。カップルだらけの街を見て悔しくないのか?」
そう尋ねられたのでこう返事をしてやった。
「あのな?クリスマスに街をぶらついてるカップルを見て憤慨してリア充爆発しろ!って思っても仕方ないぞ?それにな、むしろ相手がいないほうが勝ち組なんだよ」
「ど、どういう事だ?」
「いいか?すでに俺たちの勝利は約束されてるんだ。考えてもみろ、クリスマスの定番曲、クリスマス・イヴにクリスマスキャロル……あれらの歌詞をよく思いだしてみろ?カップルの歌じゃないだろ?」
「……言われてみれば、確かに」
「あれはな、本来ならカップルが聞いて『クリスマスって感じだね!』って歌じゃねーんだ。なのにカップルたちはあれを聞いてクリスマスの雰囲気が出てきたと言い出す。つまりな、カップルたちはあの歌で優越感に浸ってるんだよ!」
「「「な、なんだってーーー!?」」」
「そう、カップルたちは卑屈だからな?あれらの曲を聴いて、かなしーなー独り身かなしーなーでもオレ/ワタシには彼女/彼がいるから勝ち組だよね!って内心勝ち誇ってるんだ。まったく性格悪いぜ!反吐が出る」
「そ、そうだったのか……なんてやつらだ!」
「あんまりだ!」
「ゆるせーねー!」
自分の話に怒りを滲ませる彼らに告げる。
「案ずるな!天はすでに約束された勝利をおれたちに与えている」
「「「そ、それは本当か!?」」」
「あぁ、悪が栄えた試しがないのと同じだ!天はおれたちを見捨てたりしない!いいか?そんな卑屈な感情で満たされた連中の末路は破局しかない!クリスマスというイベントだけ彼氏/彼女がいれば満足なのだ!だから遠からずやつらは破局する!間違いなくな!そして、自信に満ちたやつらは破局によって精神的ダメージを高ずる!イベントが終わればおさらばなの?ってな!そんな連中と違って俺たちは最初からフリーだ!失う物は何もない!だからイベントが終わって破局した彼らを嘲笑ってやるのさ!『独り身を嘲笑って食ったチキンは旨かったか?』ってな!いいか、聖夜に挑む孤高の戦士たちと!そなたらの勝利は約束されている!夜明けは近い」
そう声色を変えて言うと皆が腹を抱えて爆笑しだした。
「あははは!なんだよそれ!川畑!おまえが一番カップルひがんでるじゃねーか!!」
「ひひ!ここまで酷い発想聞いたことがねーよ!」
「あー腹いてー!」
爆笑する皆を見て、自分も「なかなかによかっただろ?」と言って笑った。
そういえば、あいつらはジムクベルト出現の際に無事だったんだろうか?
今まで考えもしなかったが、今になって少し心配になった。
同時に今の自分の状況を見たら、あいつらならどう言うだろうか?
「まぁ、わからない事を考えても仕方ないか……」
そう呟いて厨房に入るのだった。
続く……かも?